目次
Tonal Balance Controlとは?
iZotope Tonal Balance Controlは、市販の膨大な楽曲のデータを元に、
- 楽曲の帯域バランス
- 低域のコンプレッションの度合い
の2点が最適かどうかを判断するためのツールだ。
Tonal Balance Controlが指し示してくれるリファレンスターゲット(=帯域バランスが最適かどうかの指針)は、プロのエンジニアがマスタリングした数多くの楽曲を対象とした、機械学習の結果が元になっている。Tonal Balance Controlの診断結果には、一定の信頼性があると考えてよい。
Tonal Balance Control vs. Metric AB
マスタリング作業において他の楽曲と帯域バランスを比較するのであれば、以前の記事で紹介したMetric ABの方が高性能で便利だ。
ミックス作業に必須!音源比較プラグイン「ADPTR AUDIO Metric AB」を徹底解剖
だけど、ミキシング作業において帯域バランスを確認する場合、Tonal Balance Controlの方が便利で使い勝手も良い。※理由は後述。
Metric ABに対する優位性
マスタートラックの音量レベル調整が不要
Tonal Balance Controlでは、マスタートラックの音量レベルに関わらず、同じように楽曲の帯域カーブを表示させることが可能。Metric ABの代わりに、Tonal Balance Controlを使う最大のメリットがコレだ。
自分ひとりで楽曲を完パケするようなときは、ミキシングを行った後、マスタリングまでそのプロジェクトファイル内で行ってしまうことも多いはず。だけど、マスタリング後は音が大きくなる。リファレンス音源と比較するためには、再度Metric AB上で音量のマッチング作業を行い、リファレンス音源とレベルを合わせなければならない。この作業が結構面倒。
一方でTonal Balance Controlは、マスタリングの前後で、レベルマッチング等の作業は不要。そのため、マスタリング前のミキシング作業において、帯域バランスを整えるのに役に立つ。
ミキシング作業をしているときは、Tonal Balance Controlでざっくりと帯域バランスを整える。その後マスタリング作業をするときには、Metric ABを見ながら緻密に帯域バランスを整える。こういう作業プロセスを取るといい。
Crest Factorで低域のコンプレッションの度合いを測定可能
Metric ABでは、Dynamicsという項目において、楽曲全体のコンプレッションの度合いを測定することができる。しかし、低域にフォーカスして測定することはできない。
一方で、Tonal Balance Controlは、低域のコンプレッションの度合いを「Crest Factor」というパラメーターで測ることができる。ミキシング作業においては、低域が暴れないように安定させることも重要なので、この指標はそれなりに便利だ。
Crest Factorのインジケーターは、次のような意味合いを持つ。
- 右側に寄っている時:低域のコンプレッションが強い
- 左側に寄っているとき:低域のコンプレッションが弱い
ローエンドのコンプ感を設定する上で、参考になるはずだ。
帯域バランスを確認する方法
マスタートラックの最終段に、Tonal Balance Controlをインサートする。
右上のプルダウンメニューから音楽ジャンルを選び(ここではEDMを選択)、ターゲットカーブに沿った表示になっているかどうかを確認する。まだミックスバランスを取っていないため、150~350Hzあたりの帯域がやや膨らんでいることが分かる。
ターゲットカーブの情報を参考にしつつ、ミックスを調整する。必要に応じて、各トラックのEQ処理も適切に行う。
なお、プロジェクト内部でOzoneやNeutronを使っている場合、Tonal Balance Control内部よりそれらの設定にアクセスすることも可能(ほぼオマケ機能という印象ですが)。
望み通りの帯域バランスに仕上げたら、ミックスの完成だ。
※Tonal Balance Controlの表示は、デフォルトだとBroad(4分割型)になっているが、Fine(カーブ型)に変更しておくのがオススメ。
Tonal Balance ControlについてのQ&A
ここでは、Q&A形式で、Tonal Balance Controlについて書いてみる。僕の主観が元になっているが、ご参考までに。
ターゲットカーブから外れているミックスは、良くないミックスですか?
そんなことはありません。
実際に市販の楽曲をTonal Balance Controlに読み込ませてみると、中にはターゲットカーブから外れる楽曲も存在することが分かる。良いミックスの楽曲であっても、ターゲットカーブに収まらないことはある。
ただし、特にポップス等の商業音楽のジャンルにおいては、大半の楽曲がターゲットカーブの中に収まるのもまた事実。作っている楽曲を提示するマーケットがあらかじめ決まっている場合は、ターゲットカーブを参考に作業をしたほうが捗るはず。
いくらEQを調整してミックスを頑張っても、ターゲットカーブに揃いません。
楽曲次第では、ターゲットカーブに揃えるのは難しいこともあります。
例えば、楽曲を構成する素材の中に10kHz以上の成分が含まれているパートがなければ、10kHz以上の帯域を、ターゲットカーブのようにきれいに伸ばすことは難しい。編曲(トラックメイキング)の段階で、そこは考慮する必要がある。また、無理にEQでバランスを整えようとすると、不自然な音質になりやすいので注意。
帯域を計測する上でTonal Balance Controlは圧倒的に便利
※2022年7月14日:追記
半年ほどTonal Balance Controlを使って作業をしているが、すっかり楽曲制作に無くてはならないプラグインとなってしまった。
あれだけ愛用していたMetricABの出番がだいぶ減ってしまい、自分でも驚いている。MetricABも便利ではあるが、帯域バランスを計測するという目的に限っていえば、Tonal Balance Controlの利便性は圧倒的だからだ。
「帯域バランスを整える」という意識は、ミキシングやマスタリング作業のみならず、編曲(トラックメイキング)の段階でも持っておく必要がある。だからこそ、2mixの音量レベルに依存せず帯域カーブを表示してくれるTonal Balance Controlは、便利に使うことが出来るのだ。
具体例を挙げてみる。
次の画像は、EDMを作っているにも関わらず、キラキラとした高域成分が大きく不足している状態だ。
こういう状況で、EQを使って、無理やり2mixの帯域バランスをターゲットカーブに揃えようとするとどうなるか?EQによる大幅なブーストが必要になってしまい、音は不自然になってしまうだろう。
正しい解決方法は「各トラックの音作り/音選びを見直す」だ。
- シンセのフィルターを開いてカットオフ周波数を高くし、音を明るくする
- シンセにノイズ成分やアタック成分を重ねる
- シンセのサチュレーション成分を増やす
- キックやスネアを高域が派手なものに差し替える
- 裏拍のシンセと一緒に鳴らすためのオープンハイハットを追加する
- 高域を担うシェイカー等のパーカッション・ループを追加する
といった対策を実施し、よりきらびやかなトラックメイキングをしてやる必要がある。そうして生まれた、キラキラとした帯域成分は、最終的な2mixにおいて高域を確保するのに役立ってくれるのだ。
モコモコとしたトラックで構成された楽曲は、ミキシング作業を頑張ったところで、クッキリ・キラキラなミックスに仕上げるのは難しい。このことを認識しておく必要がある。
Tonal Balance Controlの入手方法
Tonal Balance Controlは、単品でも買えるけど、iZotopeのバンドル製品にも含まれている。僕も実際、購入したTonal Balance Bundleというバンドルに当製品が含まれていたので試した結果、結構良いなと思うようになり、スタメンで使うようになった。そんな経緯がある。
Tonal Balance Control単品で買うと、若干割高だ。そこで、Ozoneの上位グレードが欲しくなったときに、アップグレードがてら、Mix & Master Bundle Advancedをクロスグレードで購入するのが良いと思う。
※2021年末頃にはTonal Balance BundleというTonal Balance Controlが含まれるバンドル製品も市場にはたくさんあったが、2022年7月現在では一部の店でしか取り扱っていないようだ。
iZotope製品はアップグレードのパターンが多岐にわたっている。かつてはWaves製品からクロスグレードできるようなバンドルまであったので、お手持ちの製品に合わせて賢く選択したいところだ。