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【レビュー】Vengeance Sound Avengerは高音質かつ高性能。ウェーブテーブル界最強のモンスター・シンセです

Avengerとは?

Avengerは、Vengeance Soundからリリースされているウェーブテーブルシンセだ。

Vengeanceは、かつてVeangeance Essential Houseシリーズ等のサンプリングCDで一斉を風靡したデベロッパーだ。音作りの上手さには、昔から定評がある。

そんなVengeanceが満を持して発売したシンセが、このAvengerだ。

公式サイト


Vengeance Sound




Avengerの良いところ4つ

1. 純粋に音が良い

Avengerは音が太く、音の解像度も高い。Sylenth1のような旧世代のシンセと比べると、同じノコギリ波を鳴らしても、音のみずみずしさにだいぶ差があることが分かるはず。

僕は同じウェーブテーブルシンセであるXfer Serumも所有しているが、純粋に出音の品質だけを比較するならば、Avengerの方が高品質だと感じる。Avengerはハイファイで、音が太く、デジタル臭さも少ない。シンセのエンジンが優秀だと思われる。

少々マニアックな使い方ですが、SerumのウェーブテーブルをAvengerに移植して鳴らしてみると、エンジンの出音の傾向も見えてきます。

ウェーブテーブルシンセの中では、最も音の良いシンセのひとつだと言える。

2. 音作りの可能性が幅広い

2-1. 収録されているウェーブテーブル/サンプルの種類が豊富

Agengerでは、ウェーブテーブル(≒通常のシンセ波形)とサンプルを組み合わせることで、多彩な音作りが可能。

たとえば、Pluck系シンセの音作りをする際、アタック成分として「クリック感のあるサンプル」を重ねるという手法がある。これは近年のサウンドメイキングにおける、定番テクニックだ。

Sylenth1やMassiveのような一昔前のシンセだと、サンプルの読み込みには対応していない。一方で、Avengerのような近年のウェーブテーブルシンセの場合、サンプルの読み込みも可能だ。

気になるのがサンプルの量と質だが、Avengerはどちらも優秀。ファクトリープリセットだけでも200以上のクリックサンプルが収録されている。この数はSerum等と比べれば圧倒的なものだ。

クリックサンプルに限らず、PCMシンセのような生楽器波形(ベース、ピアノ等)も収録されている。おかげで、PCMシンセの波形(ピアノ等)と、オシレーター波形(矩形波等)を重ねて音作りをするようなことも簡単にできる。従来は複数のソフト音源を起動しなければ出来なかったような音作りも、容易に実現可能だ。

MEMO
AvengerのウェーブテーブルはSerumのそれとは異なり、ユーザー側でエクスポートは出来ない仕様。比較的プロテクトが強めだといえる。この仕様が、単なるシンセサイズ・エンジンとしての働きをさせるだけではなく、サンプル集としての価値を持たせるというAvengerの製品設計にも繋がっているのかもしれない。

2-2. 同時使用可能なオシレーター/フィルターの数が多い

Avengerでは、オシレータ8つとフィルター4つを同時に使うことができる。1基のシンセの中でこれだけ多くのオシレーターやフィルターを起動できる製品は、他ではなかなか見当たらない。同じウェーブテーブルシンセのSerumの場合、1台の中で起動できるオシレーター数が2つであることを考えると、Avengerの拡張性の高さがよく分かる。

Avengerの持つこの特徴は、1台のシンセだけで、深みのある音作りをするのに役立つ。従来は複数のシンセをレイヤーさせなければ作れなかった音色も、Avengerなら1台で作り上げることができる。

2-3. シンセサイズ性能が優秀

オシレーターをデチューンさせて、フィルターを通して、歪ませたり空間系エフェクトを掛ける……というシンセの基本的な音作りは、当然のことながらAvengerでも可能。さらにAvengerでは、FM変調やグラニュラー・シンセシスもできるようになっている。これらの2つの機能を両方搭載しているシンセは、それほど多くはない。

とにかく機能が豊富というのがAvengerの長所。シンセというカテゴリの音色に限っていえば、Avengerに作れない音はほとんど無いと思う。

個人的には、ツマミをちょっと回すだけで、簡単にFM変調ができるのが気に入っている。ちょっと激しい音を作りたいなぁ、というときにお手軽に使えて便利。

おまけにエフェクトも優秀。Sylenth1のような昔のシンセに搭載されていたエフェクトと比較すると、とにかく高品質かつ多機能だ。ステレオイメージを広げるようなエフェクトも豊富に取り揃えられているので、現代的な質感のサウンドを目指す上でも重宝する。

3. プリセットが高品質

Avengerのファクトリープリセットは非常に高品質。他のソフトシンセだと、「これ一体どこで使うの……」というプリセット音色も多いが、Avengerのプリセットはどれも即戦力。空間系エフェクトを外せば、そのまま楽曲制作で活用できるような音色ばかりだ。

前述の通り、Avengerは

  • 収録されているウェーブテーブルやサンプルが豊富
  • シンセサイザーとしての性能が高い

という特徴を持っている。これらの特徴が、Avengerのプリセットの品質の高さや、音色の豊富さに繋がっていると考えられる。

実際、Avengerのプリセットの中には、オシレータ/サンプルを3つ以上重ねることで作られている音色(=他のシンセだと複数台起動しなければ作れない音色)も多い。汎用的な質感を持ちながらも、Avengerの強みを生かした、独自性の高いプリセットが多く収録されているといえるだろう。

個人的には、プリセット音色の中だとBellカテゴリの音色は重宝している。シンプルかつ多彩な音色が多いからだ。

  • 3つ以上のオシレーターを使える
  • FM変調ができる

というAvengerの特徴が、ベルの音作りに上手く生かされているように感じる。

4. Expansion(拡張音源)も高品質

Avengerの公式サイトにアクセスすると、「Expansions」(エキパン)と称して音色のデータセットが販売されていることが分かる。

僕もいくつか購入したことがあるが、Avengerのエキパンは、単なる音作りのプロセスを保存した音色情報としてのプリセットに留まるだけではない。時には、既存サンプルを利用しただけでは実現できないような、新規追加サンプルを使った音作りが行われることもある。

たとえばTropical Houseのエキパンには、フルートのサンプルが追加されている。通常のシンセ波形と組み合わせる形式で、音作りがされていたりする。

追加サンプルを使って作られたプリセットは、当然のことながら、自力で同じ音色を再現することはできない(=エキパンを購入しなければ再現できない)。音ネタを増やすという意味でも、エキパンを導入する価値はある。

Avengerの惜しいところ3つ

1. GUIの設計がイマイチ

Avengerは、ユーザーインターフェースの設計がイマイチだと感じる。

  • プラグインウィンドウ全体のサイズが大きすぎる
  • よく使うパラメーターでも、何度かクリックしないと出てこない(ウェーブテーブルのIndexなど)
  • 小さくてもいいような要素が、なぜかデデーンと大きく表示されている(鍵盤など)

このような特徴があるため、どうしてもGUI設計が最適ではないように感じてしまう。

2. 音作りの工数が増えやすい

通常シンセで音作りをする際、複数のオシレーターを使って音作りをすることが多い。しかしAvengerの場合、2個目のオシレーターを表示させるためには、タブの切り替え作業にクリック操作が必要。複数のオシレーターを同時に表示させることもできない。

このせいで作業の工数が増えてしまうような印象がある。これはシチュエーション次第では結構マイナス。Avengerの方が音が良いと分かってはいるのだが、2つのオシレーターのみで構成されるようなシンプルな音を作る場合、使い勝手の良さからSerumを選んでしまうことも多い。

他にも、フィルターの位置をシェイパー(歪みFX)の前に来るように変更する場合、その変更作業をオシレーター1とオシレーター2、両方の画面で行ってやらなければならない。多くのシンセではこういうのは連動させることができるので、少し使いづらく感じる。

3. 負荷はやや高め

Avengerは軽くてサクサク動作するタイプのソフトシンセではない。※重すぎるというほどでもないけど。

僕も以前のPC(Core i7 8700)では、Avengerを複数台立ち上げて使うのは厳しかった。複数台立ち上げると、バッファ128sample程度の運用でも、Cubaseのreal-time peakが振り切れて使えなかったからだ。当時は、Vienna Ensemble Proを経由することで、Avengerのみバッファサイズを上げて負荷を抑えるという工夫が必要だった。

新しいPC(Ryzen 3900X)に変えてからは気にならなくなった。

もし古めのパソコンを使っている人の場合、スペックと相談しながらAvengerの導入を検討するのがいいと思う。



その他覚え書き

Avengerのデモ版について

Avengerは、ほとんど制限無しでデモ版を利用することができる。※デモ版では30分間の使用時間制限と、定期的なノイズの発生がある。

what are the limitations of the demoversion?

no feature limitations, no content limitation. But the demoversion can not SAVE, has a short noise every 5 minutes and it has to be reloaded after 30 minutes runtime.

出典:Vengeance Sound

購入前にデモ版を試し、パソコンへの負荷や、使い心地などを確認するとよいだろう。

Ver 1.8以降はライセンスの管理も容易に

2020年ころは、CodeMeterという、ライセンス認証システムが使われていた。これは「90日ごとに手動でライセンスをアップデートしなければならないシステム」であり、Avengerユーザーはなかなかの不便を強いられてきた。

ユーザーからの不満の声が大きかったのか、2021年にリリースされたVersion 1.8では、CodeMeterが廃止された。従来よりも簡単にアクティベーション/ディアクティベーションができるようになった。

おわりに

長らく使ってきたので弱点も見えているのだが、致命的なウィークポイントは特に無い。何より、音が良くて機能が豊富というのは、何物にも代えがたいAvengerの強みだ。一度自分の音色を作ったり、テンプレートを用意したりしてしまえば、その後の運用もそれほど手間ではない。

即戦力のプリセットが多いのも魅力的。割と頻繁にセールを開催しているので、興味のある人は一度デモを試してみて、セール等のタイミングで購入するのがいいでしょう。