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Jacob Collier(ジェイコブ・コリアー)がスゴい。インタビューを要約・考察してみる

今、ジャズ界隈を賑わせているJacob Collier(ジェイコブ・コリアー)という若きミュージシャンをご存知だろうか。

2017年のグラミー賞で2部門を受賞。アカペラと楽器の多重録音で音楽を作り上げる「宅録」のスタイルで音楽を生み出している。ジャズをベースにしていながら、その音楽性は非常に革新的なものだ。

未聴の方は、スティーヴィー・ワンダーの「Don't You Worry 'bout a Thing」のカバーを聴いてみてほしい。彼の凄さが分かってもらえるはずだ。

彼は多くの楽器を自在に操り、歌も上手く、高度な音楽理論(ジャズ理論)にも精通しているというスーパーマンだ。海外だけではなく、日本のプロミュージシャンからも高く評価されている。

今回は彼の音楽を解析しているJune Lee氏が、Jacob本人にインタビューをした動画について、僕が気になった箇所の要約を記事にしてみる(日本語の翻訳が無かったので)。意訳が多く含まれることに注意しつつ、元の動画を理解する補助として活用して欲しい。

ピュア・イマジネーション ~ヒット・カヴァーズ・コレクション~

1. リディアン・スケールの連結

インタビュー動画の1つ目の冒頭で語られているのが「Super-Ultra-Hyper-Mega-Meta Lydian」というもの(動画0:02~)。これは、彼がインプロビゼーション(アドリブ)のときに使用している独自のスケールだ(名前は造語だと思われる)。

これは「Cリディアン→Gリディアン→Dリディアン→…」という風に、リディアンスケールを連続してつなぎ合わせたものとなっている。Jacobの発言をまとめてみる。

五度圏(Circle of Fifth)について

  • 五度圏が音楽を作っている
  • 五度圏の時計回り(C→G→D→A…)は明るくなっていく、逆は暗くなっていく
  • 変格終止(アーメン終止・IV→I)は安心できる感じがする。「そのキーを抱くような」感じ
  • 完全終止(V→I)はそのキーに到達する感じがする

Super-Ultra-Hyper-Mega-Meta Lydianとは?

  • スケールと呼んでいいかは分からない
  • スケールを上がっていくときも、ルートのところで「止まる感じ」にならないのが良い
  • リディアンが最も心地よく感じる
  • 「最も良い明るさ」を持つサウンドだと思う

逆回りのスケールについて

  • (逆回りのスケールだと)五度圏の「暗い方」で音階自体が包まれている感じになる
  • 「F→Bb→Eb→Ab」(←コード)というケーデンスも同様の印象になる

「Super-Ultra-Hyper-Mega-Meta Lydian」は、五度圏をリディアンで時計回りに進むことで得られたスケールだった。では、この逆のスケールだとどうなるのか?「CDEF、GABbC、DEbFG、…」のように、メジャースケール等の最初の4音を、どんどんつなぎ合わせていくようなスケールになる。

しかし、Jacobはこのスケールについては「これだと五度圏の『暗い方』で音階が包まれる感じになる」と語っている。あくまでリディアン推しのようだ。



2. ボイシング(和音の積み方)について

次はJacobの和音に関する考え方をひも解いて行く(動画3:27~)。

要約

  • 「全てのメジャーコードは5度で組み立てられ、全てのマイナーコードは4度で組み立てられる」という独自の理論を持っている
  • Cm7(9,11,13)のコードはむしろメジャーコードのように感じる
  • むしろ完全四度で積んだコードのほうがマイナーコードっぽい
  • 短9度の音程ができる和音も、普通に使う

マイナーコードはマイナーっぽく感じない?

「C Bb D Eb F A D ※Cm7(9,11,13)」というボイシングのコードについては、「マイナーコード以上にメジャーコードのように感じられる」と語っている。「Ebメジャーの平行調みたいだから」という理由だ。

四度堆積和音について

さっきの和音よりも、もっとマイナーっぽいコードとしてJacobが挙げたのが、「C F Bb Eb Ab Db」というボイシングのコード。

四度で堆積されている和音なので、コードネームを付けるのが難しいが、むりやり表すならば、Cm7-9,11,-13といったところか。Ab6(9,11)の転回形という解釈もできるかもしれない。いずれにせよ、ルートであるCとDbが短9度の音程を形成しているため、一般的には不協和音ということになる。

インタビュアーのJuneが「Jacobの短9度の使い方って、他のあらゆるミュージシャンとは違っているよね」とすかさずツッコミ。これを受けてJacobは別のコードを挙げる。

「A E B D G C」というボイシングで、コード表記ではAm7(9,11)となる。コード的には普通のテンション入りのマイナー7thコードなのだが、短9度の音程を含むボイシングになっていることに注目(B‐C間)。これは不協和音だ。

しかし、この響きについてJacobは次のように語っている。

  • 特徴的な響きで、ぼーっとしちゃう
  • もっと「欲しい」ときにはエモーショナルな選択だよ

短9度という音程は、最も不自然な響きがしてしまう音程だ。そのためドミナント7thのコードでオルタード・テンションとして使うとき以外、基本的には使えない。しかしJacobはそういった既成の理論を超えたところでハーモニーを感じ取っているのかもしれない。

3. 微分音を用いたボイス・リーディング

動画の10:12~では、「赤鼻のトナカイ」という有名なクリスマスソングを挙げて、微分音を使ったフレージングについて解説している。

GからEへと進む際、その音程は半音3つ分。本来G→F#→F→Eと進むのが普通だが、それを4つに分け、「3/4半音」ずつ下降していくかのようなフレーズを歌っている。「5つに分けても良いよ」とまで言っている。

IN MY ROOM



4. 倍音列に合わせたチューニング

ここからは、インタビュー動画のPart 2について触れていく。興味深いのが、チューニングについて語るシーンだ(動画5:35~)。

要約

  • 平均律のチューニングは、ジャズの和音を成立させるためには欠かせない。基本的にはありがたい、良いもの
  • しかし、「純正律でチューニングしたほうがコードの響きは良くなる」ことに気づいた(倍音列の関係)
  • それ以来、「全ての長三度を低くし、短三度を高く」設定するようになった
  • C6(9)など、純正律じゃ成立しないコードもある

純正律について

楽器や人の声などを含む、自然界の音には倍音が含まれる。倍音を第1倍音、第2倍音、第3倍音……と順に並べたものを倍音列という。

この倍音列に従ったチューニングが純正律だ。自然な倍音列に即したチューニングなので、より美しい響きがすると言われている。

倍音列に存在する長3度の音は、平均律と比較して約14セントも低い。半音が100セントなので、これは比較的大きなズレだと言えるだろう。

※参考:倍音 - Wikipedia

声を重ねてハーモニーを作ることが多いJacobが、純正律の響きに興味をもつのは必然かもしれない。

Jacob独自のハーモニーの探求

倍音列に従って音程を考えると、短7度(7th)の音は、平均律と比べて31セントも低くなる。

この7thの音をルートとして扱うと、当然コード全体の音が31セント低くなる。そこでJacobは、チューニング基準をA=442Hz→A=432Hzに下げたらしい(動画7:30~)。

同じ曲で異なるチューニングを混在させるのは、スリルがあってとても面白いと語っている。なかなか常人にはたどり着けない発想である。

5. グルーヴについて

動画10:58~では、グルーヴに関する彼の考えを聞くことができる。

要約

  • 「全ての半音が等間隔に存在するのが、あまり心地よくない」のと同じように、全ての拍や音符が同じサイズになるのは窮屈だと考えている
  • クオンタイズの利便性そのものは、素晴らしいものだと考えている
  • Jacobにとってエキサイティングなグルーヴとは、必ずしもストレートなリズムではない
  • 2つの拍があった場合、「3:2」や「4:3」のように解釈すると面白い

Jacobのグルーヴへの見解

Jacobはエキサイティングなリズムの例として、サンバや、モロッコの伝統音楽「グワナ」を挙げている。Jacobによると、そういった音楽では3つの音符が「4:2:3」という割合の長さで鳴っているそうだ(動画の12:14~)。そして、これこそまさに彼が自分の部屋で追求していたグルーヴそのものらしい。

グルーヴは、ハーモニー的な要素等とは別のベクトルに、音楽的な推進力を付加してくれると彼は語っている。

2つの拍の割合について

Jacobがカバーした「Close to You」の話題が挙がると、彼は拍の長さについてユニークな考えを話してくれる。

2つの拍がある場合、前の方を長く取ることで、みんな興奮する」という現象があるそうだ。Jaobもその現象について理論的に解明しようとしていたそうだが、彼の出した結論は次の通り。

  • ビートを5つに分けて「3:2」と解釈する
  • ビートを7つに分けて「4:3」と解釈する

こういった解釈を行っているそうだ(動画の13:25~)。「いい感じに聴こえるかどうかが根本的には大事」とも語っている。



おわりに&参考になりそうな本

Jacob Collierは、その天性の才能ばかりに目が行ってしまうが、インタビューを聞くと、理論的な側面にも精通していることが分かり、勉強熱心な努力家という一面も見て取れる。これからの活躍も楽しみだ。

最後に、Jacobの音楽性を紐解く上で参考になりそうな本を2冊紹介する。

『リディアン・クロマティック・コンセプト』

ジョージ・ラッセル(著)

これだけ「リディアン推し」なJacobのことだから、たぶんこの「リディアン・クロマティック・コンセプト」はみっちり習得しているような気がする。

『A Theory of Harmony』

Ernst Levy(著)

「Negative Harmony」についての記述がある本。

なお、Negative Harmonyについては、少なくとも動画を見る限りではJacobが強く主張している理念かどうかは分からなかったので参考までに(Jacob自身、Negative Harmonyの理論には非常に詳しいようだが)。