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【レビュー】Audient NEROは新時代の定番を予感させる高品質なモニターコントローラー。値段以上の音質を届けてくれる名機です

Audient NEROについて

NEROは、イギリスの音響機器メーカー、Audient社から発売されているモニターコントローラーだ。発売されたのが2019年と、比較的新しい製品。


モニターコントローラーとは?
モニタースピーカーの音量を手元で調節したり、複数のスピーカーを切り替えたりするための装置。



スペック

入出力端子について

入出力数・ヘッドホン端子数ともに充実している。この入出力端子の充実した感じは、どことなくPresonus Monitor Stationに近いものがある。詳しいスペックは以下の通り。

  • 入力:ステレオ3系統(TRSバランス×2、ALT入力×1)+CUE入力(ステレオ)1系統
  • 出力:ステレオ3系統(TRSバランス)+サブウーファー用モノラル出力1つ
  • ヘッドホン端子4つ(1つは前面パネル、他の3つは背面パネル)

MEMO
ALT入力は、RCA(orステレオミニプラグ)・S/PDIF・Opticalの3つから選べるようになっている。

各種スイッチについて

  • 「INPUTS」スイッチ4つ:入力信号を切り替える。
  • 「OUTPUTS」スイッチ4つ:出力先(スピーカー)を切り替える。
  • DIM:出力音量を一定量下げる。
  • CUT:再生音をミュートする。
  • MONO:再生音をモノラルにする。
  • POL:Lchを逆相にできる。MONOスイッチと組み合わせることで、M/SのSide成分のみを聴くことができる。※地味に便利。
  • ALT INPUT:ALT入力を3つの中から切り替える。
  • TALKBACK:トークバックがONになる。
  • SRC(ヘッドホンツマミの左):「ヘッドホンに流す入力信号」を選ぶためのスイッチ。※個別に設定可。

NEROの音質について:他製品と比較して徹底レビュー

僕は今まで、モニターコントローラーにPresonusのMonitor Station(初代)を使ってきた。結論からいうと、Monitor StationからNEROに変更したことで、音質はかなり良くなったと感じている。良くなったポイントは、以下の3点。

  • ハイエンドまでスムーズに伸びたクリアな音質になった
  • 音の解像度が高くなり、定位感がはっきりした
  • 音の立ち上がりの瞬間、位相がピタッと揃うような感覚を味わえるようになった

「思った以上に音質が良くなったなぁ」というのが率直な感想だ。「音の入口と出口が大事」というのが音楽制作の定説だけど、モニターコントローラーのような「間に挟む回路」であっても、音質に与える影響は予想以上に大きいことを実感した。

音楽を本格的にやっている人なら、ちゃんとしたモニター環境でじっくり聴けば、おそらく誰でも違いが分かるレベルだと思います。

さて、ここからは他製品を引き合いに出しつつ、音質比較をしていきたい。

  1. Audient NEROを通して聴いたとき
  2. Presonus Monitor Stationを通して聴いたとき
  3. オーディオインターフェイス直結で聴いたとき

いずれもモニタースピーカーから音を出して聴いたときの感想だ。

1. Audient NEROを通して聴いたとき

パッと聴いた感じは大人しく聴こえるが、すぐに上品な出音であることが分かる。ハイエンドまで伸びたクリアな音質。全帯域に渡って解像度が高い。音が立ち上がる瞬間に、位相がピタッとハマる感じがある。センターの音がど真ん中に定位しているし、ステレオの定位感もハッキリしている。

次に思ったのが、「高域(4kHz~あたり)がうるさくないなぁ」ということ。Monitor Stationを通していたときは、市販曲を聴いていてもハイがうるさいと感じることがあったが、そういうのが無くなった。

帯域バランスは、基本的に原音に忠実。唯一、200~300Hzあたりの、ローミッドの帯域だけは少しだけ控えめかもしれない。オーディオインターフェイス直結時と比べて、わずかに量が少ない感じがある。とはいえ、じっくり比較しなきゃ分からないレベル。

総じて、「音質の変化が少ないモニターコントローラー」という評価をして良さそうだ。原音に忠実な音を、かなりの高い精度で再現してくれている。

2. Presonus Monitor Stationを通して聴いたとき

Monitor Stationは、高域がシャリっとしていて、パッと聴いた感じは派手で良く聴こえる。だけど、NEROと比較してみると、高域に少し歪みっぽさがあるような気もする。

200~300Hzあたりのローミッドの帯域は、他と比較すると少し多め。

※余談だが、Monitor Stationのローミッドは、NEROの音とインターフェイス直結の音、どちらと比べてもハッキリ分かるレベルで多い。これは「今までのモニター環境、大丈夫だったのか……」と、僕にとっては少し戸惑ったポイントでもある。

ひとことで言うと、Monitor Stationは「ちょっとだけドンシャリ」な傾向にあるんだと思う。

※ちなみにローエンドに関しては、むしろNEROの方が下まで出ていると感じる。

3. オーディオインターフェイス直結で聴いたとき

ひとつの基準として、モニターコントローラーを通さずに、オーディオインターフェイスとモニタースピーカーを直結したときの音質についても書いておきたい。直結時の音質は、やはり何のロスも無く、良い音をしている。

その一方で、NEROを通すのと比べれば、直結だと少し音が暴れる印象もある。もちろん直結が本来の音なのだが、NEROを通したほうが音が落ち着いて聴きやすいという見方もできそうだ。

帯域成分に関しては、さすがに直結が最もロスなく出ている感じはある。



NEROの良いところ5つ

1. 音が良い

音質が良いのが、NEROの一番の魅力。

とはいえ、音の良しあしは、個人の主観が大きく影響する部分。そこで、僕の感想だけではなく、各種サイトのレビューも交えて、なるべく客観的に情報をまとめてみる。

先に結論をいうと、

  • 色付けが少ない
  • 音質の劣化が少ない

という感想を持つ人が多いようだ。

1-1. 筆者の感想

前述の通り、僕はNEROの音質を高く評価している。音に色付けもないので、モニター用途としては完璧。

Grace DesignとかDangerous Musicのような高級モニターコントローラーを使ったことがないので断言はできないけど、価格を考えれば、音のクオリティはかなり高いと思う。

※価格帯の近いConisis M04やSPL 2Controlと比較してどうなるかが気になるところだ。

1-2. 宮地楽器さんの感想

レンジは全く損なうことなく綺麗に出力してくれます。トランジェントについては、若干リリースがタイトになるようです。

出典:audientよりモニターコントローラー「NERO」新発売! | 宮地楽器 RECORDING GEAR

という風に紹介されている。

1-3. Ulrich Wildさんの感想

エンジニア/プロデューサーのUlrich Wild氏が、2週間ほどNEROを使ってみた感想を語ってくれている。

Q. How does it sound?

A. It sounds like I don't hear it. (snip) It works flawlessly...

出典:Audient Nero Desktop Monitor Controller Demo & Giveaway - Warren Huart: Produce Like A Pro(YouTube - 8:16頃)

日本語で要約すると、「ダメなところが無いから、『まるで聴こえないかのような音』がするよ」という風に評価している。

1-4. Sweetwater(海外の楽器屋)のレビュアーの感想

Presonus Central Stationから乗り換えた人の感想。

Upgrading to the Nero made an instant difference for me, game changer (which may be the greatness of the Nero or just the difference between it and the CS).

出典:Audient Nero Desktop Monitor Controller Reviews Reviews | Sweetwater

「NEROに乗り換えたとたん、すぐに変化が生まれた。コイツはゲームチェンジャーだ」と語っている。NEROよりも高価なCentral Stationから乗り換えても、満足できるようなクオリティをしていることが予想される。

2. 製品のスペックが理想的

既存の10万円未満のモニターコントローラーは色々あるが、どの機種も「僕の好みに合わない要素」を持っていた。

  • Presonus Monitor Station:高価な機種と比べると、どうしても音質で負けてしまう。
  • Mackie Big Knob:音の質感に色付けがある。音の品質もやはり値段相応。
  • Presonus Central Station:値段を考えると、音質をもっと上げてほしい。ヘッドホンのボリュームは本体のツマミでしか調整できない。
  • SPL 2Control:入力/出力が、それぞれアナログ2系統ずつしか付いていない。机上での使用を想定している割に、TRS端子ではなくXLR端子(かさばる)。ボリュームツマミが横向き(上向きじゃない)。メーターが付いていない。
  • Conisic M04:ヘッドホン端子が1つしか無い上、端子がミニプラグ。メーターが付いていない。

対して、Audient NEROは非常に理想的なスペックをしている。上記のモニターコントローラーが持つ「僕の好みに合わない要素」を、見事に解消してくれている。

3. コストパフォーマンスが優秀

音良し、機能良しなNERO。なのに、買い求めやすい価格設定なのがスゴい。コストパフォーマンスは抜群だと思う。

4. パーツに高級感がある

Monitor Stationと比べると、

  • スイッチ
  • ボリュームのツマミ

といったパーツに、どことなく高級感がある。

各ツマミには遊びもなく、グラつくこともない。メインボリュームは、軽い力でスムーズに回転させることができる。各種スイッチも、しっかりした作りになっている。

5. ずっしりとした重量感

本体だけで2kgもある。見た目の印象以上には重い。これは良いことだ。なぜなら、軽いモニターコントローラーだと次のような面倒くさいことが起きるからだ。

  • ボリュームを操作した拍子に本体がズレる ⇒ 繋がっているケーブルの断線の原因になる
  • ケーブルの重みで本体が傾いてしまう ⇒ 純粋に使いづらい

モニターコントローラーはそう動かすこともない機材。ずっしりとした重量感には信頼性がある。

NEROの課題点2つ

1. 有効にできる入力信号は1系統だけ

NEROでは2つ以上の入力信号を同時に鳴らすことはできない。例えば、

  • 2台のオーディオインターフェイスの出力を、NEROを通して同時に聴く

みたいなことはできない。

同時に2台のPCの音を鳴らすことはないので、大きな問題ではないが、純粋に切り替え操作の手間が増える。スピーカーへの出力だけではなく、ヘッドホン出力に対しても切り替え操作が必要なので、使用状況によっては面倒に感じる人もいるかも。

海外のレビュー記事を見ても、やはり「入力信号のミックスはできない」と書かれている。

Only one monitor input source can be selected at a time — there is no source mixing capability.

出典:Audient Nero - Sound On Sound

2. メーターのキャリブレーションができない

NEROではメーターのキャリブレーションができない。INPUTへの入力レベルが、そのままLEDに表示される仕様だ。

メーターの仕様

NEROにはピークメーターのLEDが付いている。このメーターは

  • 18dBuの信号が入力されたときに、ちょうど赤が付く

仕様になっている。言い換えると、「0dBFS = 18dBu」となるように出力できるインターフェイスじゃないと、メーターをフルで生かすことはできない。

大半の高価なオーディオインターフェイスでは、「0dBFS = 18dBu」となるように設定できるので問題ない。しかし、安価な機種だと、最大出力レベルが18dBu未満なことも多い。その場合、

  • DAW上ではピークメーターが天井を叩いている(赤が付いている)のに、NEROのメーターはそれよりも低く表示される

という状態になってしまう。

まあ気にしなければいいだけの話ではあるが、「こういうのって何だか気持ち悪い」みたいに感じる人は、購入前にインターフェイスの出力レベルを調べておくとよいだろう。

ちなみにこの問題、海外のフォーラムでも話題になっていて、ユーザーの質問を受けて、Audientの人が直々にコメントを残している。

NERO was designed with a digital alignment of +18dBu - 0dBFS in mind as you can probably tell from the meter. Unfortunately, this wouldn't be easily user adjustable between different alignments as its an analogue meter circuit and then, of course, the numbers on the meters wouldn't make sense.

出典:Audient Introduces Nero: Desktop Monitor Controller - Page 6 - Gearslutz

日本語で要約すると、

  • NEROのメーターは、18dBu = 0dBFSになるように設計されているよ
  • 残念だけど、アナログメーターだから調整(キャリブレーション)はできないよ
  • メーターの数字には特に意味はないよ

といった内容だ。



おわりに

  • ラック内のスペースを消費することなく
  • 机上で操作でき
  • 音質も良く
  • 入出力数も充実していて
  • 価格がお手頃

こういった条件をすべて満たすモニターコントローラーは、今のところNERO以外には見当たらない。ホームスタジオで利用する人には、一番にオススメできるモニターコントローラーだ。

あまり話題になっていないのが不思議なくらいの、良い製品です!