嵐「Monster」のコード進行を分析~アカデミックとポップを両立させたJ-POP楽曲の金字塔~

国民的アイドルグループの「嵐」。嵐の曲は非常にクオリティが高い。作曲家、アレンジャー、スタジオミュージシャンなど、第一線で活躍する腕利きのトッププロが力を合わせ、ハイレベルな作品を生み出している。

「Monster」は、彼らの作品の中でも特にレベルの高い一曲だ。リリースは2010年と少し前の曲だが、今聴いても曲の完成度の高さには驚かされる。


2019年10月より、嵐の全シングル楽曲がストリーミングで解禁されている。この機会に、この「Monster」のコード進行を分析してみたい。

嵐 - Monster(YouTube)
  • ディグリー表記では、マイナーキーでもその平行調のメジャーキーとして度数表記します。
  • コードは耳コピで採譜しています。

コード進行

Aメロ(Key = Ebm):知る人ぞ知る定番進行

|Ebm F/Eb |Abm/Eb Ebm |
|Ebm F/Eb |Abm/Eb Ebm |
|Ebm F/Eb |Abm/Eb Ebm |
|Ebm F/Eb |Abm/Eb Ebm |

(Degrees)
|VIm VII on VI |IIm on VI VIm|
|VIm VII on VI |IIm on VI VIm|
|VIm VII on VI |IIm on VI VIm|
|VIm VII on VI |IIm on VI VIm|

Aメロは、トニックのマイナーコード(VIm)を中心としたコード進行になっている。2小節で1セットとなるコード進行だ。

これ、実は型として把握してしまったほうがいいようなコード進行だ。

  1. Ebm:まずマイナーのトニックコードを鳴らす。
  2. F/Eb:右手(コードの分子)だけ、全音上のメジャーコードにズラす。
  3. Abm/Eb:右手だけを短3度上のマイナーコードにズラす。
  4. Ebm:最初のトニックコードに戻す。これで1セット。

この進行、もちろんカノン進行や王道進行ほど有名ではないが、他の曲でもたまに登場することがある。「知る人ぞ知る定番進行」といったところだろうか。

音楽理論的に考えると、和声的に自然な解決をして行くというよりも、

  • トニックコードの5度の音(この曲だとBb音)を、半音で下降させて行く中で、自然と生まれたコード進行

と解釈できる。なので、クリシェ進行の仲間と把握するのが良さそうだ。

MEMO
余談だが、このコード進行は、マイナーのトニックコードをメジャーのトニックコード(※Ebm→Eb)に置き換えても使えるので覚えておきたい。例:「マイフレンド/ZARD」のAメロの進行。

サビ(Key = Eb):同主調に転調させつつも、転調前の名残を感じさせるコード進行

|Eb |Gb6 |Fm7 |Gsus4 G/B |
|Cm |Gm/Bb |Abm |Abm6/Bb |

(Degrees:簡略化)
|I |IIIb |IIm7 |III7 |
|VIm |IIIm on V |IVm |V |

1コーラス目ではBメロを演奏せず、いきなりサビが登場する。サビの進行はけっこう独特なので、要チェックだ。

まず、それまでのKey = Ebmから、Key = Ebへと同主調への転調を行っている。ドミナントコードなどを挟まず、EbmからEbへといきなり進んでいる。しかしながら、オケが静かになるというアレンジの仕掛けもあって、転調のショックを感じさせることなく、自然につながっている。

コード進行について見てみる。この部分は、なんといっても2小節目のGb6(IIIb)というコードがポイント。Gb6は同主調からの借用和音なので、突然出てきても不自然ではない。だがそれでも、I(トニック)からつなげるのは珍しい。

また、これは僕の解釈だが、「転調前のキーはEbmだった」ということも、自然なつながりを実現している要因の一つではないだろうか。※Gb6は、Aメロでたくさん出てきたEbmというコードと、構成音がほぼ同じ。

それ以降のコード進行は、サブドミナントマイナーであるAbmが出てくることを除けば、オーソドックスな進行だといえる。

1・2サビ後の短い間奏(Key = Eb):サビと似ているがコードチェンジが早い

|Eb Gb6 |Fm7 Bb6 G7/B|
|Cm Gb6-5 |F7sus4 Bb |

(Degrees:簡略化)
|I IIIb |IIm7 V|
|VIm IIIb|IIm7 |V |

ストリングスが主旋律を担当する、4小節だけの短い間奏。サビと同じようなコード進行だが、コードチェンジのタイミングが2拍ごとに早まっている。おかげで間延びすることなく、間奏を短くまとめることに成功している。曲の構成を作る上で学んでおきたいテクニックだ。

3小節目のGb6-5も特徴的。ここがGbdimになるのはよくあるが、サビのGb6を受けて、構成音を近づけたのかもしれない。

ちなみに、この次のセクションはAメロ(キーはEbm)。ドミナントコードがBbで共通となっているため、次のEbmのコードへと自然につながっている。

2A・3Aのおわり(Key = Ebm):マイナーのトニックのみのシンプルな進行

|Ebm | |
|Ebm | Bdim|

(Degrees)
|VIm | |
|VIm | IVdim|

2番と3番のAメロの終わりにだけ登場する部分。まるでベートーベンの「運命」を思わせるかのような、弦とハープシコードとピアノのユニゾンによる、3連符の仰々しいオブリガートが印象的。

コード進行的には難しい部分はないが、次のBメロ頭のコード(Cm)につなげるためにBdimを挟んでいることに注目。シンセパッドっぽい音色をフェードインさせて、あくまでもさり気なく転調のきっかけを作っている。

Bメロ(Key = Cm):マイナーのクリシェ進行

|Cm |Abm6/B |Eb/Bb |F |
|Ab |Eb/G |BM7 |Bbsus4 Bb |

(Degrees:簡略化)
|VIm |IVm6 on V# |I on V |II |
|IV |I on III |VIb |V |

1A→1サビ→2Aと歌った後で、ようやっとBメロが登場するという珍しい構成になっている。

コード進行は、トニックのマイナーコードから始まるタイプの、よくあるクリシェの進行だ。ただ、2小節目のAbm6/Bが少し特殊。本来はBaugとなるところだが、歌メロに合わせて構成音を変化させている。※Abm6/Bはサブドミナントマイナーの転回型とも解釈できる。

Bメロの終わりの部分では、借用和音であるBM7(VIbM7)を挟んでドミナントにつなげていることに注目。

MEMO
VIIbM7に比べて登場頻度は少ないが、VIbM7も使いやすいコードなのでテクニックとして覚えておきたい。

2・4サビの後半部分:ほぼ同じメロディに対してコードをリハモ

|Eb/G |Ab |Bb |G/B |
|Cm |Gm/Bb |Abm |Abm6/Bb |

(Degrees:簡略化)
|I on III |IV |V |III on V# |
|VIm |IIIm on V |IVm |V |

2コーラス目&4コーラス目ではサビの尺が16小節へと増える。その後半8小節のコード進行が上記。

リハーモナイズを行い変化がつけられている。メロディはほぼ同じだが、リハモに合わせる形でAbの部分のメロディが少しだけ変わっている。

2サビ後の間奏・前半(Key = Ebm):テンポが落ちて静かに

|Ebm F/Eb |Abm-5/Eb Ebm |
|Ebm F/Eb |Abm-5/Eb Ebm |

(Degrees:簡略化)
|VIm VII on VI |IIm-5 on VI VIm|
|VIm VII on VI |IIm-5 on VI VIm|

テンポが下がって、オーケストラっぽい雰囲気の間奏に突入する。チェレスタっぽい音色が印象的。

間奏の前半は、Aメロとほぼ同じコード進行をしている。

2サビ後の間奏・後半(Key = Ebm):突如6/8拍子のオーケストラ風に(プログレ!)

(6/8)|Ebm Db |Gb Gb/Db |
|Ebm Db/F |Gb Gdim |
|Abm7 Ab7 |Db/F Gb |
|Db/Ab |(4/4) Bbsus4 Bb |

(Degrees:簡略化)
|VIm V |I |
|VIm V on VII |I I#dim |
|IIm7 II7 |V on VII I |
|V on II |III7 |

間奏の後半では、なんと突如6/8拍子のお出まし!こんな作りの曲、海外のプログレッシブ・ロックバンドでしか見たことがない。これぞ天下の嵐……そんな驚きを隠せない怒涛の展開である。

コード進行を見てみると、

  • 3・6小節目のDb/F(第1転回形)
  • 7小節目のDb/Ab(第2転回形)

といった「転回形」のコードを上手く使いつつ、クラシカルな雰囲気に仕上げている。6/8拍子の優雅な雰囲気と上手く調和している。

ちなみに、コード進行とは関係がないが、ぜひ書いておきたいスゴいポイントがある。それはBPMの解釈についてだ。この間奏後半の部分は、次のセクション(Aメロ)に比べてテンポがゆっくりに感じると思う。しかし、実はベースとなるBPM自体は変わっていないのだ。

どういうこと?と思うかもしれないが、それは次のようにビートの解釈がされているからだ。

  • 間奏(6/8拍子)での16分音符3つ分 = 次のAメロ(4/4拍子)での1拍分

上記のリズム的解釈ができるように、ここの間奏は作られている。だからこそ、拍子が4/4に戻った瞬間も、テンポ変更の不自然さを感じさせずに自然に曲が展開していくのだ。

この、「ベースとなるBPMを変えずに、テンポが変わったように感じさせるテクニック」は、プログレッシブ・ロックなどではまれに登場する。しかし、J-POPでこれを聴けるのは非常に珍しいことだ。制作者のこだわりを感じずにはいられない。

おわりに

このMonsterという曲は、特徴的なコード進行をしていながらも、キャッチーなメロディを持っている。ただ難しいことをやっているだけではなく、ポップな曲に落とし込んでいるのは、さすがは嵐のシングル曲といったところだ。

また、今回も少しだけ(脱線気味に)触れているが、この曲はアレンジが秀逸。無駄な音が無く、どのパートにもきちんと意味があるような、考え抜かれたアンサンブルになっている。こういったアレンジからは学べることも多い。

アレンジを分析したい人は、カラオケバージョンが収録されているシングルCDを購入して聴き込むのがオススメだ。各パートの細部の音まで聴き取れることだろう。※僕も今回、カラオケバージョンを聞きながら耳コピを行っている。

Monster/嵐(シングルCD)