Finaleは、MakeMusic社から発売されている楽譜作成ソフトだ。譜面ソフトの中では最も歴史が古く、市販の楽譜やバンドスコアの多くもFinaleで作られている。世界標準のソフトだけあって、操作をマスターすればどんな楽譜でも思い通りに作ることができる。楽譜の仕上がりも、他のソフトより美しい。
反面、ソフトの操作をマスターするには、思った以上に手間がかかる。直感的な操作ができないソフトなので、慣れないうちは、少しの調整に何十分もかかってしまうことも。「これなら手書きのほうが早いよ……」と投げ出したくなる人もいるだろう。
僕もそのうちの一人だった。しかし、「明日までに譜面を用意する必要があるのに、Finaleの操作が上手くこなせず、時間がどんどん減っていく……」という状況に何度も陥っているのは、さすがに良くないと思った。そこで一度じっくり時間を作り、Finaleの操作をじっくり覚えることにした。
Finaleの操作を覚えていく中で、ふと思ったことがある。
- Finaleを解説してくれるわかりやすいWebサイトがあれば、もっと楽に操作を覚えられるのに……
これから数回に渡って、Finaleに関する記事をいくつか投稿してみようと思う。Finaleの操作で消耗する人が一人でも減ってくれればと思う。
目次
Finaleの特徴
きれいな譜面が作れる
実は、市販の楽譜のほとんどががFinaleで作られている。出版クオリティが出せるソフトなだけあって、綺麗に整った譜面を作ることにかけては、右に出るソフトはいない。
「きれいな楽譜」を目指すなら、SibeliusよりもFinaleのほうが優秀だろう。作曲家/編曲家の人にとっても、「浄書屋さんを頼らずにパート譜まで作りたい!」という状況があれば、Finaleを使えると心強いのではないかと思う。
操作が直感的ではない
Finaleは「操作が直感的ではない」という、人によってはデメリットとなり得る特徴も持つ。ちょっとしたレイアウトの調整にも関わらず、深い階層まで潜らないと設定項目が出てこなかったりする。
例:譜面左部のパート名を変更したいときは、メニュー>ウィンドウ>スコアマネージャーとわざわざ進まなければならない。※パート名の右クリックからでも一応変更可能だが、その箇所についての変更しかできない。
また、似たような操作にも関わらず、別のツールを選択しないと処理ができなかったりすることもあり、操作を体系的に覚えにくいところがある。
例:「小節番号を隠す」と「空の五線(小節)の非表示」。割と似たような操作だが、それぞれ「小節ツール」/「五線ツール」と、別のツール選択時のメニューに割り当てられている。こういった割り当てのルールも、直感的に把握しづらい。
慣れるまでは、「この操作をしたいときには、ここをいじる」というのを、いちいちメモしておくのがオススメ。
スムーズなコード入力には「仕込み」が必要
コードネームの入力は、多くの譜面ソフトが苦手としてきた分野だ。Finaleも例にもれず、そんな一面を持っている。設定を追い込むまでは、なかなか思い通りに入力しづらい。
Finaleでは、コードを表記する場合、ルート以外の箇所を「コードサフィックス」で表現する。コードサフィックスとは、いわばスタンプやハンコのようなもの。C△7というコードであれば、「△7」の部分がコードサフィックスになる。「△7」というハンコをポンポンと押していくような形で、コードを表記していく仕様だ。
デフォルトのコードサフィックスは、お世辞にも見やすい状態とは言えない。自由にコードネームを表記する場合、コードサフィックスを自作することが必須になってくる。
あらかじめ用意されているコードサフィックスだと、表記が自分の好みにならないことも多い。例えば、
- 「Cmaj7」と書きたいのに、「C△7」というコードサフィックスしか用意されていない
- 「 C7+9」と書きたいのに、「C7(#9)」というコードサフィックスしか用意されていない
というような状況が出てきたりする。その場合も、やはり自分でコードサフィックスを編集してやる必要が出てくる。
また、前述の通り、コードサフィックスはスタンプやハンコのようなもの。もし次のような欲求が出てきた場合、コード・サフィックスを構成する各文字の位置調整を、自分で行う必要が出てくる。
- 「△7」の7の部分を、もうちょっと下にしたい
- 「7(#9)」のテンションの部分は、もうちょっと小さくしたい
この作業がけっこう面倒くさい。「自分用のコードサフィックステンプレート」が完成するまでは、ストレス無くコードネームを入力するのは難しいかもしれない。
良くないことばかり書いたが、コードサフィックスを一度完全に作り込めば、その後の入力は楽にできる。手書きよりもずっと速く入力できるし、思い通りの表記に仕上げられる。
※Finaleのコードサフィックスの編集方法については、別に詳しく記事を用意した。
Finaleでコード譜を作ろう #1:コードサフィックスを徹底編集
廉価版には機能制限があり(※Win環境の話)
※Windows限定の話です。Macだと最上位版Finaleしか使えないので関係ありません。
Finaleには
- Finale(最上位版。一番高いやつ)
- Finale PrintMusic(2番目に高いやつ)
- Finale Notepad(無料版)
という3つのラインナップがある。
しかし、比較表を見ても、「何が出来て、何が出来ないのか」が分かりづらい(この譜面ソフトに限ったことではないが)。
「何かの操作をやろうとしたけど上手く行かず、そこで初めて機能が制限されていることに気づく」ということも多い。このあたり、けっこう不親切だと感じる。
例としては、最上位版の1個下のグレード「PrintMusic」だと、次のような操作はできなかったりする。
- コードサフィックスの自由な設計
※コードサフィックス:コードのルート音以外の部分のこと。例えば「CM7」では「M7」、「C7(9)」では「7(9)」がコードサフィックスとなる。 - 譜面の2段目以降で、音部記号(ト音記号やヘ音記号)を省略すること
- オリジナルのリハーサルマークの作成(例:「Verse」「Gt.Solo」)
- アーティキュレーション・ツールを使ったショートカット(例:Sキーを押しながら音符クリックでスタッカートを付ける)
このように、廉価版のFinaleでは、意外とかゆいところに手が届かないようになっている。なので、
- 仕事できれいな譜面を用意する必要がある
- 手描きの譜面のように思い通りに譜面を書きたい
こんな人は、素直に最上位版のFinaleを購入するのがオススメだ。とはいえ、下位のバージョンからアップグレードすることもできるし、それで割高になるようなこともない。試しにPrintMusicから購入するのもアリ。
操作方法の習得について
マニュアルが使いづらい
マニュアルはオンラインで提供されているが、かなり使いづらい。
- 基本的に、索引から検索するような使い方しかできない。「順序立てて操作を覚えていく」という体系的な学習がしづらい。
- 特定のワードで検索しても、引っかかるページが大量にある。そのため目的の項目になかなかたどり着けない。
- PDFのマニュアルと違って、「特定のワードで文書検索しつつ、ページを読み込んで行く」という読み方ができない。
- オンラインマニュアルはWebの階層構造になっていて、何度もクリックしないと目的の項目までたどり着けない。ユーザビリティ的に微妙。
本国MakeMusic社のFinaleマニュアルがこういう仕様になっているので、まあ仕方ないのかもしれない。日本のFinaleオンラインマニュアルは、単に和訳しただけだと思われる。
クイックリファレンスガイドは分かりやすい
「クイックリファレンスガイド」は分かりやすい。これはFinaleの国内代理店が作っている入門向けマニュアルで、基本的な操作について解説されている。ソフトに触れる前に読んでおけば、理解の助けになること間違いなし。
※クイックリファレンスガイドは、Finaleをインストールする際、一緒にインストールされる。
公式チュートリアル動画が役に立つ
Finaleの代理店は、YouTube上で「クイック・レッスン・ムービー」(QLM)という動画も配信している。この動画が分かりやすくて思いの外役に立つ。なにかわからない操作があったら、マニュアルを調べるよりも先に、QLMを確認してみるとよい。
(参考)Finale|クラブフィナーレ「学ぶ」| クイック・レッスン・ムービー
他の譜面ソフトと比較したFinaleの特徴
※筆者はFinaleしか使ったことがないので、多少バイアスのかかったレビューとなります。ご了承ください。
やはり操作が直感的じゃない
色々な人の声を聴いていると、やはりFinaleはSibeliusよりも操作が複雑なのでは?と思えてくることが多い。例として、「FinaleからSibeliusに乗り換えた人の喜びの声」が、Sibeliusのサイトで宣伝に使われていて、
- 「Finaleだと手間のかかる作業がSibeliusではワンクリックでできる」
- 「Finaleを学ぶのに費やした2ヵ月間は、人生最大のフラストレーションでした」
上記のような意見が挙がっている。
宣伝のためのページなのだから、多少の脚色はあるのかもしれないが、実際ここに書かれていることは割と正しいと思う。本当に「直感的に使えない」というのが最大の弱点。
Finaleのサイトにも次のような記述がある。
Finaleは、車に例えるとマニュアル車みたいなものなんです。マニュアル車はアクセルを踏めばただ動くというわけではなくて、上手く操縦できるまでに多くの練習が必要です。
吉松氏の語っている内容はもっともだと僕も思う。Finaleを使っていくには、操作をマスターできるよう地道に練習していく必要がある。
動作に安定感がある
例えば新しい譜面ソフトであるSteinberg Doricoも魅力的だが、バグの報告を聞いたりすると、やはり本格的に導入するはためらってしまう。Finaleなら長年の歴史があるので、安定して使える。僕自身、致命的なバグにはまだ遭遇していない。
価格は割とお手頃
Sibeliusの永続ライセンス版と比べて、Finale(最上位版)は2~3割ほど安い価格で手に入る。価格に関しては、Finaleにアドバンテージがあるといえる。
おわりに
今回はFinaleの概要について書いた。デメリットの記載も多くなってしまったが、一度マスターしてしまえば後は大丈夫。スラスラと譜面が作れるようになる。※今まで手書きで譜面を書いていた時間が惜しくなるほどだ。
次回以降、具体的な操作方法やTipsについて記事を書いていく予定だ。