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EDM向けシンセ、LennarDigital Sylenth1を徹底解剖【レビュー】

LennarDigital Sylenth1は、昨今のEDM系の音楽でよく使われている、人気の高い定番のソフトシンセだ。基本的なシンセ波形をフィルターに通して音作りをするタイプの、いわゆるアナログシンセの音が出るソフトシンセとなっている。

使い勝手が良く、出音が良い。Sylenth1が長く愛されてきたのは、こんなシンプルな魅力を持っているからだろう。EDM向きとされる後発のシンセは多くあるが、音質の良さ、CPUへの負荷、使い勝手など、総合的に考えると、今でもこのシンセがベストだと僕は思っている。

今回はこのSylenth1について徹底解剖していきたい。

Sylenth1の良いところ

操作がシンプル

必要なパラメーターだけを過不足なくいじれるようになっている。信号の流れも分かりやすく、使用するオシレータが2個以内であれば、1つの画面で音色作りが完結する。操作がシンプルな分、ゼロから自分で音色を作る場合も気が楽。

音が良い

例えばSuperSawのような音で和音を鳴らすような場合。Native Instruments Massiveで音を作ると、どこかデジタルっぽい無機質な印象を受ける。しかし、Sylenth1ならアナログのハードシンセを思わせるような、綺麗な心地よい音が鳴ってくれる。そんなイメージだ。

また、Sylenth1は今どきのシンセらしく、高域まで伸びたレンジの広い出音をしているので、現代的なダンスミュージックを作る上で使い勝手が良い。

もちろんフィルターを絞って甘い音にすることも可能なので、どんなジャンルの音楽でもオールマイティーに使うことができる。

軽い

CPUへの負荷は少なめ。EDMではエフェクト処理も大事になってくるため、そちらにCPUのパワーを回せるのは嬉しい。

市販のプリセットが多い

有料・無料問わず、プリセットが多く出回っている。音作りが苦手な人でも、安心して使うことができるはずだ。



Sylenth1のイマイチなところ

プリセットの音色がそれほど使いやすくない

Sylenth1のプリセットも、多くのソフトシンセ同様、派手なエフェクトが掛かっていたり、アルペジエーターが鳴り出したりと、実際の曲の中では使いにくい音色が多い。

実際に曲中で使えそうな音色は、2~3割くらい(※個人の感想です)。まあ「よく分からないけど、なんかカッコイイ音が出る」ようにしといたほうがシンセの性能をアピールしやすいだろうし、ソフトを売りたいメーカーの事情を察すれば仕方ない部分もある。

音色管理がしづらい

Sylenth1は音色管理の機能が充実していない。音色のタグ管理や、レーティング管理はできないし、ユーザープリセットを保存しておくような枠も無い(ファクトリープリセットを上書きする形になる)。

Omnisphereあたりと比べると、音色管理のしやすさは雲泥の差。Sylenth1では、自分なりに工夫をして音色管理する必要がある(後述)。

複雑な音色は作れない

  • 2個の波形をモーフィングさせる
  • エンベロープの角度を自由に調整する

こういったことはできない(MassiveとかOmnisphereならできる)。とはいえ実際の曲作りでは、複雑な音色を使う機会は意外と少ない。特殊な音色を使うのでなければ、まず困ることはないはず。

パラメーターの見方

一般的なアナログシンセと同じように、「オシレーター → フィルター → アンプエンベロープ」と信号が流れていく。この基本的な流れの中で、必要に応じてLFOやモジュレーションエンベロープを使い、各種パラメーターを変調させていくこともできる。シンセとしては、ごくシンプルな設計となっている。

オシレーターは最大4つ、フィルターは最大2つまで使うことができる。(たくさん使うときは、Part Bの部分も開いてみよう)。フィルターエンベロープはデフォルトでは用意されておらず、自分で設定してやる必要があることに注意。

ここではSylenth1のパラメーターについて、重要な部分を抜粋して見ていくことにする。

オシレーター

f:id:singingreed:20180724143533j:plain ※重要な項目は太字

  • Octave:ピッチをオクターブ単位で変える。
  • Note:ピッチを半音単位で変える(例:+7なら完全5度高くなる)。
  • Fine:チューニングの微調整。※Sylenth1にはマスターチューニング機能がないので、A=440Hzから変える場合はここをいじる。→ Ver3.050以降はSettings.xmlをいじることで一応マスターチューニングの設定が可能になった。
  • Volume:オシレーターの出力音量。
  • Phase:発音時の位相(波形の開始地点)を変える。RetriggerがONのときのみ有効。
  • Detune:デチューンの度合い(ピッチのずれる量)を決める。当然Voicesが2以上のときのみ有効。
  • Stereo:デチューンした波形を、どの程度左右に広げるかを決める。Voicesが2以上のときのみ有効。
  • Pan:オシレーター出力の定位を決める。基本的にセンターで良い。
  • Inv:オシレーター出力が逆相(波形が反転)になる。普通はOFFで良い。
  • Wave:シンセ波形を選ぶ。ノコギリ波、矩形波("Pulse"表記)、パルス波、三角波、サイン波、ノイズと、基本的な波形は揃っている。
  • Voices:重ねる波形の数を決める(0だと音は出ない)。
  • Retrig:リトリガーのON/OFF。基本はOFFで良い(後述)。

フィルター

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フィルターはごく一般的なものが搭載されている。ハイパス、ローパス、バンドパス、フィルター無しの4つから選べて、12dB/octと24dB/octの切り替えが可能。カットオフ、レゾナンスも一般的な挙動をする。

Driveを上げると、音を歪ませることができる。これが他のシンセと違う、Sylenth1の特徴といえるかもしれない(※フィルター未使用のときはDriveは無効)。歪みの性質としては、奇数倍音が付加されるタイプになっている。ある程度歪ませたほうがアンサンブルに馴染みやすいので、適度に上げると良い。

Sylenth1ではオシレーターAの信号をフィルターAに通して音作りをするのが基本だ。Input SelectでAを選択すると、オシレーターAがフィルターAを通過するようになる。

※オシレーターA = オシレーターA1+オシレーターA2 のこと

もしオシレーターを3基以上重ねてフィルターAを通したい場合は、Input Selectを「A and B」にしよう。それからPart Bのページに移動し、オシレーターBの調整をすればよい(その際、フィルターBのInput Selectは「No Input」にする)。 

フィルターコントロール

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フィルターAとフィルターBを同時に操作するために用意されている機能だ。各々のフィルターで設定した値を基準とし、そこからさらにパラメーターを調整できる。なお、KeyTrackの調整と、Warm Driveのオンオフはここで行う仕様となっている。したがって、フィルターを1つしか使わないときでも、意外といじることが多い項目だ。

Keytrack

このパラメーターを上げると、フィルターのカットオフ周波数を、演奏される音の高さに応じて変えることができる。「低い音のときはOKだけど、高い音を演奏すると音がこもっている…」みたいな時に上げてやるとよい。

Warm Drive

ONだと、フィルターの歪みが強いモードに切り替わる(※より高次倍音まで付加されるようなサチュレーションになる)。ONだとCPU負荷も高くなる。

モジュレーション

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Mod Env

エンベロープを各種パラメーターにかけることができる。フィルターエンベロープとして使うケースが多いだろう。

LFO

一般的なLFO。波形も各種選択可能。

Misc

MIDI情報を元に各種パラメーターを変化させるときに使う。

  • モジュレーションホイールでビブラートをかける
  • ベロシティに応じて音色を変化させる

上記のようなことをやりたいときに使うとよい。

上部のセクション

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Polyphony

同時発音数の設定。和音を鳴らすときは多くすると良い。

Solo

現在選択されているパートのみをソロで鳴らせる。Part AとPart Bでそれぞれ音を作って、それらを重ねるような音色のときに、各々の音色の確認に使うと便利。

Sync

LFOやディレイなどを、DAWソフトのテンポに応じた設定にできる。

下部のセクション

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Bend Range

ピッチベンドで変化する音程を決める。デフォルトが3(1音半)と、少し特殊。

Mono Legato

出音をモノフォニック化できる。シンセリード等を演奏するときにはONに。

Portamento

次の音を演奏する際にポルタメントがかかる。こちらもシンセリード音色で使うとよい。つまみでポルタメントの速度を調整することができる。

なお、NとSの違いは次の通り。

  • N(ノーマルモード):レガート演奏時のみポルタメントが効く。
  • S(スライドモード):発音に間が空いてもポルタメントが効く。



メニュー項目について

音色の管理について

  • 音色を作ったら、Menu > Preset > Save as で音色を保存できる。
  • 音色名は、音色名の左側にある黒丸をクリックすると変更できる。

よく使うコマンド

  • Insert:現在選択している音色とその前の音色の間に、初期化された音色を挿入する。
  • Delete:現在選択している音色をバンクから削除。それ以降の音色を前に詰める。
  • Clear:現在選択している音色を消去し、音色を初期化する。
  • Reset:現在選択している音色について、変更したパラメーターを初期状態に戻す。

おすすめの使い方

起動時のプリセットをユーザーバンクに変更する

前述のとおり、Sylenth1は音色管理の機能がイマイチ。ユーザープリセットを使う場合は、その都度ファイルをロードする必要がある。これは少し面倒くさい。ある程度使い慣れてくると、ファクトリープリセットを使うことは少なくなる。そこで、起動時のプリセットが自分のお気に入り音色になるように変更しよう。

手順は次の通り。まず、ユーザーバンクを作る。

  1. 音色のファイルを種類別(Pad、Lead等)にフォルダに分ける。
  2. Menu > Preset > Load と進み、フォルダ内のパッチをすべてロード。
  3. プリセットが複数、上書きされる。
  4. 次のプリセットに移動。手順2と同じように、別のフォルダのパッチをロード。
  5. すべての音色を読み込んだら、Menu > Bank > Save as より、バンクを保存。「UserBank.fxb」とでも名付け、ファクトリーバンクと同じフォルダに保存する。

これで、音色ジャンルごとにプリセットが整列した、自分仕様のユーザーバンクが作られる。次に、デフォルトで読み込まれるバンクを、ファクトリーバンクからユーザーバンクに切り替える。やり方は次の通り。

  1. Menu > Open Datafolder とクリック。Sylenth1のデータフォルダが開く。
  2. Configフォルダ内の「Settings.xml」ファイルをメモ帳などのテキストエディタで開く。
  3. <DefaultBank name="UserBank.fxb"/>と書き換えて、上書き保存する。

これでOK。もし元に戻したくなったときは、手順3で書き換えた内容を「FactoryBank1.fxb」に戻せばよい。

※作業は自己責任で。不安な人は書き換え前に、元の「Settings.xml」ファイルのバックアップを取っておきましょう

(参考)Soundbanks and Presets(公式サイト)



知っておきたいTips

パラメーターのコピペ

オシレーター、フィルター、エンベロープ、LFOのパラメーターは、コピー&ペーストすることが可能。各項目の右側の▽をクリックするとメニューが出てくるので、そこからコピペ可能。

デフォルトの出力音量が大きすぎる

プラグインを通すときに歪んだりクリップする原因になるので、Main Volを下げたほうがいい。

アタックタイムとリリースタイム

エンベロープのアタックとリリースは0に設定できるが、0だとノイズが出ることもある(アンプエンベロープで試すと分かりやすい)。これを防ぐには、ほんの少しだけ値を上げてやると良い(マニュアルにも記載あり)。

リトリガーが初期状態でONになっている

リトリガーとは、デチューンして重ねられた波形の頭を、それぞれ揃える機能だ。ONだと、音が発音される瞬間の波形がどれも同じ形になるので、出音をステレオで広げていても、発音の瞬間には広がりが得られなかったりする(ON/OFF比較するとわかる)。シンセはデチューンして鳴らすことも多いので、基本OFFでいいと思う。

フィルターを自己発振させる方法

少々やり方が分かりづらいが、Sylenth1でフィルターを発振させることも可能。まず、スピーカーを飛ばさないように、Main Volを1くらいまで下げておこう。何かしらの波形を選択し、Voicesは1以上、Volumeを0にする。この状態で、フィルターのレゾナンスをMAXにし、さらにFilter Controlのレゾナンスも上げる(MAXくらいでいい)。

これでフィルターの自己発振音が出てくれる。フィルターのカットオフを調整すれば、発振音の高さも変えられる。

パラメーターの微調整

Shift + ドラッグで微調整可能。

OSを再インストールするときはDeactivateを忘れずに

PCを買い替えたりするときは、Deactivateを行ってライセンスを解除しておく。これをやらないと、アクティベーション回数を1回分失ってしまうので注意(サイト上で復活可能だが、回数制限があるので)。

(参考)【DAW】OS再インストール時のメモ~その1:アクティベーション解除

クリエイターが教えるシンセサイザー・テクニック99