目次
デモ音源
ダンス系の歌ものポップスを想定したトラックです。Vienna Chamber Strings 1(Standard + Extended)をVienna Instruments Proで鳴らしています。
人数感がポップス向き
ポップスの音楽に生のストリングスを入れる場合、「6422」という編成が多い。
- 1stヴァイオリン:6人
- 2ndヴァイオリン:4人
- ヴィオラ:2人
- チェロ:2人
内訳は上記の通りだ。音の立ち上がりや、曲にふさわしい人数感を考えると、6422の編成はサウンド的に汎用性が高いのだ。
※ポップスにはエレキベースがいるので、普通はコントラバスは省く。
Vienna Chamber Stringsでは、各楽器の人数は次の通り。
- ヴァイオリン:6人
- ヴィオラ:4人
- チェロ:3人
- (コントラバス:2人)
そのため編成は「6643」となる。6422の編成に比較的近い。
2ndヴァイオリンは別途収録されていないので、ヴァイオリンのトラックを2個立ち上げて使おう。1stと2ndでユニゾンさせるときは裏技を使う(後述)。
Viennaエンジンが圧倒的に優秀
必要なパッチだけを読み込めば済む
例えば、サステインとピチカートとトレモロしか使わない人ならば、3つのパッチだけをマトリックス上にロードしてプリセットを作れば良い。不要なパッチをロードしなくてよいので、動作も軽快になる。
また、それらのパッチはキースイッチで切り替えが可能。トラックを分けなくても曲中で奏法を切り替えることができる。キースイッチも好きな高さの鍵盤にアサインすることができ、自由度が高い。
他社のストリングス音源だとこうは行かない。
EastWestの音源は、キースイッチが使えるプリセットには不要な音色も入っていたりする。またPlayエンジンはロードが遅く安定感に欠けている(最新Verでは解消されたらしいが)。
LA Scoring StringsはKONTAKTベースのためキースイッチの設定が少し面倒。またKONTAKTという汎用エンジンを使っているため、パッチごとの設定をするのには操作の手数が多くなる印象だ。
そんな中、Viennaエンジンは圧倒的な使い勝手の良さを誇っている。安定感、ロード速度、GUIの見やすさ、どれを取っても頭一つ抜けているのは、専用エンジンの賜物といえるだろう。
ヒューマナイズ機能が優秀(VIProのみ)
Vienna Instruments Pro(VIPro)という別売のソフトを使うことで、ヒューマナイズ機能を有効にすることができる。これが非常に優秀。
ヒューマナイズ機能でできるのは次の2点。
- 音の立ち上がりのピッチをランダムに揺らすことができる
- 音の立ち上がりをランダムに遅らせることができる
特に1点目の「ピッチ揺らし」が素晴らしい。バイオリン等の弦楽器はギターのようにフレットがないため、上手な奏者でも機械のような正確なピッチは意外と出ないものだ。Vienna特有の落ち着いた音色のキャラクターを緩和する意味でも、このヒューマナイズ機能は必須といえるだろう。
1パートあたりの「ピッチ揺れ」がもたらす効果はわずかでも、ストリングスセクションなら4パート分、それぞれのピッチが揺れることになる。その効果は想像以上に大きく、音の広がり方は明らかに変わってくる。
Viennaの音源を導入する際は、ぜひVienna Instruments Proも合わせて購入することをオススメする。
サンプルのレイヤーが自由にできる
通常のViennaエンジンならば2個、VIProならば4つのサンプルを重ねられる。後述するが、ポップスでは2つのサンプルを重ねたい局面が出てくるので、この機能も欠かせない。
残響成分が含まれていない
ポップスにストリングス音源を入れる場合、曲によってベストな残響の量は変わってくる。そこで、作りたい音像に合わせて残響の量を調節できるよう、音源自体はドライな(=残響成分が含まれていない)音が望ましいのだ。
ドライな音源に、後からリバーブを掛ける。それが今までのポップス制作における共通認識だった。ドライな音源の筆頭格であるViennaのライブラリが、ポップスで使われることが多かったのも必然かもしれない。
ただし、リアルなストリングスにするには良いリバーブが必要になってくる。コンボリューションリバーブならAltiverb、アルゴリズミックリバーブなら2CAudio B2やLexicon PCM Reverbなどの高品質なリバーブを使うのが理想だ。
Vienna社自身も、MIR Proというオーケストラ向けのコンボリューションリバーブをリリースしているほどだ。音源がドライであるほど、リバーブの重要度は高くなるのは間違いない。
ただし今後のViennaは……
とはいえ結局、リバーブを後がけしたところで実際のホールで録音した残響にはかなわない。ストリングスがリアルに聴こえるかどうかは、残響成分に依るところも大きいのだ。
そういった理由からかは不明だが、VSL社も最近は、「オンマイクの音」と「別ポジションのマイクの音」をユーザーが好きな割合でブレンドできるような音源の開発に力を入れている。
それがSynchronシリーズだ。Synchron Percussionはすでにリリースされているし、Synchron Stringsのリリースも先日発表された。従来のViennaの音源は、とにかくドライな音で収録されてきたが、今後は方針が変わっていくのかもしれない。
音色のキャラクターは割と落ち着いている
Viennaのストリングスは全般的に音色の表情が落ち着いている。Chamber Stringsも例に漏れずそういった傾向がある。そのため、打ち込みを工夫しないと無表情なトラックになりやすい。MIDI CC11のExpressionなどを駆使して、上手く強弱をつけてやる必要が出てくる。
元のサンプルが表情豊かで、ベタ打ちでもそれなりに鳴ってくれるEastWest社の音源とは対象的かもしれない。
ただ、どんなストリングス音源であってもエクスプレッションを描くかどうかでリアルさは大きく変わってくる。生っぽいストリングスを目指すなら、労力に対する見返りが一番大きいのはViennaだろう。Viennaエンジンの使い勝手が良いぶん、他の音源より作業がはかどりやすいはずだ。
Chamber Stringsを活用するためのTips
Vienna Chamber Stringsを活用するためのテクニックについて紹介する。
音にアタック感をつける方法
この音源に限ったことではないが、多くのストリングス音源はポップスの曲を演奏するには音の立ち上がりが遅く、速いパッセージが上手く決まらないことが多い。
そこで、よく知られたテクニックがある。
- サステインのサンプルに、スタッカートのサンプルを重ねる
これだけだ。Viennaエンジンは幸い、1つのセル上で2つ(※VIProなら4つ)のパッチを鳴らすことが可能。適切なバランスで鳴るよう、音量バランスを上手く調整すると良いだろう。
また、ストリングスという音色はそもそも音の立ち上がりが遅いものなので、トラックディレイで発音を早めるのも有効だ。
参考:【Tips】Cubaseの実践的な使い方を15個紹介(→13. トラックディレイ)
1st・2ndヴァイオリンでユニゾンする方法
前述の通り、1stヴァイオリンと2ndヴァイオリンでユニゾンをするには工夫が必要だ。何も考えずに2トラックで同じフレーズを演奏してしまうと、同じサンプルが鳴ってしまい、2本鳴っているようには聴こえないからだ。
そこで裏技を使う。手順は次の通り。2ndヴァイオリンについて下記の処理を行う。
- ユニゾンしたい箇所で、ピッチベントを使って半音だけ上げる
- MIDIノートを半音下で鳴らす
これで1stヴァイオリンとのユニゾンが可能だ。Chamber Stringsは半音ごとにサンプリングがされているので、ピッチベンドは半音だけで良い。
この方法は昔海外のフォーラムで見つけたものだ(URLは忘れてしまった)。
SSDの使用を推奨
音源ライブラリのデータは、OSとは異なるSSDに置いておくのがオススメ。複数の奏法をまとめてロードする関係上、容量も食うので、SSDを使ったほうがパフォーマンスが上がる。
Vienna Instrumentsをインストールするとき、「Directory Manager」というソフトも一緒にインストールされる。このツールでライブラリの箇所を自由に指定できる。
その他の覚え書き
駆け上がりについて
駆け上がりのサンプルは収録されていないので、レガートパッチを使おう(デモ音源でもそのようにしている)。
Extendedについて
Extendedを買うことで追加の奏法サンプルが使えるようになる。詳細は代理店のサイトを参照してほしい。
Extendedにしか含まれていないサンプルの例としては、サステインの「fA」というバージョンのものがある。これは通常のサステインのサンプルの頭を切ってアタックを早めたような音だ。速いフレーズを鳴らす上で便利なので、個人的には必須。
とはいえポップスで使うだけなら、ほとんどのサンプルは必要ない。必要に応じて買い足すのが良いだろう。
1と2の違い
「Chamber Strings 1」が通常の音源。「Chamber Strings 2」は弱音器付きの音が収録されている音源だ。ポップス用途なら1だけ買えばよい。