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宇多田ヒカル「誓い」のリズムを解釈・考察する(音源あり)

宇多田ヒカルの「誓い」という曲がある。

はじめは正しくリズムを解釈することが出来ずにいたのだが、2ヶ月くらい経って、ようやく作者本人(宇多田ヒカル)の意図しているであろう、正しいリズムで聴くことができるようになった。 当記事ではこの曲のリズムの考察についてメモしておく。

曲のリズムについて

結論から言うと、この曲は単なる「シャッフルの6/8拍子」だ。BPMは64。※「♪(8分音符)=128」という表記になる。 6/8拍子かつ、1拍(=8分音符)の分解能が3つになっているような、ハネた(3連系の)リズムになっている。本人も「6/8のつもりで曲を作っている」と語っているので、間違いない。

宇多田:「誓い」という曲の一部が『KINGDOM HEARTS Ⅲ』のトレーラーで公開された時、「リズムの取り方がわからない」、「どういう拍子だか理解ができない」という反応が多かったんです。私自身は、ごく普通で単純な、心地の良い6/8拍子のつもりだったんで、それはとても予想外な反応でした。

出典:宇多田ヒカルが語る、“二度目の初恋” 「すべての物事は始まりでもあり終わりでもある」 - Real Sound|リアルサウンド



第一印象について

だけど、僕がはじめてこの曲を聴いたときは「キックが1拍目、スネアが2拍目」に来るような、4/4拍子のリズムだと思っていた。 もちろんこう解釈すると、少し特殊なリズムに聴こえてしまう。だけど、昨今のヒップホップでは「1拍5連」のような、「奇数連符のサブディビジョン」な曲も多い。作者もあの宇多田ヒカルだし、ドラマーもChris Daveだし、「何か仕掛けて来た」のかなと思っていた。

その後、正しいリズムを理解

そして先日、宇多田ヒカルの言っている意味がようやくわかった。次のような要素を手がかりに、6/8拍子で聴くことができるようになったのだ。

  • サビのボーカルだけを脳内で抽出して聴くと、確かに6/8のリズムになっている。
  • 1Aから入ってくるLchのリムショット音を聴くと、拍頭で刻んでいることが分かる。
  • 3:14のキックの連打、3:34のシンセベースの刻みも、3連系だと分かるヒントになっている。

このように少し聴き方を変えることで、「本人の意図したリズム」で曲を聴くことができるようになった。新しい解釈で聴くと、ごく自然なリズムの曲に聴こえる。 音源のイントロ部分を耳コピし、打ち込みで音源を作ってみた。拍を明確にするため、クリックも同時に鳴らしている。もし正しいリズムが理解できないという人がいれば、ぜひ聴いてみてほしい。

原曲と比べて、より「6/8拍子の感じ」が分かりやすくなっているのではないだろうか。



なぜ4拍子という解釈になってしまったのか?

リズムを上手く解釈できないという話がリスナーからも寄せられているし、僕自身も最初はそうだった。では、なぜそのように聴こえてしまったのだろうか。 原因は次の2点だと思う。

  1. イントロのピアノの弾き方(アクセントの位置)が特殊だから。
  2. スネアの位置もピアノの刻みと同じく、「2拍目のハネた裏(=3連符の3つ目)」という、少し珍しい位置にある。

1. イントロのピアノについて

まず1点目。イントロのピアノの刻みは、予備知識無しに聴くと次のように聴こえる。

  • 1つ目の音(右手):1拍目の表
  • 2つ目の音(左手):1拍目の裏
  • 3つ目の音(右手):2拍目の表

洋楽/邦楽問わず、バラード曲では「イントロのピアノの4分刻み」は定番(例:「Yesterday Once More/Carpenters」)。そういった曲が脳内に染み付いている人にとっては、上記のように4分刻みっぽく聴こえやすいはず。 だけどこの解釈は、前述の通り本人の意図したリズムではない。正しい解釈は次の通り。

  • 1つ目の音(右手):1拍目の表
  • 2つ目の音(左手):2拍目の表
  • 3つ目の音(右手):2拍目の裏(ハネた裏。3連符に分けたときの3つ目の位置)

このように、アクセントが2拍目のハネた裏に来ている。通常アクセントの位置は拍の頭に来ることが多いが、この曲では違っているのだ。左手のルート音があまり強く演奏されていないことも、拍頭を分かりづらくさせる要因だろう。

2. ドラムについて

そして2点目。一般的なリズムでは、スネアは拍の頭に来ることが多い。しかし、この曲ではスネアの位置は、ピアノ同様「2拍目のハネた裏(3連符の3つ目)」に位置している。このことも拍子を分かりづらくしている原因だろう。

※もちろん、分かりづらいことは悪いことではない。「玄人好み」なリズムということ

ドラムが入った途端「はい、今までのはリズムトリックでした~!」という風に、正しいリズムが判明するパターンの曲は比較的多いが、この曲ではそれが無い。そのため、「イントロで聴衆に与えたリズムの印象」がそのままリスナーを支配し続け、最後までリスナーは正しいリズムを理解すること無く、曲が終わってしまうこともありそうだ。

どうすれば理解しやすくなるのか

※ここで書くことは作品の内容を批評するものではないので、予めご了承ください。

例えば、バンドでカバー演奏することになった場合、リズムを正しく理解できないメンバーがいるかもしれない(先日までの僕のように)。そういうときに、どうすれば伝わるようになるか。 そんなときは、イントロのピアノについて、

  • 2拍目表の左手を、はっきりと強く弾く
  • 2拍目裏の右手を、もう少し弱く弾く

こういう風に、拍の頭を分かりやすくなるように演奏すれば、リズムを把握しやすいはずだ。

宇多田ヒカル 初恋