今回は、曲にハモリやコーラスを入れる方法について、音楽理論的な解説を交えながら紹介する。曲を作りたい人、バンドの演奏にコーラスを取り入れたい人、「歌ってみた動画」を投稿したい人。そんな人がいれば、ぜひ役立ててみてほしい。
- デモ音源はすべて、筆者が適当に作曲したものです。
- 音源では、ピアノ音色でメロディ、エレピ音色でコードを演奏しています。※多重コーラスではクワイア音色を使用
目次
ハモリを入れるための2大ルール
1. スケール(音階)の音を使う
ハモリのラインを考えるときは、曲で使われているスケールの音を使うようにする。
2. コードに合わせる
この「コードに合わせる」という意識が抜け落ちている人が意外と多い。特に伸ばしている音にハモリを付けるような場合は、コードの構成音になっている or テンション音として成立している必要がある。
単純に3度上 or 3度下で音を出しているだけだと不協和音になることもあるので、そういう時はコードの構成音に合わせて調整しよう(具体例は後述)。
ハモリを入れる具体的な方法
ここからは譜面と音源を交えつつ、ハモりを入れる具体的な方法について解説していく。
- 黒い音符:主旋律
- 青い音符:ハモリ
※音源は「主旋律のみ → 主旋律&ハモリ」という順で再生されます。
1. 字ハモ(並走タイプ)
主旋律(メインボーカル)が上下するのに合わせて、ハモリも一緒に上下する。この「並走タイプ」のハモリが最も多いパターンだ。
1-1. 3度でハモる
音源
3度でハモるケースが最も多い。一番自然に聴かせることができる。
1-2. 6度でハモる
音源
6度のハモリも自然に聞かせることが出来る。
3度のハモリをオクターブ上げ下げすれば、それは結果的に、6度のハモリとなる。歌う人の音域の関係で、3度のハモリを作りづらいときなどに、この手法で6度のハモリを作るとよい。
3度のハモリと比べると、主旋律との音程が広い分、それぞれが独立した旋律として聴こえやすいという性質もある。
1-3. 4度でハモる
音源
4度でハモることもまれにある。4度のハモリが成立するときは、次のようなケースが多いだろう。
- 主旋律がコードに対するテンション音になっていて、 普通の3度のハモリじゃ合わない
- それに合わせてハモリのラインを考えているうちに、自然と4度のハモリになった
4度のハモリはどこかエキゾチックな雰囲気になる。
1-4. オクターブユニゾン
主旋律のオクターブ上/下で歌うことで、主旋律を補強するのもひとつのテクニックだ。厳密にはハモリではないが、ここで取り上げておく。
(参考)5度のハモリ
5度でハモることは少ないし、特別な意図がない限りは、オススメしない。ハモリが浮いて聴こえてしまいやすいし、ハーモニー的な広がりを得ることが出来ないからだ。
和声的にも、5度の音程を保ったまま2つの声部を動かすことは、「連続5度」という禁則になっている。多重コーラス等で、結果的に5度のハモリが生成されることはあるが、何か1つだけラインを考える場合は、やはり3度や6度を使うのがよい。
2. 字ハモ(コードタイプ)
音源
並走タイプでしっくりこないときは、ハモリのラインを動かさずに、コードの構成音で同音連打するとよい。コードが変わるときも共通音を利用するなどして、なるべくハモリの高さを変えないようにすると自然に聴かせることができる。
ハモリの数を3声程度に増やすと、コード感がはっきり出るので効果的だ。テンションコードを表現するときなどは、4声以上に増やすこともある。
3. ウーアーコーラス
音源
「ウー(フゥー)」とか「アー(ハァー)」といった音でコーラスを入れることを、ウーアーコーラスという。オケに厚みが出てドラマチックになるので、バラードやR&B、ソウル系の曲では特に有効だ。
上ハモ or 下ハモ?
上と下、どちらでハモっても大丈夫。上ハモと下ハモが途中で切り替わることもある。大事なのはコードに合っているかどうかだ。
上ハモと下ハモの性質は次の通り。
上ハモ
主旋律よりも高い音でハモることになる。ハモりのパートが目立ちやすいので、主旋律をじゃましないように、歌い方や声の大きさに気を配るとよい。例えば、地声で出せる音域でも、あえてファルセットで歌い、目立たなくさせる等のテクニックがある。
スタジオ録音の音源を作る場合、ミックスバランスにも気をつけたい。基本的には、主旋律がどちらなのか判別できる程度に、ハモりパートを小さくするのがベターだろう。
下ハモ
主旋律よりも低い音でハモることになるので、主旋律を支えるような、寄り添った響きになる。ハモりパートを極力目立たせたくないようなときは、まず下ハモが付けられないかを考えてみるとよい。
よくある間違ったハモリの例:2つ
1. いかなる状況でも、3度上 or 3度下でハモってしまう
前述の通り、ハモリパートがコードに合わない音を出していると、きれいに聴こえない。
まずNG例の譜面を見てみよう。
1小節目はコードがCMaj9で、主旋律はレで伸ばしている。上記画像のように、3度上でハモってしまうとハモリがファの音になってしまい、コードの構成音とぶつかるのできれいに聞こえない(※コードがCMaj9のとき、ファはアボイドノートなので)。
そこで、音がぶつかる部分のみ、ファ→ソの音に変更する。OK例の譜面は次の通りだ。
ハモリがコードの構成音となり、きれいなハーモニーになってくれる。2小節目に関しても、同様にファ→ソに変更している。
こういった方針でハモリを考えるとよい。
音源でも確認してみよう。「主旋律のみ → NGハモリ例 → OKハモリ例」という順で再生される。
2. sus4コード時に、3度のハモリを入れてしまう
コードがsus4になっているのに、安易に3度上(下)のハモりを乗せてしまうのもよくある間違いだ。3度の音と4度の音は、お互い半音の関係だ。音がぶつかるので、きれいに聴こえない。
まずNG例の譜面を見てみよう。
基本的には3度でハモればよいが、2小節目、Gsus4のときは注意。主旋律はソで伸ばしている。ここで上記画像のようにハモリを3度上のシにしてしまうと、コード(Gsus4)の構成音に含まれるドの音とぶつかってしまう。
そこで、やはりコードの構成音に合わせて、Gsus4のときはシ→ドに変更する。OK例の譜面は次の通りだ。
これで適切なハモリになる。
音源でも確認してみよう。「主旋律のみ → NGハモリ例 → OKハモリ例」という順で再生される。
覚えておきたいTips
ハモリを入れる場所について
サビの最初から最後まで、ずっとハモリが付いている。そんなハモリも悪くはない。しかし、要所要所でハモリを登場させたほうが効果的なことも多い。曲の核になるような印象的なフレーズ。どうしても伝えたい歌詞のワード。そういった重要度の高い部分で、ここぞとばかりにハモリを付けると印象に残る。
ハモリを付ける部分と、あえて付けない部分。うまく使い分けていくとよい。
上ハモと下ハモの共存について
主旋律の3度上と3度下、両方にハモりを入れてしまうと、ハモリ同士が5度の関係になる。その結果、ハモリパートが強調されてしまい、主旋律をじゃまするような、浮いた響きになってしまうことがある。
和声の禁則にある「連続5度」は、まさにこういった現象を避けるために定められている。しかし、実際はポップスの曲では――特にスタジオ録音の音源では――3度の上ハモと下ハモが共存していて、それらが5度の関係になっていることも少なくない。「レコーディングにおいては、ハモリの音量を自由に調整できるので問題ない」。そんな考えに基づいた結果だろう。
和声的にも、「ハモリパートは独立した声部ではなく、主旋律を補強しているパートにすぎない」と考えれば、連続5度の禁則には当てはまらないという解釈もできそうだ。それに、そもそも古典和声の規則を厳密に守るべきか?という話にもなってくる。クラシックですら、近代以降の作曲家は和声の禁則を守っていないことも多々あるのだ。
結論としては、聴いて変でなければOK!というスタンスで行くのがいいと思う。
- レコーディングでは細かくミックスバランスを調整できるので、和声の禁則は無視し、好きなようにコーラスを作ることにした。
- ライブでのコーラスを大事にしたい。完璧なミックスバランスが実現できないことも想定し、生演奏でも美しく聴こえるよう、和声のルールをきちんと守る。
ポップスを作る上では、このように臨機応変に行くのがよいと筆者は考えている。
最後に、和声の初歩について学びたい人にオススメの本を紹介する。
和声学はポピュラー音楽理論に比べて学習難易度が高いが、この本は対話形式で分かりやすく説明されている。早い段階で前述の「禁則」についても触れられているので、和声のエッセンスを知るのに最適だ。
ある程度ポピュラー理論のことが分かっていて、本腰を入れて勉強したいという人は、『総合和声―実技・分析・原理』あたりで学習するとよいだろう。