「射手座☆午後九時Don’t be late」のコード進行を徹底分析 ~衝撃の2段階転調~

今回は「射手座☆午後九時Don’t be late」のコード進行を分析してみる。

この曲は、TVアニメ「マクロスF」の挿入歌で、ファンからの人気が非常に高い一曲だ。作品に登場するキャラクターの曲という位置づけになっているが、実際のボーカルは歌手のMay’nが担当している。

射手座☆午後九時Don’t be late – YouTube

作曲・編曲は菅野よう子氏。キャッチーで分かりやすいメロディの裏で、ハイレベルなコード進行が展開されているのが特徴的だ。

  • コードは耳コピで採譜しています
  • マイナーキーであっても、その平行調のメジャーキーで表記することがあります(便宜上)

コード進行

イントロ(Key = Db)

(7/4)
| Bbm7(11) | Bbm7(11) | Bbm7(11) |

(4/4)(※全コード3度抜き)
| Bb C | Db Eb | Bb C | Db Eb |
| Bb C | Db Eb |
| Eb F |  | Eb F |  |
| F G |  |

イントロ部分のコード進行は上記の通り。

最初から7/4拍子と攻めている。コードはシンプルにBbmの一発モノ。ベースの細かいリフと、ギターの複音リフが同時に鳴る構造をしていて、プログレ的な匂いを感じさせるセクションだ。

4/4拍子に変わった後も、引き続きリフ的な展開になっている。コードはどれもパワーコード(3度の音が抜かれているコード)で、ロックっぽい音使いをしている。最後の2小節の部分では「F → G」という進行を登場させて、次のセクションで転調するためのきっかけを作っている。

目まぐるしい展開を見せるイントロだが、コード的にな部分に関しては、Bbmの一発モノとシンプルに解釈できそうだ。

Aメロ(Key = Eb)

| Gm/C |  | Gm/Bb |  |
| AbM7(9) | Bbadd9(omit3) | Gm7(11) |  |
| Gm/C |  | Gm/Bb |  |
| AbM7(9) | Gm7(11) |
| Fsus4 |  Fm7/Bb |

6度のマイナーコードから下がっていく、比較的オーソドックスなコード進行だ。ただし、通常ならCm7となるところを、Gm/Cとしているのがポイント。3度の音が抜かれることになり、浮遊感が出ている。

f:id:singingreed:20190626210108j:plain

ディグリー的に考えると、VIm7を、「IIIm on VI」で置き換えていることになる。他の曲でもたまに出てくるテクニックなので、押さえておきたい。

Bメロ(Key = Eb)

| EbM7 | DbM7(9) | CM7 | Bb6(9) |
| AbM7(9) | Gm7(11) | C |  |

※ディグリー表記
| I | VIIbM7 | VIM7 | V |
| IVM7 | IIIm7  | VI |  |

この曲で一番特徴的なのが、このBメロの前半の「EbM7 → DbM7(9) → CM7」というコード進行だ。※分かりやすくするために、ディグリー表記も併記。

ここはディグリーで考えると、「IM7 → VIIbM7 → VIM7」となる。なぜ特徴的かというと、VIIbM7はよく出てくるけど、VIM7はあまり見ることがないコードだからだ。

この部分の解釈としては、次の2通りの解釈ができそうだ。

  • トニックであるVImをメジャーコードに置き換えた、いわゆる「ピカルディの三度」的なコード。
  • 実はBメロ全体が、Key = Cに部分転調している。それならここは「IIIbM7 → IIbM7 → IM7」ということになるが、この進行は理論上、普通に説明できる(IIIbM7は準固有和音、IIbM7はサブドミナントマイナーの代理コード)。※さらに、その後のコードについても準固有和音と解釈できる。

その後のBb6(9)以降は、順次下降していく普通の流れ。そして最後のコードCをきっかけに、サビへとつながっていく。

サビ(Key = Ab → Bb)

| DbM7(9) |  | Cm7/F |  |
| Bbm7(9) | Eb7sus4 |
| C7sus4 | C7 |

| EbM7(9) |  | Dm7/G |  |
| Cm7(9) | F7sus4 | D7sus4 D7 |
| EbM7(9) DbM7(9) |
| Cm7(9) |  | D Eb E F F7sus4 |  |

サビではKey = Abに転調する(4度上への転調)。はじめのDbM7(9)というコードは、ディグリーでいうとIVM7(9)で、サブドミナントのコードだ。この直前のコードはCなので、転調も自然につながっている。

※DbM7(9)はFmと構成音が近いため、「C → Fm」という、ごく一般的な進行の亜種と解釈できる。

3~4小節目は、本来Fm7となるところを「Cm7/F」という分数コードにしている。ディグリーで表すと「IIIm7 on VI」。Aメロで出てきたのと同じパターンだ。3度抜きのコードな分、やはり浮遊感が出ている。

前半の8小節は比較的普通のコード進行をしているが、トリッキーな仕掛けがその次に出てくる。そう、突然の転調だ。

9小節目からは全音上(+2)に転調し、同じメロディとコード進行が演奏されるのだ。転調の瞬間のコード進行は「C7 → EbM7(9)」となっている。コードの機能を考えれば、「セオリー通りの自然な転調」というよりも、むしろ「突然転調」といえるだろう。

サビで2回も転調が起こるのは、そうよくあることではない。この「2段階転調」は、曲のアイコンといってもよさそうだ。

余談だが、転調の瞬間のメロディはアウフタクト*1な上に、2種のキーの共通音でもないため、シンガーにとっては、かなり音を取りづらいはず。そんなギリギリの要素も、前述の「突然転調」と合わさって、リスナーに驚きと興奮を与える材料になっている。

サビ後半のところでは、さりげなくDbM7(9)を挟んでいるのも見逃せない。これはディグリー的にはIIIbM7で、準固有和音となる。

最後の「D Eb E F」ところは、コードはルート音だけになるので注意。

間奏1(Key = Bb → Eb)

(※ルート音のみ)
| Bb Ab Bb | Db Bb Ab Bb |
| Bb Ab Bb | Eb Bb Ab Bb |
| Bb Ab Bb | Db Bb Ab Bb |
| Bb Ab Bb E| Eb Db Eb Db |

| Gm/C |  | Gm/Bb |  |
| AbM7(9) | Bbadd9(omit3) | Gm7(11) |  |

1サビ後の間奏の部分だ。前半8小節はリフ的なセクション。Bbマイナーペンタトニックに♭5thを足したような音使いで、やはりロック的な印象を受ける。最後の音がDbで、その後のコード(Gm/C)に自然につながっているところもポイント。

後半8小節は、Aメロのコード進行をそのまま使っていて、自然に2Aへとつなげている。

間奏2-1(Key = Bb)

| Bb(omit3) | Ab6 | Db | B |
| F(omit3) | Eb | Db | Gb B |
| F(omit3) |  |  |  |

2サビ後の、長い間奏の前半部分。曲のリズムがハーフタイムになり、途中からロックっぽい感じの短いギターソロが入る。ラスト4小節で、次のセクションへ向けて助走していく。

間奏2-2(Key = Cm → Dm → Ebm → Bb)

| Cm |  | Gsus4/D |  |
| Cm/Eb |  | Fadd9(omit3) |  |

| Dm |  | Asus4/E |  |
| Dm/F |  | Gadd9(omit3) |  |

| Ebm |  | Ebm/Db |  |
| BM7 |  | Ebm/Gb | BM7 |

| Bb | Ab(omit3) | Gb(omit3) |
| B(omit3) E(omit3) |

ひたすら「ド・レ・ミ♭」の3音を繰り返す間奏。この「ドレミ♭の連発」は、キーを変えながら、合計3度登場する。

繰り返しが終わった後は、非ダイアトニックコードを色々駆使して展開を作りつつ、この後のBメロへと続いていく。最後のコードE(omit3)は、次に来るEbM7にとってのドミナントの役割になっていることにも注目。

3B

| EbM7 | DbM7(9) | CM7 | Bb6(9) |
| AbM7(9) | Gm7(11) | Csus4 C |  |
| Cadd9 C |  |  |  |

基本的には他のBメロと一緒だが、歌のラストフレーズを伸ばすために尺が伸びている。

エンディング

| Bb | Bbadd9 | Bb | Bbsus4/Ab |
| Bb | Bbadd9 | Bb | Bbsus4/Ab |
| Bb | Bbadd9 | Bb | Bbsus4/Ab |
| Bb | Bbadd9 | Bb | Bbsus4/Ab ||

チューブラーベルの4分音符のフレーズに合わせて、コードも変わっていく。このエンディング、なんというか菅野よう子氏の曲らしいエンディングだなと思う。

まとめ

今回は「射手座☆午後九時Don’t be late」の楽曲分析について書いた。

まとめると、

  • 浮遊感のあるコード「IIIm7 on VI」
  • BメロのM7コードの連続
  • サビの2段階転調(最初の転調と、途中の突然転調)

このあたりが楽曲の特徴といえそうだ。キャッチーさとマニアックさ、両方の要素を併せ持った、実に完成度の高い一曲です。

マクロスF VOCAL COLLECTION「娘たま♀」

*1:小節頭よりも先取りして主旋律を演奏すること