※2020年12月9日:記事をリライト(名著『実践コード・ワーク』が復刊!)
この記事にたどり着いた人の中には、ふだん音楽制作の情報をネットで収集している人も多いかも知れない。しかし、インターネット上の情報は玉石混淆。鮮度の高い情報が入るというメリットはあるにせよ、時間を無駄にするリスクと常に隣り合わせだ。
音楽の本質的なルールや法則については、数百年に渡って変わらない部分も多い。音楽制作についての普遍的な知識を学ぶためには、やはり本を読むのが良い。
今回は、僕が読んだ本の中で特にオススメできるものを11冊紹介する。
目次
リズムについて
「サウンド&レコーディングマガジン」の連載を一冊にまとめた増刊号だ。オークションでプレミア価格が付くほどの人気を博した、『MPCで学ぶリズム打ち込み入門』の新版だ。旧版の内容を踏襲しつつ、DAW時代に合わせて内容がアップデートされている。
- ロックの8ビート
- テクノやハウスなどの4つ打ち
- ヒップホップ/R&Bのリズム
- ジャズの4ビート
このような基本的なジャンルのリズムパターンが、章ごとに紹介されている。
「○○というジャンルでは、△拍目の表(裏)で音を抜くのが肝」。こんな風に、この本を読めばジャンルごとのリズムのポイントを理解できるようになる。コンガやボンゴといったパーカッションのリズムパターンが紹介されているのも嬉しい。
Tips集
「テクニック99」シリーズはひと通り読んだが、この本が一番オススメ。メジャーの第一線で活躍するプロのアレンジャー数人の共著となっている。
音楽ジャンルごとのアレンジにおける要点。ギター、ストリングス、ブラス、コーラスといった楽器別のアレンジ方法。メロディへのコードの付け方。その他編曲を行う上で知っておきたい小話。こういった内容が、広く浅くまとめられている一冊だ。
難しい音楽理論の話は登場せず、コツをまとめた実践的なTips集として価値がある。「アレンジをしたいけど、何から手を付けていいのやら……」そんな初級者や中級者の人こそ、ぜひ読んでみてほしい良書。どのトピックも見開き2ページにまとめられているので、気軽に読むことができる。
この本はなんと、現在AmazonのKindle Unlimitedの対象書籍となっている。
無料で読めてしまうのが不思議なくらいの良い本なので、Kindle Unlimited会員の人は一度ダウンロードしてみることをオススメする。もし気に入ったら、紙の本で買ってじっくり読み込んでみるのも良い。
『編曲テクニック99』と同じく、「マニュアル・オブ・エラーズ」の著書だ。こういった「プロが教える」的なタイトルの本はよくあるが、良い本は少ない。そんな中で、この本は実践的なTipsが中心になっていて、すんなりと曲づくりに役立てることができる。
編曲テクニック99とテーマが重複するトピックも多いが、編曲以外にも、ボーカルディレクション、アレンジ仕事におけるパラデータの作り方、キャッチーな曲を作るための方法論、楽曲構成の考え方など、プロの作曲家・編曲家として活動する上で、より実践的な内容が記されている。エンジニア的なテクニックにも触れられており、高品質なデモ音源が求められる現代の作曲家にとっては、一見の価値があるだろう。
アレンジ(編曲)、オーケストレーション
ビギナーの人にオススメの一冊だ。ポップスの曲にストリングスやブラスを入れる方法を学ぶには、この本で基本的な奏法を押さえるのがよい。
ボイスリーディング(声部の連結)についても少し紹介されているので、和声の考え方にも触れられるのが良い。
なお、この本では「歌メロのカウンターライン」という考え方には特に触れられていない。そのため、これ一冊読んだだけで自由自在にアレンジをするのは、実際は難しいかもしれない。あくまで、楽器の基本的な鳴らし方(ボイシング、定形フレーズ等)を学ぶための初歩的な本ととらえるのが良いだろう。
付属音源で音を確認することもできる。
※日本語版は絶版です。
僕が特にオススメしたいのが、このアレンジ教本。サミー・ネスティコの『コンプリート・アレンジャー』だ。ジャズのコードの知識をひと通り習得した、中~上級者向けの本となっている。
アレンジ教本として有名なドン・セベスキーの『コンテンポラリー・アレンジャー』も良書だが、譜例に対応した音源が少ないのが弱点。対して、この本の付属CDには79曲も収録されている(重複はあるが)。総ページ数は349ページとボリュームも多い。
とにかく音源の曲数が多いので、それら全てに対応したスコアが読めるというだけでも、かなりの価値がある本だと思う。音楽は、言わば「百聞は一聴にしかず」のような部分もあるので、譜例の大半が音源とセットになっているのは非常に魅力的。付属音源は当然生演奏で、ノイズもなく高音質。
もっとも、手取り足取り教えてくれるような本ではない。スコアと音源から自分で分析していく必要もあるため、多少は独学的な要素が求められる。それでも、教本としての完成度は非常に高い。僕が読んだアレンジ教本の中では、最も参考になった一冊だ。
金管楽器やサックスの入った譜例は、ビッグバンドの曲が中心となっている。著者もビッグバンドの仕事が多かったようで、ビッグバンドのアレンジについて学びたい人にはもってこいの一冊だと思う。ボイシングのコツについても書かれているのが良い。
ストリングスや木管楽器の入った譜例は、テンションが多めのコードを使った、劇伴風/近代クラシック風の曲が多い。楽器の選び方、重ね方が非常に参考になる。
シンセサイザーを取り入れたオーケストレーションの譜例まである。シンセが入った譜例があるというのは、マンシーニの本やセベスキーの本など、他のアレンジ教本とは一線を画する部分ではないだろうか。
なお、一部の曲では複雑なテンションコードだけでなくアッパー・ストラクチャー・トライアドを使っていたりするので、音楽理論に詳しい人じゃないと分析が難しいかもしれない。
ここまで紹介してきておきながら、興味を持ってくれた方には申し訳ないのだが、残念ながら、この本は絶版となっている(良い本なのに)。ただし、英語版の原著は米Amazonで普通に売っている。解説を読むというよりも、スコアと音源を自分なりに読み解いていくというのが大事なので、英語が苦手な人でも、譜面と音源を目当てに輸入するのはアリだと思う。
(米Amazon⇒)The Complete Arranger: Nestico, Sammy
ヘンリー・マンシーニという超有名な作曲家の著書というだけで、一見の価値がある。譜例は彼の手がけた作品から抜粋されているので、当たり前だが、ヘンリー・マンシーニっぽい雰囲気の曲ばかりだ。「ピーター・ガン」や「Mr. Lucky」といったドラマの音楽や、彼のソロ作品を題材にスコアが掲載されている。ただ、「ピンク・パンサー」「ティファニーで朝食を」といった名作映画の曲は残念ながら含まれていない。
前述の『コンプリート・アレンジャー』よりも、ポップで分かりやすい曲が多いので、取っつきやすい印象だ(とはいえ大部分の曲はジャズのフォーマットに基づいているが)。和声的にも通常のテンションコードが多く、ネスティコ本のように複雑なコードも出てこない。普通のポップスに応用するなら、こちらの本の方が役に立つと思われる。白玉でアレンジされているパートも多いので、ボイシングも確認しやすい。
曲の重複も多いが、付属CDには66トラック収録されている。音源にノイズがあるのと、各トラック冒頭の「譜例番号読み上げ」が少しうるさいのが惜しい。ページ数は207ページと、ネスティコ本よりはボリュームは少なめ。それでも、多くの譜例がCD音源に対応している。
曲は60年代のジャズらしい、柔らかいものが多い。スウィングジャズの曲や、ムーディな曲が中心だ。ディビジを駆使したストリングスでテンションコードを鳴らすような曲もあり、参考になる。
スコアは見やすい。手描き風などではなく、日本で売っている譜面のように、きちんとコンピュータで浄書されたタッチのスコアになっている。
音楽理論
通称「黄色い楽典」。音楽を学ぶ人の多くが手にしたであろう一冊だ。音符や休符、拍子、音程など、音楽の基礎事項について書かれている。特に音程に関する記述(長・短・増・減音程)は一枚の図で分かりやすくまとめられていて良い。
教科書的な基礎事項を確認したいときのために、手元に置いておきたい一冊だ。
長らく絶版となっていたこの本だが、2020年、ついに復刊を果たした!ポピュラー音楽で使われるコードについて詳しく解説されている名著だ。ある程度基礎的なコードの知識を習得した、中級者~上級者向けの一冊。
テンションコード、分数コード、アッパーストラクチャートライアド等、複雑なコードについても網羅されている。モードに関しても触れられており、高度なポップス~ジャズ方面の音楽まで幅広くカバーできるだろう。
きれいに響くボイシングの例、テンションコードを押さえる際に省略すべき音、転調のきっかけを作る方法など、理論編でありながら、実践に即した記述が多いのが嬉しい。小難しくなりがちな理論書というジャンルにおいて、他とは一線を画する優れた一冊だ。
こういう少しハイレベルな理論書を読む場合は、ピアノでコードを押さえられる程度のスキルは持っておきたい。付属音源で音を確認することもできるが、やはり自らの血肉とするためには、自分で鍵盤を弾いて確認したいところだ。
※このブログでも、そういった趣旨の記事を書いている。 → 作曲家・アレンジャーがピアノを弾けるようになるメリット
オーケストレーションをしたり、ストリングスアレンジのような高度な編曲を行ったりする場合、ボイスリーディング(声部の連結)やボイシング(音の積み方)に気を使う必要がある。これらは、ポピュラー音楽のコード理論だけでは、完全にはカバーしきれない領域ともいえる。
そこで必要になってくるのが和声学だ。和声のルール上、やってはいけないことは「禁則」と呼ばれているが、この禁則を知っておくことで、音をどのように展開させていくべきか迷わなくなる。和声の知識は、音楽制作をスムーズに行う上で強力な武器となる。
もし「和声上、正解とされているサウンド」が欲しい場合、和声を知らなければ、何度も試行錯誤する必要があるだろう。しかし和声を知っていれば、作るより先に音をイメージすることができる。
和声上の正解は、それなりに説得力があるサウンドであることが多い。限られた時間を有効に使うためにも、和声を習得するのは意味のあることだと僕は考える。
なお、和声に関する教本は『和声―理論と実習』(通称「芸大和声」)の3巻セットが有名だが、この『総合和声』の方が新しい本で読みやすく、要点がよくまとまっており分かりやすい。独学で学ぶ場合は、なおさら総合和声の方ががオススメだ。
世の中の音楽はホモフォニックな音楽がほとんど(メロディという主役があり、コードという脇役がそれを支える構造)。しかし、対位法を知っていると、ポリフォニックな音楽を作ることができる。メロディの背景でコードを鳴らさなくても、単旋律を複数組み合わせることで、音楽を成立させることができるのだ。
そんな音楽作らないよ……と思うかもしれないが、「対位法で良しとされる音の運び」を知っておくと、ストリングスアレンジや、コーラスアレンジで役に立つこともある。何気ないハモリのパートであっても、コードトーンを繋ぐだけのメロディから一歩先に進んだ、一本の太いメロディに仕上げることができるだろう。
また、少ないパートで曲を成立させたいときにも、対位法の考えはおおいに役に立つ(最先端のEDM系ダンスミュージックでも、そういった作りの音楽をしばし耳にする)。
この「長谷川対位法」は文体も古く、やや読みづらいところもあるが、対位法を学ぶ上では定番の一冊だ。独習するのは大変だろうが、意欲のある人はトライしてみても良いと思う。
なお、対位法の概念は、和声の考え方に通じる部分も出てくる(例を挙げると、「並達5度・8度」に関する記述など)。なので、対位法を学ぶ前に、和声学をひととおり学んでおくのがオススメだ。
録音・ミックスなど
教則本ではなく雑誌だが、最後はコレ。サウンド&レコーディング・マガジン、通称サンレコだ。毎号マメにチェックしていると、時おり良い特集を見かけることも多い。たとえば、例年1月号で企画されているプライベートスタジオ特集は、読む価値が高いので買ってみてもいいと思う。音楽制作環境を構築する参考になるはずだ。
あと、チェックすべきはバックナンバー。プロのエンジニア数人に同じ素材をミックスしてもらう企画(マジカル・ミックスダウン・ツアー)や、プロのアレンジャー数人に同じ曲をアレンジしてもらう企画(マジカル・アレンジメント・ツアー)。昔は豪華な企画も多かったので、バックナンバーも積極的にチェックしておきたい。