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SSHのストラトとは?
SSHのストラトとは、次の2つの特徴を持つエレキギターのことだ。
- ストラトシェイプ(Fenderストラトキャスターのようなボディ形状)である
- ピックアップが次のレイアウトになっている
- フロント:シングルコイル
- センター:シングルコイル
- リア:ハムバッカー
このタイプのギターは非常に汎用性が高く、音楽制作で使う上では最もオススメできる。
SSHのストラトがオールマイティーな理由
なぜSSHのストラトを皆さんにオススメしようとしているのか?それは、エレキギターで最も登場頻度の高い、フロントのシングルコイルとリアのハムバッカー、両方の音を出すことが出来るからだ。
これらのピックアップでエレキギターが演奏されてきたケースは、それ以外のケースと比べて、圧倒的に多いと言ってよい。1950年代頃から連綿と続くエレキギターの入ったポピュラーミュージックの歴史を見ても、これは明らかだ。
大雑把に言うと、「ロックならリアハム」、「それ以外はフロントシングル」。このピックアップセレクトを行うことで、かなり広範囲に渡るギターサウンドをカバーできてしまう。
具体的に見てみよう。次のような6つのプレイスタイルがある場合、記載したようなピックアップセレクトが行われることが多いはずだ。
- エディ・ヴァン・ヘイレンのようなハードロック系ギターソロ&バッキング:リアのハムバッカー
- DAITA(ex. SIAM SHADE)のようなタッピング入りのハイテク系ギターソロ&バッキング:リアのハムバッカー
- Green Dayのようなポップパンクのバッキング:リアのハムバッカー
- ナイル・ロジャースのようなファンキーなカッティング:フロントのシングルコイル
- スティーヴィー・レイ・ヴォーンのようなブルージーでいなたいギターソロ:フロント&センターシングルコイルのハーフトーン
- エリック・クラプトンのような美しいクリーンのギターソロ:フロント&センターシングルコイルのハーフトーン
歪んだロックサウンドから、クリーンのファンクサウンドまで幅広いが、SSHのストラトならこれら全てに対応可能だ。
軽くデモ音源を作ってみた。上記の6タイプの演奏が各々4小節ずつ、順番に流れる。
※ギターはすべて同じ楽器(SSHのストラト)を使っている。ピックアップセレクトも記載のとおりだ。
その他のエレキギターは汎用性に欠ける
SSHのストラトなら大抵の音楽には対応できる。一方で、他のタイプのエレキギターだと、どうしても出しづらい音色というものが出てくる。
ここでは、SSHのストラト以外のエレキギターだと、どのような音が出せなくなるのかを考察していく。
2ハムのレスポール/PRS
2ハムのレスポールは、フロントのシングルコイルピックアップでシャープな音が出せない。これは今の時代、けっこう困る部分だと思う。Funk系のカッティングにおけるシャープなトーンは、やはりシングルコイルピックアップのサウンドがあってこそだからだ。
なお、2ハムのギターにはPRS(Paul Reed Smith)もある。PRSはコイルタップでシングル風の音も出せるし、汎用性の高さという意味では、たしかにSSHのストラトに匹敵する性能を持っているかもしれない。
しかし、厳密にはコイルタップしたハムの音とシングルコイルの音は別物だ。PRSはあくまでも拡張性の高い2ハムのギターであって、シングルコイルのギターの代替とはならない。これが僕の見解。
というわけで、(ハムバッカーに向いた音楽の一つである)ロックがさほど流行っていない今の時代は、汎用性の面において2ハムのギターはそれほど推奨できない……というのが正直なところだ。
3シングルのストラト
3S(スリーシングル)のストラトの弱点は、何と言ってもリアのハムバッカーが使えないことだ。メタルやハードロックといった、激しい音楽を演奏する上でだいぶ不利になってしまう。もちろん例外もあるが、典型的なメタルトーンを鳴らす上でハムバッカーのほうが向いているのは間違いないだろう。
今はメインストリームの音楽においてロックは流行っていないが、日本の商業音楽やゲーム音楽では今なお、ハードロック/メタル的なアプローチのギターサウンドが登場する。リアハムの音は出せるようにしておいたほうがいい。
3Sのストラトだと、リアピックアップはシングルコイルになってしまう。もちろんこれも魅力的な音なのだが、高域が強く感じるケースも多いため、やはりハムのほうが汎用性が高いのだ。
SSHのストラトの弱点を考察
では、SSHのストラトは本当に万能なのか?ここではその弱点を考えてみたい。
1. フロントのハムバッカーの音は出せない
SSHのストラトの主な弱点は、「フロントのハムバッカーの音が出せない」ということくらいだと考える。
フロントのハムのサウンドは、甘いトーンが必要なジャズではほぼ必須だ。あるいは、ファンクでも役立つことが多い。Earth, Wind & Fireのアル・マッケイやPaul Jackson Jr.といったギタリストは、フロントのハムの音色を生かした太い音色で、カッティングや複音ミュートの演奏をプレイすることも多い。
だけどジャズはともかく、太い音色のカッティングはSSHのストラトでもこなせる。フロントのシングルコイルで太い音を出すことは、アンプの設定や弾き方次第で十分可能だからだ。
2. テレキャスターの音は出せない
また、細かく突き詰めて考えると、「テレキャター特有のサウンドは出せない」という弱点もある。
※ストラトタイプなのだから当たり前ですが……
特にテレキャスターのあの「シャリーン」という個性的なハーフトーンは、ストラトで出すのは難しい。例えば、「山下達郎 - Sparkle 」(YouTube)のイントロのようなカッティングは、テレキャスター特有の音色だといえる。
テレキャスターを使った音楽は今けっこう流行っている。テレキャスサウンドが欲しい人は、この点によく気をつける必要があるだろう。
ただし、フロントのシングルコイルはストラトもテレキャスターも、比較的音色は似ているほうだと思う。
オススメのSSHストラト
ここでは、オススメのSSHストラトを4本紹介する。円安でなければSuhr、Tom Anderson、James Tyler等を中心に紹介したいところだったが、今回は現実的に買いやすい価格帯の楽器を中心に取り上げたい。
YAMAHA PACIFICA 612V II FM
国産でコスパがとても良いヤマハのパシフィカ。買うなら600シリーズをオススメしたい。なぜなら
- Seymour Duncanのピックアップ
- Wilkinsonのトレモロブリッジ
といった、ギター弾きなら誰でも名前を聞いたことのある有名ブランドのパーツが搭載されており、明らかにこのラインからグレードが上がっているからだ。
実際に試奏してみたところ、プレイアビリティも音も申し分ないクオリティだと感じた。これが売れるのもうなずける。
Fender American Professional II Stratocaster HSS
価格帯は上がってしまうが、FenderのAmerican Professional IIのHSSシリーズはオススメ。トラディショナルなFenderトーンを持ちながらも、リアピックアップはハムバッカーという欲張りな仕様になっている。
実際に試奏してみたが、コンポーネント系のSSHストラトとは違って、Fenderらしいキャラの立った音色を持っており、とても魅力的なトーンだなと感じた。
FenderにはAmerican Ultraというラインもあるけど、このAmerican Professional IIシリーズがコスパ・音色ともに優れていると個人的には思う。
※なお、日本ではSSHと呼ぶレイアウトだが、海外ではHSSと逆から数える方式になっている。
Ibanez AZ2204N
国産メーカーのIbanezからもSSHのストラトが販売されている。ピックアップはSeymour Duncan製。ブリッジはGotohという、Suhr等のハイエンドギターにもよく搭載されているようなパーツが採用されている。
Suhr Standard Plus
ハイエンド・コンポーネントギターメーカーであるSuhrのギターは、理想的なSSHストラトの最終形態といっても良いくらいの高い完成度を持っている。2011年頃の円高の時代は個人輸入等でリーズナブルに入手できたことを考えると、高騰し切った今の価格帯は辛いところだ。
おわりに:DTMerの1本目はSSHのストラトで決まり
これまでSSHのストラトの良さについて語ってきたが、実は、ギタリストだけでなくDTMerにもSSHのストラトはオススメだ。むしろ、
という人こそ、優先的にSSHのストラトを持つべきだと思う。
というのも、もし複数のギターを使う場合、それらの弦交換やオクターブ調整、ネックの調整といった管理コストはギターの本数分だけ増えてしまうからだ。これらの作業は、比較的ギター歴の長い僕でさえ、多少は手間だと感じる。普段ギターを弾かない人に対して、そんなことを要求するのは酷だと思う。
だからこそ、SSHのストラトが良いのだ。YouTubeでパシフィカが評価されているのを見て「ステマだ!」と批評する人も一部には存在するようだが、これはステマでもなんでも無い。単に汎用性の高いギターは便利ですよという、
が語られているだけだなのだ。