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SESSION STRINGS PRO 2 について
SESSION STRINGS PRO 2はNative Instrumentsから発売されているストリングス音源だ。
今回はこの音源についてレビューしてみる。
デモ音源
軽く30秒程度のデモ音源を作ってみた。ブラスとストリングスの入った、ファンク系のサウンドになっている。
2曲目の「Native Funk (without brass)」は、ブラス音源を抜いたバージョンになっている。細部を確認する際はこちらを聴いてほしい。
SESSION STRINGS PRO 2の良いところ4つ
1. とにかく使いやすい設計
SESSION STRINGS PRO 2(以下「SSP2」と呼ぶ)は、とにかく使いやすい音源だ。
- サクッと良い感じの弦を入れたいけど、そこまで時間に余裕があるわけではない
- タイトなリズムで音を慣らしたい
- ウェットよりもドライな質感がいい(ポップス等の用途)
みたいな人にとっては、間違いなく選択肢に食い込んでくる音源だろう。
SSP2がなぜ使いやすいのか、理由を挙げてみる。
理由1:嫌なピークがない
他社のストリングス音源だと、高域(4kHzあたり)に嫌なピークが出たりすることも多く、そういう場合はEQでカットしたりする必要も出てくる。SSP2ではそういった嫌なピークは特に気にならない。上手くサンプルが録音されている(or トリートメントされている)印象だ。
理由2:奏法間の発音タイミング/音量のバラつきが少ない
他社のストリングス音源では、
- アルコだと良い感じなのに、レガートだと発音が遅い
- ピチカートの音量が小さいので、オートメーションで音量を上げる必要がある
といった課題点があったりするが、SSP2ではほぼ気にならない。普通にMIDIノートを入力して、奏法を切り替えたいところでキースイッチを入力してやれば、問題なくストリングスのトラックを作ることができる。
SSP2には「キースイッチで切り替える各奏法の間で、音量バランスを変えることができない」という弱点がある。しかしながら、サンプルの組み込みが丁寧に行われているおかげで、そんな弱点も気にせずに使うことができる。
理由3:サンプルの処理が丁寧
他社のストリングス音源の中には、「実用上の課題点」を持っている音源もあったりする。例えば、
- 課題点1:音の高さによって、サンプルの頭の空白の長さが微妙に違う
- 課題点2:音の高さによって、同じベロシティでも、サンプルの音量や質感が違う
というような課題点だ。こういった音源を使う場合、出音に合わせてMIDIノートを微調整する必要が出てくるので、打ち込みの手間が増えてしまう。
シンプルな白玉フレーズを歌わせるだけなら、まあ多めに見てやれる部分かもしれない。しかし、「タイトなノリ」や「速いフレーズ」が必要な音楽を作る場合はどうだろう。こういった課題点を持つ音源を使うのは、結構キツいはずだ。
特にポップスやロック、4つ打ち等の音楽に弦セクションを被せるような場合、リズムの縦のラインはかなりシビアになってくる。その部分の調整に時間を取られてしまうと、作業の生産効率は落ちてしまう。
SSP2にはこれらの課題点はない(もしあったとしても気にならないレベル)。
- 一定のベロシティでフレーズを打ち込むと、どのノートも、同じくらいの音量で鳴ってくれる。
- グリッドに揃えてフレーズを打ち込むと、きちんと正確なリズムで演奏してくれる。
なので、SSP2ならタイトなリズムでも、速いフレーズでも、問題なく対応可能だ。MIDIの調整に使う労力が少なくて済むのはありがたい。
2. アタックの速い奏法が収録されている
「Accented」という奏法は、アタック感のあるサステイン音色だ。ポピュラー系の音楽に弦を入れる場合、非常に心強い味方となってくれる。
この奏法が収録されているのは大きい。こういう弾き方が収録されていないストリングス音源だと、色々サンプルを重ねて工夫する必要があるが、そんな心配もいらない。
3. 高域まで伸びたレンジの広い音色
他社のクラシック向けのストリングス音源の中には、暗めの出音をしているものも多い。そういった音源をポップスのオケで使う場合、高域を大胆にEQでブーストしてやらないといけなかったりする。
SSP2の音色は、超高域まで伸びた今風の質感になっている。オケの中でもきちんと良い存在感で鳴ってくれるので、大幅なEQ処理をしなくても良い感じに仕上がる。
4. ディスコ系の奏法が充実
公式サイトのデモ音源の9曲目(Disco)を聞いても分かるが、ディスコ系のストリングスで登場するような奏法が充実している。
- Falls(ディスコ系のフォールの奏法)
- Slide Up(半音下からスライドする)
- Glissando(グリッサンド)
こういう奏法は意外と収録されていないことも多いので助かる。
SESSION STRINGS PRO 2の課題点
音がほんの少しだけシンセくさい
音がほんの少しだけシンセくさいというのが、SSP2の惜しいポイントだ。
ただ、これはある程度は仕方がない。そもそも、開発者がサンプルをKontaktエンジンに組み込む際には、
- エンベロープの処理
- ループ処理
- EQやコンプの処理
といった作業を行っていく必要がある。こういった「サンプルのトリートメント」を行っていく過程で、どうしてもシンセくささは出てきてしまうものだ。打ち込み作業をしやすいパッチに調整すればするほど、シンセくささは強くなる。SSP2の使い勝手の良さを考えれば、多少のシンセくささがあるのも、許容できるレベルだと感じる。
逆に、たとえばSpitfire Audioの音源は生々しくてリアルだが、サンプルの処理に雑な部分もあり、「使いづらさ」「打ち込みの面倒臭さ」を感じることも多い。このあたりはトレードオフになってくるのだと思う。
なお、ファイルサイズは他社のストリングス音源と比べても極端に小さいわけではない。参考までに比較表を載せておく。
メーカー名 | 製品名 | ファイルサイズ(圧縮時) |
---|---|---|
Native Instruments | SESSION STRINGS PRO 2 | 36.6GB(ソース) |
Vienna Symphonic Library | Chamber Strings 1 | 29.3GB(ソース) |
Audiobro | LA Scoring Strings 2 | 16.4GB(ソース) |
Spitfire Audio | Spitfire Chamber Strings | 80.9GB(ソース) |
ちなみに、サンプルの演奏自体は別に棒弾きというわけでもない。VSLあたりと比べれば、むしろ表情豊かな方だと感じる。
Kontaktという汎用エンジンを使っている
Vienna Instrumentsのような専用エンジンを使っているライブラリと比べると、軽さや使い勝手の面で見劣りする。
- サンプルのロードが遅い
- セーブに時間がかかったりする
- サンプルのレイヤー/エンベロープ調整など細かいエディットが面倒
Viennaエンジンと比べると、Kontaktのストリングス音源にはこういった課題点がある。
とはいえ、独自エンジンで使い勝手が優秀なのはVSLくらいだし、今や弦ライブラリの大半がKontaktを使っているわけだから、気にするほどのことではない。
その他Tips
2ndバイオリンは収録されていない
2ndバイオリン専用のパッチは収録されていないので、同じパッチを2基立ち上げる必要がある。Vn1とVn2でユニゾンしたいときは、工夫して何とかしよう。
(参考):ポップスに最適なストリングス音源「Vienna Chamber Strings」を徹底解剖(デモ音源あり)
人数感
- 1st バイオリン:8人
- 2nd バイオリン:8人
- ビオラ:4人
- チェロ:4人
という人数感になっている。ポップスでもよく使う「8644」の編成に近いので、歌もの楽曲でも良い感じに使える。
ちなみに、いずれのパートも半分の人数で鳴らすことができる。ディビジで鳴らしたいときに使うのが良さそう。
Modern/Traditionalの違いって何?
バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス、いずれの楽器に関しても、
- Modern:ステレオに広がった状態で(真ん中で)鳴る
- Traditional:(オーケストラピットの配置に)パン振りされた状態で鳴る
という仕様だ。
前述の通り、Vn1とVn2を共通パッチで鳴らす必要があるため、Modernを選択し、自分でパンニングするほうがいいと思う。
MIDI CC11(Expression)をボリュームに割り当てる方法
- MIXIERタブのボリュームフェーダーを右クリックし、「Learn MIDI CC # Automation」をクリックする
- エクスプレッションペダルを動かす。
- フェーダーとCC11が連動するようになる。
- 同様に、もう一方のフェーダーにもCC11をアサインする。
ピッチベンドを有効にする方法
歯車マーク>「Pitchbend Setup」より、ピッチベンドの仕様を「Scoop and Falls」と「Range」のいずれかを選択できる。ここで「Range」に切り替えると、ピッチベンドによって音の高さを変化させられるようになる。
ダイナミック・クロスフェードを有効にする方法
前述のCC11をボリュームにアサインする方法だと、純粋に音量のみが変わることになるため、厳密にはリアルな強弱表現を行うことはできない。音が大きくなるにつれて、強く演奏したサンプルが鳴るようにする場合は、ダイナミック・クロスフェード(ベロシティ・クロスフェード)を使うとよい。トレモロ等のサンプルを鳴らすときには、特に効果的だ。
設定方法だが、歯車マーク>「Dynamic Control」の項目で、「Modwheel」を選択すればOK。これで、ベロシティではなくCC1(モジュレーションホイール)の値によって、サンプルの強さが変わることになる。※SSP2では、同時に音量も変化するようになる。
※もしCC1以外のCCに割り当てたければ、その上の「MIDI CC#」ボタン内の「Learn」ボタンを点灯させ、任意のCCフェーダーを動かせばOK。
使用上の注意点
当ダイナミック・クロスフェード機能を使う際の注意点は2つ。
1つめは、前述のテクニック「CC11をボリュームに割り当てる方法」との併用ができないということ。他社のストリングス音源では、CC1にベロシティクロスフェードを担当させつつも、CC11は純粋な音量コントロールに使える仕様になっている製品も多い。
一方このSSPでは、ダイナミッククロスフェードを有効にすると、CC11に割り当てたボリュームフェーダーのアサイン情報が無効になってしまうので注意。
2つ目は、キースイッチで奏法を切り替えている場合、ベロシティで強弱を付けられたほうが便利なスタッカートやピチカートのサンプルであっても、CC1で強弱をコントロールする必要が出てくるということ。これはVSL等でも同じ仕様なので、ある種仕方ない部分もある。気になる人はトラックを分けよう。
SESSION STRINGS PRO 2は、もちろん単体で購入することもできる。単体で購入する場合は、下位版の音源(SESSION STRINGSやKOMPLETE無印)を持っていれば、アップグレード価格で購入できる。
ちなみに、普通のKOMPLETEにも「SESSON STRINGS 2」が含まれているが、ファイルサイズがだいぶ削減されているので、Pro版を使うのがオススメ。