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マイクプリアンプとは?
マイクプリアンプは、マイクの音を増幅するための機材だ。本来マイクが拾う音は、ものすごく小さなレベルなのだ。その小さな信号を、録音可能なレベルまで引き上げるために、マイクプリアンプが必要になってくる。
さて、ここでこんな疑問を持つ人もいるだろう。
実は、あなたがマイクを接続しているそのオーディオインターフェイス、マイクプリアンプが内蔵されているんです。そういうわけで、普段私たちは何も考えずに、マイクで録音をすることができる。
外部マイクプリアンプについて
今回の記事で紹介するのは、外付けのマイクプリアンプだ。
オーディオインターフェイスにマイクプリアンプが内蔵されているのに、わざわざ買う必要なんてあるの?と思うかもしれない。だけど、別途マイクプリアンプを導入するメリットは大きい。
外部マイクプリアンプを導入する4つのメリット
メリット1:良い音で録音できるようになる
マイクプリアンプを導入する最大のメリットは、シンプルに、良い音で録音できるようになることだ。つい私たちは、高いマイクを買えば、それだけで良い音が録音できると思ってしまいがち。だけど、良質なマイクプリアンプを使わなければ、マイクが持つポテンシャルを存分に発揮することはできない。
良いマイクプリを使うと、音の周波数特性は同じでも、音の“密度"のようなものが変わってくる。あくまでも個人的な感覚だが、マイクで輪郭線を描いて、その中にマイクプリアンプで色を塗っていく……そんなイメージを持っている。
※これは実際に同じマイクを使って、マイクプリアンプだけを変えてテストしてみると、感覚的に分かることだと思う。
時にマイクプリアンプの値段が、マイクよりも高くなることだってある。たとえばギターアンプの録音には、たとえプロの現場であっても、ダイナミックマイクのSM57(実売1万円程度)が使われることが多い。だけど、マイクプリアンプは間違いなく高価な製品が使われることだろう。
マイクプリアンプ or オーディオインターフェイス?
という人を結構見かける。だけど、音への影響力は、オーディオインターフェイスよりもマイクプリアンプの方が大きいと僕は考えている。最近のオーディオインターフェイスは安くて音が良い製品もあるけど、マイクプリアンプはそうは行かないからだ。
- 10万円のマイクプリアンプ+10万円のオーディオインターフェイス
- 20万円のオーディオインターフェイス+内蔵マイクプリアンプ
上記の2パターンであれば、パターン1の方が、濃密で良い音が録音できることだろう。
メリット2:DIとしても使える
DI入力を搭載しているマイクプリアンプの場合、ベース等をライン録音するのに使うこともできる。
ライン録音といえばDIを思い浮かべる人も多いと思うが、DIの出力は結局、マイクプリアンプに接続することになる。録音に限っていえば、DIよりも先にマイクプリアンプを買うのが正しいと思う。
メリット3:ミックス作業にも役立つ
ライン入力端子を搭載しているマイクプリアンプの場合、ミックス作業に役立てることもできる。
無機質なソフトシンセの音だって、マイクプリアンプのライン入力に通してやるだけで、アナログの質感を加えることが可能。こういったわずかな音の違いも、最終的なミックスのクオリティを大きく左右することになる。
メリット4:資産価値が高い
マイクプリアンプは、資産価値が高い。音楽関係のアイテムの中では、時を経ても価値が下がりづらいアイテムの一つだ。思い切ってお金を突っ込んでもいい。
※以前、そういう趣旨の記事を書いたこともある。
【DTM】作曲家が知っておきたい、制作環境へのお金のかけ方
参考までに、僕が昔買った、某Neve系マイクプリアンプの価格を見てほしい。
- 2011年の購入価格:約22万円
- 2021年の販売価格:約33万円
当時約22万円で購入したのだが、10年の時を経て、今はなんと約33万円。購入時の価格から11万円も値上げしてしまったのだ。やはりアナログ機材に関しては、欲しいときに買っておくべきだと実感した。
メーカーはどこがいい?→Neve系がオススメ
Neve(ニーヴ)、SSL、API、Chandler Limitedなど、様々なメーカーがマイクプリアンプを作っている。ではいったい、どこのメーカーの製品を選ぶのがいいのだろう?
結論としては、初めてマイクプリアンプを買うなら、Neve系の製品がオススメです。
その理由はなんといっても、シェアの高さと実績の豊富さにある。Neveはマイクプリアンプ界の王様。世界中の名盤で、録音にNeveが使われている例は数多く存在する。
名盤に限らずとも、多くのレコーディング現場でNeveは使われている。僕自身、プロスタジオでボーカルRECに立ち会ったこともあるが、大半のセッションでNeve系のマイクプリアンプが使われていた。録音でNeveを使うと、
- 濃密で
- 太くて
- 存在感のある
音になってくれる。
プロスタジオのように、オールドのNeve 1073を自宅スタジオに用意するのは難しいかもしれない。だけど、色々なメーカーからNeve系のマイクプリアンプが発売されている。これからマイクプリアンプを買う人は、そういった製品を導入すればいい。
オススメのマイクプリアンプ6つ
Vintech Audio model 273
個人的にはこれがオススメ。
- Neve系のマイクプリアンプ
- Hi-Z入力(DI入力)が付いている
- ライン入力もできる(ソフトシンセ等を通してアナログの質感を付加できる)
- ハードウェアEQとしても使える(Mix作業で使える)
- 2ch(ステレオで)使える
という5つのおいしい特徴を持っている。
まあ、上4つの特徴は他の製品にも共通することが多いけど、ミックス作業のときにステレオで使えるのがいい。シンセやキーボードパートを273に流し込むだけで、明らかに音が生き生きしてくる。
マイク録音の音質に関しても、明るく力強い音質が好印象だ。
決して安くはないけれど、数多くのマイクプリアンプの中で、最もコスパが高いモデルなんじゃないかと思う。
Vintech製品は専用電源が必要なので、そこだけ注意。初めて買う人は、電源とのセット販売モデルを選ぶのがよいだろう。
Rupert Neve Designs Shelford Channel
今回紹介する中では、最も高価なマイクプリアンプだ。Neveさん(※Neveは人の名前)が最後に立ち上げた会社、Rupert Neve Designs。当製品は、同社の集大成的な製品となっている。
製品のクオリティの高さは圧巻だ。現代的な広いレンジ感を持ち、少し派手な質感。いかにも現代の音楽にマッチしそうな出音をしている。
マイクプリアンプとして使えるのはもちろん、エフェクター部分も充実している。EQやコンプはもちろん、サチュレーションを加えるSilk回路も付いている。どちらかというとチャンネルストリップ寄りのマイクプリアンプといえるかもしれない。
クオリティが高いのは間違いないが、導入する際は価格が高いという点と、EQやコンプを持て余さないかどうかに注意。録音とミックス作業、両方の用途で使いたい人にオススメの機材だ。
BAE Audio 1073MP
ひと昔前はNeve系のマイクプリアンプを作っているメーカーも、今ほど多くはなかった。そんな時代から今に至るまで、確かな信頼と実績を積み重ねてきている、Brent Averillさん率いるBAE Audioが贈る製品だ。
シンプルにマイクプリアンプ(+DI)としての機能のみを持っているが、品質は折り紙付き。BAE Audioらしい上質な音をしている。
なお、BAE Audio 1073MPも、専用電源が必要なマイクプリアンプとなっている。
Chameleon Labs 7603 X-Mod
- Neve系
- 安い
- なのに音が良い
と三拍子揃ったマイクプリアンプだ。
ひと昔前、旧モデルである7602 MK2が発売されたときは、そのコストパフォーマンスの高さが大きな反響を呼んでいたのをよく覚えている。7603では黒ボディのカッコイイルックスになっている。
X-Modだと入出力にトランスが搭載されるらしいので、X-Modのほうが良いと思う。
Warm Audio WA73-EQ
安価に名機を再現することで定評のある、Warm Audio。そんなWarm Audioからも、Neve 1073系のマイクプリアンプが発売されている。
値段以上に音質がしっかりしている印象だ。
Rupert Neve Designs Portico 511
Rupert Neve Designsから販売されている、API 500規格のマイクプリアンプだ。小型でありながら、上位機種ゆずりのSilk機能が付いていたりと、確かな品質を実現している。
当製品はAPI 500規格のマイクプリアンプ。なので、別途専用のシャーシ電源が必要。本体は安価だが、初期導入のコストは意外と高く付いてしまうことに注意。
API 500規格のマイクプリアンプを他にも揃えて、録音するものに応じて使い分けたいという人に、この製品はオススメできる。