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小さい音量で演奏をモニターしてはいけない理由
理由はただ1つ。モニター音量が小さいと、力任せな演奏につながってしまうからだ。
- モニター音量が小さい
- 自分の演奏がよく聴こえない
- 少しでも大きな音を出そうと、力任せの演奏や、張り上げの歌唱になってしまう
- 聞き苦しい音になってしまう……
あらゆるパートの演奏において、この図式が存在している。だから、小さい音量で自分の演奏をモニターしては(=聴いては)いけないのだ。
力任せな演奏は、大半の音楽ジャンルにおいては良い結果を生まない。僕はプロのプレイヤーではないにせよ、ギター・ベース・歌は、商用作品の前段階となるデモ録音ができる程度のスキルは持っている。
ゆうに100曲を超えるであろう楽曲の、デモ録音を通じて分かった経験則がある。それは、ギター・ベース・歌、全てのパートに共通していえることだが、
- 力任せな演奏(歌唱)はダメなテイクにしかならない
という事実だ。気合を入れて力強く演奏(歌唱)したテイクは、得てして聞き苦しくなる。かえって軽く演奏したテイクのほうが、音が良い上にミックスでのなじみも良いのだ。
これは誰よりも、僕自身が痛感していること。同じように回り道をする人間が一人でも減って欲しい。そういう願いを込めて、この記事を書くことにした。
適切なモニター音量の目安
演奏/歌唱するシーンがレコーディングなのかライブなのか、またモニター機器がヘッドホンなのかスピーカーなのか、といった状況の違いはあるので、一概には言えない。
それでも、1つの目安がある。それは、オケが鳴っていない状況において、
- 弱く演奏しても、演奏の細部まで聴き取れること
これが適切なモニター音量の目安だ。もし、弱く弾いている部分はよく聴こえないなぁ……という人は、モニター音量をもっと大きくすべきだ。
自宅での練習シーンをイメージしてみよう。例えばエレキギターやエレキベースの場合、アンプやスピーカーを鳴らしているにも関わらず、楽器の生音の成分をハッキリ認識できる場合はどうか?これは明らかに、モニター音量が小さい。
力任せな演奏/歌唱が良くない理由4つ
1. 出音が良くない
リハーサルスタジオにて、力任せにシンバルを叩いている、初心者ドラマーを想像してみて欲しい。彼の出す音はうるさいだけで、ちっとも心地よくないことは、容易に想像できるだろう。
これを発展させて考えてみると、楽器を美しく鳴らすための強さというのも見えてくる。楽器は基本的に、無理に強く鳴らそうとすればするほど、聞き苦しい音色になってしまうものだ。
正しい演奏方法とは、脱力して、最低限の振動を得られる弱い力で、かつ素早い動作で音を出すことだ。そこから少しずつ音を強めていく……というのが本来のプロセス。
ロック音楽などでは、力んで鳴らしたいびつな音が「個性的でカッコいい」とされることもある。しかし多くのジャンルにおいては、脱力して軽やかに楽器を奏でたほうが、良い音を鳴らすことができるものだ。
2. 演奏の小回りが効かなくなる
力任せな演奏を続けると、得てして演奏に小回りが効かなくなる。
- ギターやベースの場合:力みが発生する → 腕や指が疲れる → 疲労により細かいフレーズが演奏しづらくなる
- 歌の場合:張り上げに頼って歌う → 喉が疲れる → 高音が出なくなる/声がかれる
繰り返しとなるが、脱力して演奏/歌唱を行うのが大切だ。
3. 音のダイナミクスに鈍感になる
力任せな演奏/歌唱を行っていると、強い音を鳴らすことに意識が向いてしまう。これは言いかえると、音の強弱をコントロールするという意識が希薄になるということだ。
プロのレコーディングにおいては、精度の高い強弱の表現が求められる。力任せな演奏に頼っている演奏者の強弱表現が5段階だとすれば、上手な演奏者は10~20段階程度の強弱を使い分けるようなイメージだ。さらにはその強弱表現も、「楽器の出音に応じて弾き方を微調整する」という工夫と、セットで行われる。
力任せな演奏に頼っていては、このような強弱表現はずっと身につかないままだ。モニター音量を大きくして、繊細なピッキングを鍛えることこそが、良い演奏への第一歩となる。
4. 雑音に無頓着になる
力任せな演奏は、基本的には音量レベルが高い。これはレコーディングにおけるS/N比を稼ぐという意味では、有利なことだ。
その一方で、大きな音を出すことで見過ごされてきた「雑音」の成分に対して、無頓着になってしまうという弊害もある。
- 歌なら:リップノイズや、意図しないブレスの音
- ギター/ベースなら:不用意に弦に触れて生まれる「タッチノイズ」や、ポジション移動で発生する「フィンガリングノイズ」の音
- アコギ(マイク録音)なら:演奏時の呼吸(鼻息)の音や、椅子がきしむ音
モニター音量を大きくすることで、いかに普段自分が要らない音を出しているかを知ることができる。こういった「雑音」の成分を出さないようにするというのも、演奏者に求められるテクニックのひとつだ。
力任せな演奏にはプロも警鐘を鳴らす
「力任せな演奏が良くない」というのは僕個人の意見ではなく、各方面で語られていることでもある。その事例を紹介する。
ギターのカッティング本の著者の方
ナイル・ロジャースのカッティングを科学的に分析した本を送り出している著者も、次のように語っている。
カッティングに限りませんが、ギターは強くピッキングするとヒステリックで詰まったニュアンスのトーンなります。もっと言えば、全ての弦楽器は軽く弦をはじくことで良い音が出るものです。
僕自身、この意見には完全に賛同している。実際に録音してみれば、強いピッキングが「良い音」を生み出すケースは少ないことが分かる。
著名なギター講師の方
ギター教則本の世界で著名な宮脇氏も、自身のサイトで次のように語っている。
力強く太い音を出すために、ピックをしっかり握ってバキッとピッキングするというのは、ある種分かりやすい図式ですが、実際の出音はむしろ逆になることが多いのです。
出典:LESSON - 良い音を出したい
「ピックを強く握って力強くピッキングしろ!」的なアドバイスは、僕も昔アマチュアの先輩や同級生などから言われたことがあるし、知人がこういうアドバイスを受けているのを目撃したことも何度かある。
今思えば彼らの話は、自分の音楽人生において、最も無益なアドバイスの一つだったと感じている。
ボイストレーナーの方
声が大きいボーカリストは、なぜ声が大きいのか?それは彼らがボイストレーニングによって声を鍛えていたり、生まれ持った楽器(体)の特性が優れていたりするからだ。
大きな声を出す才能がなく、訓練もしていない人が、大きな声を出そうとするとどうなるか?得てして「金切り声」「張り上げ声」となり、歌として「ダメな声」に仕上がるだけだ。
その人が出せる声の大きさの最大値は、その人の才能や習熟度によって大きな差が出てくる。このことを認識した上で、共鳴を強化する等のトレーニングを行い、少しずつ自身の声を鍛えていく必要がある。
以前、カラオケで高い声を出せるようになった僕が実践した練習方法という記事で紹介したボイストレーニングの本にも、「張り上げてはいけない」とハッキリ書いてある。
覚えておいてください。歌うときは、決して圧力をかけたり張り上げたりしないこと。
出典: 『ハリウッド・スタイル 実力派ヴォーカリスト養成術』 P.18
打ち込み(DTM)でも力任せな演奏にはご用心
最近ではバーチャル・インストゥルメントを使って、リアルなピアノのトラックを作ることもできる。しかし、(極端な話だが)ベロシティをMAXで固定して大容量ピアノ音源を鳴らすとどうなるか?
実際にIvoryを使って試してみたところ、途端に昔のハードシンセ風味の、打ち込みライクなピアノサウンドになってしまった。
※これはこれで、ダンスミュージック等には合いそうだけど。
実際にキーボードを演奏できる人じゃないと、鍵盤楽器の強弱をリアルに再現するのは難しいかもしれない。それでも、ベロシティの設定にこだわって、リアリティを追求することは、たとえマウスでピアノを打ち込んでいる人にとっても効果的なことだ。
まとめ:良い演奏のためにモニター環境に気を配ろう
これがこの記事の結論だ。
すでにDAWの環境を持っている人は、新しい機材を買う必要はない。いつもよりもモニター音量を大きくして、繊細な演奏を心がければそれでいい。
一方で、今スマホ等で楽器や歌を録音している人は、やはり充実したモニター環境・録音環境を得るために、次のアイテムを最低限揃えておくことを推奨したい。
- パソコン
- オーディオインターフェイス
- ヘッドホン/モニタースピーカー
DAW環境があれば、より自分の演奏を客観視できるようになるし、ひいては良いテイクが録音できるようになるはずだ。