※2023年10月25日:これまで「同主調の借用和音」のことを「準固有和音」と表現してきましたが、これは和声学における解釈に照らし合わせると正確さに欠けるため、「同主調の借用和音」という表記に訂正させていただきました。
音楽理論に詳しくなってくると、コード進行を工夫して曲を作りたくなってくるものだ。
しかし、複雑なコード進行と楽曲のキャッチーさを両立するのは難しい。コード進行に凝ってみたものの音楽的に不自然になってしまい、結局シンプルな進行に戻す…という経験をしたことがある人もいるはず。
ギルバート・オサリバン(Gilbert O'sullivan)の「Alone Again (Naturally)」は複雑なコード進行にも関わらず、楽曲展開がスムーズで自然。流れるようなメロディと複雑なコード進行が見事に調和した名曲だ。
今回はこの曲のコード進行を解析していく。
目次
イントロ(Key = Gb)
| GbM7 Gb6 | Bbm7 Bbm7(11) |
| Abm7 Db7-9 | Gb |
最初の1、2小節目は共に、F~Ebというトップノートのラインを聴かせているが、それに応じてコード表記も変わっている。
3小節目は定番のツーファイブ進行。3~4拍目のドミナント7thコードには♭9thという
テンションが付加されている。♭9thはオルタードテンションの中では最もよく登場するものだ。
Aメロ(Key = Gb)
| GbM7 Gb6 | Bbm7 Bbm7(11) |
| Dbm7 | Bbm7-5 Eb7-9 |
| Abm7 | Abm7-5 |
| Gb Gbaug | Gb6 F7 |
Aメロと言っても、ここが最も印象的なセクションなので、実質サビ(コーラス)という位置づけだろう。
1~2小節目まではイントロでも出てきた普通の進行。
3小節目でいきなりDbm7。ディグリー表記だとVm7になる。これはダイアトニックコードではないが、同主調からの借用和音で、しばしば登場する。
※過去の記事でも説明しているが、「Key= Gbの曲では、Key= Gbmのダイアトニックコードも使える」ということを覚えておこう。
4小節目からのツーファイブは、Bbm7-5と5度がフラットしている。次のAbm7につながるよう、ここから「Key=Abm」に部分転調していると解釈できる。
6小節目のAbm7-5は、5小節目から少し構成音を変える形で進行してるが、これは前述の借用和音だ。
7小節目からはトニックの和音がクリシェ的な変化をする。5度の音が半音ずつ上がっていくという「上昇クリシェ」で、しばしば登場するパターンだ。
8小節目の3~4拍目はF7という、ダイアトニックコードでも借用和音でもないコードが出てくる。ディクリー表記だとVII7。あまり馴染み深くないかもしれないが、これは次のコードに対するドミナント7thコード。ここと次の小節だけBbmに部分転調していると解釈するのがよいだろう。
Bメロ(Key = Gb)
| Bbm7 | Dbm6 Eb7-9 |
| Abm7 | Abm7-5 |
| GbM7 Gb6 | Bbm7 Eb7(9) |
| Abm7 Db7-9 | Gb |
特に明確な区切りがあるわけではないが、便宜上ここからBメロとしている。
2小節目ではサブドミナントマイナーであるDbm6が登場し、切ない雰囲気が演出されている。
5小節目からの部分はAメロの冒頭でも出てきた進行に近い進行だが、6小節目にEb7(9)というコードが出てくるところが違っている。
歌メロがちょうど9thのテンションになっていて、ここで一気に開放感が演出されている。楽曲のクライマックスといって良いだろう。
7~8小節目は、イントロでも出てきた進行。トニックへ向けたツーファイブで曲を締める。
Cメロ(Key=A)
| A | E | G#m7-5 C#7-9 | A |
| D#m7-5 | DbM7 | Abm7 Abm7/Db |
2番の後の大サビの部分だ。ここからは「Key=A」に転調する。
さんざん同主調からの借用和音を多用してきただけに、ここで同主調(厳密にはその平行調だが)に転調するのは、さながら伏線が回収されたといったところだろうか。
5小節目のD#m7-5はディグリー表記だとIV#m7-5。II7やIVM7、VImなど、色々なコードの代理コードとして解釈されるので「準ダイアトニックコード」といってもいいくらい頻出のコードだ。
6小節目からは転調していく。突然DbM7というコードがでてくるが、その前にD#m7-5が出てきているからか、割と自然につながって聴こえる。
7小節目からは元のキー(Gb)に戻るためのツーファイブ。その後は、AメロとBメロのコード進行そのままの間奏が来て、再びAメロBメロを繰り返して終了する。