「Go Tight!」は、AKINO from bless4の2枚目のシングルだ。TVアニメ「創聖のアクエリオン」の後期オープニングテーマにもなっている。
「疾走感溢れる乾いたロックサウンド&キャッチーなメロディ」という分かりやすい特徴を持つ一方で、随所に挟まれる部分転調や、モード(ドリアンスケール)的な音使いといった、アカデミックな要素も詰め込まれた一曲だ。
作曲・編曲・プロデュースを手がけたのは、菅野よう子氏。彼女の持ち味が存分に発揮されたこの曲を、今回分析してみる。
- コードは耳コピで採譜しています
- マイナーキーであっても、そのキーの平行調と解釈して記載することがあります(ディグリー表記の都合上)
目次
コード進行
0サビ(Key = G)
| Em7 | Dm7 | CM7 | B7 |
| Em7 | Dm7 | CM7 | F7(9) |
| F7(9) | |
(Degrees)
| VIm7 | Vm7 | IVM7 | III7 |
| VIm7 | Vm7 | IVM7 | VIIb7 |
| VIIb7 | |
頭サビで曲がスタートする。
基本的には「6-5-4-3」という、VImから下がっていって循環するオーソドックスなパターンだ。ただし2・6小節目のDm7に注目。これはディグリーで表すとVm7となる非ダイアトニックコードだ。
ここの解釈としては、次のCM7に向けて進行するツーファイブを挟むパターンだと考えられる。
- 「Dm7 → G7 → CM7」
コード表記上はG7を挟まずにDm7から直接CM7に進んでいるが、歌メロがBに行っているので、曲全体のコード感がG7に寄っており、結果的にCM7に向かって推進していくような響きとなっている。
※この曲では、このツーファイブ進行が度々登場することになるので、要チェックだ。
8小節目のF7(9)は、B7の裏コード(代理コード)。4小節目のB7に対して、繰り返し時に変化をつけるためのリハーモナイズだ。
イントロ(Key = G)
| B7sus4 | | B7 | |
| Bm7 | | B7 | |
(Degrees)
| III7sus4 | | III7 | |
| IIIm7 | | III7 | |
イントロでは、ペダルポイント的にルートをB音で固定しつつ、「コードの明るさを決定づける3度の音」を動かすことで展開を作っている。
※前回の記事で紹介した「トライアングラー」という曲と同じパターンだ。
Aメロ(Key = D)
| Bm7 | Bm7/A | GM7 | D/F# |
| Em7(9) | Em7/A | Bsus4 | B/D# Bsus4/E |
| Bm7 | Am7 | GM7 | D/F# |
| Em7(9) | Em7/A | Bsus4 | G/C |
| B | |
(Degrees) ※簡略化
| VIm | V | IV | I on III |
| IIm7 | V | VI | |
| VIm | Vm7 | IV | I on III |
| IIm7 | V | VI | VIIb |
| VI | |
AメロではKey = D(※実際はBm)に転調している。前のセクションのルートがずっとB音だったということもあり、キーが変わったことを感じさせないような、自然な転調となっている。
コード進行的には、VImから1つずつ下がっていくようなオーソドックスなパターンだ。なお、10小節目のAm7に関しては、0サビの項目で説明したのと同じく、ツーファイブが挟まれていると解釈できる。
16小節目のG/Cは、ディグリーで表すと「VIIbM7」に近いコードになる。
Bメロ(Key = D)
| (N.C.) CM7(9) | | DM7(9) | |
| D#m7 G#7 | F#m7 B7 |
| Am7 B7sus4 | B7 |
Aメロに続いて「Key = D」としているが、実際は一定の調性を保たずに進んでいくセクションだ。
5小節目以降は部分転調のオンパレード。「IIm7 → V7」というひとかたまりを、どんどん短3度上へとつないでいくような展開になっている。短3度上のキーといえば、同主短調の平行調だ。近親調であるがゆえに、このように前触れのない部分転調であっても、比較的自然に聴くことができるのだ。
また、あくまでもメロディの流れに即してコードが展開されているというのも、部分転調が自然に聞こえる理由のひとつだろう。たとえば、5小節目の頭に出てくるD#m7というコード。これは直前のDM7(9)と構成音が近いだけではなく、歌メロであるF#音を含んでいる。だからコードのつながりも自然なのだ。
このBメロは、部分転調が次々と華麗に決まっていく、美しいセクションだ。
サビ(Key = G)
| Em7 | Dm7 | CM7 | F7(9) |
| Em7 | Dm7 | CM7 | B7-13 |
| Em7 Em7/A | DM7 |
| Dm7 Dm7/G | CM7 |
| Cm7 | Am7/D |
(Degrees) ※簡略化
| VIm7 | Vm7 | IVM7 | VIIb7 |
| VIm7 | Vm7 | IVM7 | III7 |
| VIm7 II7 | VM7 |
| Vm7 I7 | IVM7 |
| IVm7 | V |
前半8小節は、前述の「頭サビ」の項目で紹介したのとほぼ同じコード進行だ。
※「裏コードに変わる位置が、4小節目と8小節目で入れ替わっている」という細かい違いはあるが。
9小節目以降の部分を見てみる。ここもBメロで出てきたのと同じように、「IIm7 → V7 → IM7」のひとかたまりをつなぐ形で、全音下のキーに向かって部分転調を連続で行っている。「M7→m7」と進行する際、ルート音が共通音のピボットに据えられており、自然な部分転調が実現していることがわかる。
※なお、上記のグレー背景の部分に書いてあるディグリーは、キーがずっとGであるという前提で表記している。部分転調を考慮した度数ではないので、混乱しないように注意してください。
また、細かい話だが、「M7→m7」と進行する部分では、歌メロがシンコペーションする形でm7コードの構成音(m7th)を通っていることにも注目したい。こういった要素も、スムーズな部分転調の実現に一役買っているといえる。
この「メロディの動きと渾然一体となった部分転調」が連続で繰り広げられる様は、この曲の一番の聴きどころだ。アカデミックさとキャッチーさを両立させた、レベルの高い作曲が行われているといえるだろう。
サビのおわりは「IVm7 → V」という風に、次のセクションにつながる形で締めている。どれだけ部分転調を繰り返しても、最後はきちんと元のキーに戻して破綻させずにまとめている。このあたりがプロの技だ。
間奏(Key = D → Key = A)
| B7sus4 | | | |
| B7sus4 | | D A/C# | C |
| F#7sus4 | | | |
| F#7sus4 | | A E/G# | Gadd9 |
(Degrees)
| VI7sus4 | | | |
| VI7sus4 | | I V on VII | VIIb |
(※ここでキーが変わる)
| VI7sus4 | | | |
| VI7sus4 | | I V on VII | VIIb |
2サビ後の、ドラム等の演奏がハーフタイム・フィールになるセクションだ。
便宜上キーはD(後半はA)と解釈しているが、あくまで目安。B7sus4の部分ではギターフレーズがBドリアンの音使いをしているし、調性は割とあいまいな状態であると考えてよさそうだ。
後半の8小節は、前半と同じコード進行を完全4度下で演奏している。
Dメロ(Key = D)
| Bm7 | Bm7/A | D6 | Bm7/E |
| Bm7 | Bm7/A | D6 | Bm7/E |
| Bm7 | Bm7/A | D6 | Bm7/E |
| Bm7 | Bm7/A | D6 | Bm7/E |
(Degrees) ※簡略化
| VIm | V | I | II |
| VIm | V | I | II |
| VIm | V | I | II |
| VIm | V | I | II |
キーはBmを感じさせるようなセクションではあるが、間奏のギターと同じく、歌メロはBドリアンスケールを使っている。それによって、少し洗練された雰囲気が漂っているのがポイント。
3サビ前半(Key = G)
| Em7 | Dm7 | CM7 | F7(9) |
| F7(9) | |
| B7sus4 | | | |
(Degrees)
| VIm7 | Vm7 | IVM7 | VIIb7 |
| VIIb7 | |
| III7 | | | |
ラストサビに突入する前の、少し静かなセクション。他のサビ部分とほぼ同じコード進行をしている。B7sus4のところでキメを入れてラストサビにつなげている。
エンディング
| E7sus4 | | E7 | |
| Em7 | | E7 | |
(3/4)
| G | A | B |
このセクションも一定の調性で進むわけではないので、あえてキーは指定せずに解釈している。
ここではイントロと同じコード進行を別のキーで演奏しているような形になっている。ただし、いずれのキーにおいても、歌メロ終わりのロングトーン(E音)がコードの構成音になっているため、違和感なく曲が成立しているのがポイント。
最後の3小節は、3/4拍子となり、「IV → V → VI」と、ピカルディ終止的に曲を締めている。
まとめ
コード進行のポイントをまとめてみる。
- あざやかな部分転調の連発
- 短3度上へ向かって「2-5」の連発@Bメロ
- 全音下へ向かって「2-5-1」の連発@サビ
- 一定の調性を感じさせず、自由に進んでいく洗練されたBメロ
- 間奏~Dメロにかけての、ドリアンスケール的な音使い(ギター・歌)
- 最後の「IV→V→VI」(ピカルディ終止)
キャッチーなメロディを持ちながらも、アカデミックで洗練されたコード進行をしているという、レベルの高い曲だ。菅野よう子氏の持ち味が存分に発揮された一曲といえるだろう。
Lost in Time/ AKINO from bless4