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【DAW】音圧を上げるテクニックをまとめてみる

DAWで音楽を作っている人で、市販の曲と比べて迫力や音圧が足りないと感じている人は多いだろう。かつて僕自身も、このことに長らく悩んでいた。音圧は実に奥深い問題だ。「音が大きい方が、音楽が良く聴こえる」。人間の耳はそんな性質を持っているからだ。

TVCMに入ると突然音が大きくなるのは、広告にインパクトを持たせるためだ。また、商業音楽の世界では「TVやラジオで流したときに大きく聴こえたほうが曲が売れそう」という理由で、マスタリングの際に過剰に音を大きくすることを希望するクライアントも一定数存在する。

こういった「音を大きく聴こえさせる」ための競争は、「Loudness War(音圧戦争)」などと呼ばれている。未だに音圧至上主義の人も多い(昔よりは落ち着いたが)。

音圧を上げることで犠牲になるものは多い。演奏のダイナミクスは失われるし、音が不自然に歪んで聞き苦しくなることもある。プロのミュージシャンやエンジニアの中には、音圧を上げることに反対している人もかなり多い。

とはいえ、激しい音楽では音圧が高いほうがカッコよく聴こえることも多いし、お仕事で音楽を作っている人ならば音圧の高い音楽を生み出すテクニックを身につけておいても損はない。

今回は、僕が雑誌や教則本、ネット記事などで学んだ情報や、実際に音楽制作を行って得られた経験則から、音圧を上げるために必要なテクニックをまとめてみる。市販のJ-POP程度の音圧を目指した内容となっているが、EDM的な音像を狙う場合でも、そのまま役立てられるTipsとなっている。

音圧の定義

この記事では、「音圧が高い」という状態を次のように定義します。

  • 再生機器のボリュームが同じなのに、より音が大きく聴こえる

基礎知識

音楽ジャンルごとの音圧について

ジャンルごとに出せる音圧は変わってくる。例えば、シンセ中心のダンス系音楽は音圧を稼ぐ上で有利だ。理由は次の通り。

  • シンセだと、生楽器では出ない超高域の帯域を簡単に埋められる。
  • 生楽器と異なり、シンセの音色はEQやコンプで大きく加工しても違和感が出にくい。
  • ダイナミックレンジの小さい音色が多いので、結果的に常に大きい音を鳴らせることになる。
  • ロック的なアンサンブルと異なり、キックとベースを一緒に鳴らす必要がなかったり、一緒に鳴らすときはサイドチェインコンプを使うので、低域の容量に余裕がある。
  • S成分を上げても違和感なく(むしろカッコよく)聴かせられる(後述)。

逆に、ダイナミックレンジが大きい曲ほど音圧を稼ぐ上では不利だ(ジャズ、オーケストラ、ポップスのバラード系の曲など)。基本的には、激しい音楽ほど音割れが気にならない分、音圧を上げやすいといえるだろう。音楽のジャンルに合った適切な音圧感を狙うのが良い。

サチュレーション(歪み)について

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その昔、アナログ卓でミックスしていたときは、何もしなくても歪みが加わっていた。アナログミックスでは、回路を通ることでノイズや倍音が自動的に付加されていくからだ。

しかしDAW内部でミックスをする場合はそのような効果は得られないので、意識して歪みを加えて行く必要がある。さもないとクリーンで無味乾燥なミックスになり、結果的に音圧も出なくなる。サチュレーターやテープシミュレーター、コンソールシミュレーターを上手く使おう。

なお、ここでいう「歪み」とは、ギターのオーバードライブのような音色ではなく「倍音が適度に足されること」を意味する。歪んで聴こえるような音色を指すわけではないので注意。 

等ラウドネス曲線

等ラウドネス曲線(←Wikipedia)を意識する。これは簡単に説明すると、次のような現象を指すものだ。

  • 音を聴く音量によって、帯域ごとの音量感が聴感上変わってくる

例えば、リスナーが比較的小さめの音量で音楽を聴いている場合、音響的には次のようなことが起こっている。

  • 低域は音量レベルが高くてもあまり大きく聞こえない。
  • 2~5kHzあたりの帯域は大きく聞こえやすい。

大抵のリスナーは爆音で音楽を聴くことはないので、再生機器のボリュームが小さくても大きく聴こえるよう、ハイ上がりの音像を狙った方が音圧的には有利。



アレンジ編

音域バランスを整える

低音から高音まで(←フレーズ的な意味で)音がまんべんなく含まれるアレンジを行う。何も考えずにテキトーに音を重ねていくだけだと、たいてい高域成分が不足してくるはず。ときには鍵盤の左端から右端まで音を配置するつもりで(ただし楽器の音域は守る)。

帯域バランスを整える

低域から高域まで(←帯域成分的な意味で)音がまんべんなく含まれるアレンジを行う。音圧を上げるためには、帯域バランスが均等な方が有利。同じ高さの音でも、音色によって含まれる帯域成分は変わってくるのでちゃんと音色にこだわるようにする。

超高域(10kHz~くらい)が含まれる楽器はそれほど多くない(シンバル類、金属製の打楽器、フィルター全開のシンセ、アコギ、ボーカルなど)。高域まで伸びた音像の2mixを狙うには、アレンジの段階で工夫する必要がある。

とはいえ、超高域成分が少ない音楽も多い。例えば3ピースのロックバンド的なサウンドだと、超高域の成分が含まれるのはシンバルとボーカルくらいなので、必然的に2mix全体の超高域成分も少なくなる。帯域バランスについてはジャンルに合った調整を行うのが最優先だ。

定位を整える

定位を意識して、左端から右端までバランス良く楽器を配置する。また、ステレオ成分を有効に使ったアレンジのほうが音像が広がるので聴感上の音圧を上げるには有利。音色によってはステレオイメージャー等も上手く使うと効果的。

リズム面の工夫

音が鳴りっぱなしの曲よりも、休符を生かしたアレンジのほうが大きく聞こえやすい。リズム的にメリハリのあるアレンジを心がける(実現できるかは曲次第だが)。

トラック数

トラック数が増えれば増えるほど、各パート間で被る帯域が増えるので音圧は出しにくくなる。J-POP的な上塗りのアレンジは、本来音圧を出すには不向きなのだ。

ミックス編

EQについて

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基本的に、「要らない帯域をカットする」というのが重要。

ベースやキックのような低音楽器以外、低域はカットしよう。80~200Hzのあたりで、ハイパスフィルターを入れてローカットする。

ローミッドの帯域には注意する。生楽器ではローミッドの成分が多く、これが温かみやリアルさ、アナログ感といった特徴を生み出している。反面、この成分が多すぎると、モコモコした抜けの悪いミックスになり、結果的に音圧を出す上では不利になってくる。

楽器同士で被る帯域も必要に応じてEQでカットしていく。音圧に関係なく、良いミックスのために帯域の住み分けは必須だ。

コンプについて

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各トラックについて、コンプで音量的なピークを叩いて潰すようにする。特に前に出てくる音(リズム楽器等)は、素材の音が最も大きく聞こえるように、適切にコンプを掛ける。エンジニアが現場で1176のコンプを多用しているということを知っておこう。

※1176はアタックタイムが非常に速いコンプ → ピークは必然的に潰れる

ピークは潰すが、「アタック感」は損なわないようにする。コンプのアタックタイムは短くしすぎないようにしよう。アタック感が適度にある音のほうが聴感上の音圧は高く聴こえるのだ。

また、サイドチェインコンプは効果的。キックが鳴るときにベースを引っ込ませれば、音圧を稼ぐ上で有利。他にも、「歌を聴かせるために、ボーカルをソースにストリングスをダッキングさせる」等のテクニックもある。

サチュレーションについて

ほとんどのジャンルにおいては、各トラックごとにサチュレーションを加えて聴感上の音圧をプラスするという作業が必要。これをやらないと、2mixを必要以上にリミッターに突っ込まないと大きく聴こえなくなる。そうなると聞き苦しくなるので、リミッターに突っ込む前に音圧が出やすい2mixを目指す。

サチュレーションを加えると、元の周波数成分の奇数倍や偶数倍の帯域成分が発生する。つまり、元の音よりも高い周波数成分が新しく生まれることになる。前述の「帯域バランスの整え」や「超高域を稼ぐ」といった観点からいっても、これは重要。

多くのメーカーがサチュレータープラグインを販売している。例えば、Sonnox Inflatorは音を崩さずに倍音を足してくれるし、SoundToys Decapitatorは派手に歪ませることも可能でわかりやすい効果が得られる。どちらもオススメだ。

Inflatorやテープサチュレーター系で奇数倍音、チューブ系で偶数倍音を付加できる。作りたい音に合わせてプラグインを選ぶとよい。

Sonnox Oxford Inflator Native



マスタリング編

サチュレーションについて

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元の2mixにもよるが、ある程度は2mix全体にサチュレーションを加える必要がある。市販の曲は意外と歪んでいるのだ。テープシミュ、コンソールシミュ、サチュレーター、アナログ系のコンプなどでサチュレーションを適度に加えよう。

Slate Digital VCCやWaves NLSなどのコンソールシミュレーターは、その用途上、不自然に歪んでしまうようなこともない。特に設定に神経を使うことなくサチュレーションを加えられるので、初心者の方にもオススメ。

Slate Digital/VCC 2.0

M/Sコンプについて

マスタリングではS成分を潰して上げるのも効果的。M/Sコンプでそれぞれコンプを掛け、S成分の量を上げる。この処理をしておくと、リミッターに突っ込んだときに音圧が出やすい。

通常の2mixではS成分の量がどうしても少ないので、普通にリミッターをかけるとM成分が先に限界値に達して音割れしやすい。音をS成分に逃してやることで、より大きく聴かせることができるというテクニックだ。

僕もマスターでM/Sコンプをかけるようになり、好みの音像・音圧を得られるようになった。また、著名なマスタリングエンジニアのGoh Hotoda氏も、M/S処理の有用性を語っている。

●MS処理がマスタリングに有効であると?

○ええ、サイドの方にだけ微妙にEQやコンブをかけたりすると、L/Rで処理するよりも確実に音圧を稼ぐことができます。

出典:サウンド&レコーディング マガジン2013年1月号

Waves PuigChild 670や、Slate Digital VBC(FG-MU)など、M/Sのコンプ処理を単体で行えるプラグインもある(奇しくも両方Fairchild系の真空管コンプ)。通常のLRステレオの状態のままでM/S処理ができるので便利だ。

なお、マスターへのM/S処理は音像が崩れることもある。意図した結果になっているか、元の状態との比較を忘れないようにしたい。

Slate Digital VBC

リミッターについて

リミッターの性能には差がある。

※ここでの「性能」とは「音割れやポンピングを起こさずに、聴感上の音圧を高くできる能力」を指す。

リミッターの性能が高いほうが、音割れせずに音圧を上げられる。例えばWaves L2やL3よりも、FabFilter Pro-Lの方が性能は高い。「リミッターの性能が低いせいで音圧が出ない」という状況を無くすために、初心者の人ほど、はじめに良いリミッターを買うのが良いと思います。機材のせいにできなければ、後は腕の問題なので。

Slate Digital FG-X

今回は音圧を上げるためのテクニックについて書いた。