DAWソフトを使って音楽制作をするとき、私たちは何度も「鍵盤で音を出す」という動作をする。
スラスラ弾ける人はもちろん、そうじゃない人でも、鍵盤で音を出すことは大事だ。「自分の体の動きによって音が発生する」というのは、クリエイティブな作業に良い影響がある。鍵盤を叩くのは、マウスをポチポチ操作するよりも、断然気持ちがいい。
この記事では、MIDIキーボードの選び方について考えてみる。オススメのMIDIキーボードもいくつか紹介する。
目次
MIDIキーボードを選ぶポイント
良い鍵盤を搭載している機種を選ぼう
MIDIキーボードで一番大事なのは「鍵盤の質」だと僕は考えている。鍵盤の弾き心地を最優先に考えるのが良い。
MIDIキーボードには、フィジカルコントローラーやMIDIパッドを搭載している機種も多い。しかし、結局使わなくなることも多い。これらの機能は思い切って無視してしまってもいい。
実際、「安価なMIDIキーボードは鍵盤がイマイチだから、音源付きのシンセやステージピアノをMIDIキーボードとして使ってる」という人はかなり多い。数万円程度のMIDIキーボードだと、黒鍵の長さが短かかったりして弾きづらいことも多いのだ。
どの機種に良い鍵盤が搭載されているの?
次のような製品には、質の高い鍵盤が搭載されていることが多い。
- 88鍵のステージピアノ
- 88鍵の電子ピアノ
- 国産メーカーのフラッグシップシンセ(YAMAHA MONTAGE、KORG KRONOSなど)
1)ステージピアノには、高品質な鍵盤が搭載されていることがほとんど。
2)電子ピアノだと安い製品(3万円程度)でも、意外と鍵盤の質が良かったりする。ステージピアノと比べてかさばることと、脚から取り外せない製品があることに注意。
3)YAMAHA、Roland、KORGといった国産メーカーのフラッグシップシンセにも良い鍵盤が搭載されている。ただし、鍵盤目当てで現行品を買うのはコスパが悪い(後述)。
鍵盤数はどうする?
僕のオススメは88鍵のステージピアノだ。
88鍵なら鍵盤の品質が最低限保たれる
ステージピアノや電子ピアノには、いわゆる「ピアノタッチ」の鍵盤が搭載されている。鍵盤にハンマーアクションの機構を持ち、88鍵あるのが特徴だ。
88鍵なら、3~5万円程度の安価な電子ピアノであっても、タッチはそれなりに良いことが多い。安価なMIDIキーボードやシンセにありがちな、「黒鍵が短くて弾きづらい」ということがない。
※たとえばKORG SP-250という電子ピアノは、安いのにRH3鍵盤を搭載しているスゴい製品だった。
僕は以前、Rolandの安いシンセやMIDIキーボードを使っていたが、黒鍵が短くて#や♭の多いキーだと演奏がキツかったのをよく覚えている。こういうのでストレスをためるのは良くない。予算が少ないなら、むしろ88鍵を選んだほうが満足度の高い買い物ができる。
本体だけでも音を出せる
純粋なMIDIキーボードには音源が付いていないので、パソコンを起動しないと音が出せない。ふと思いついたアイディアを鳴らすためには、ピアノの音色くらいは本体側で出せたほうが良かったりする。作曲をする人なら、88鍵ステージピアノのような「音源付きの鍵盤」を使うのがおすすめ。
(鍵盤数の)大は小を兼ねる
ピアノタッチの鍵盤なら、多くの音色で快適に演奏がこなせる。ピアノやエレピはもちろん、シンセやドラムの打ち込みも問題ない。唯一、オルガンはグリッサンドがやりづらいけど、妥協できるレベルだ。
鍵盤が1台だけあれば済むというのも、88鍵を使うメリットのひとつだ。
僕は昔、
- 体の正面にはシンセ鍵盤(49鍵)
- 横にピアノタッチの鍵盤(88鍵)
みたいに鍵盤を2台使って音楽制作をやっていた。ピアノ音色は横を向いて、それ以外は正面で……という具合だ。
だけど、今思えば、「横を向いてピアノ鍵盤を演奏する」という動作には無駄が多かったように感じている。真正面に88鍵があれば、1台で全部済むからだ。そのほうが断然効率的だし、疲れない。
キースイッチの入力が楽
DAWで打ち込み作業をする場合、ストリングス音源などではキースイッチを入力することがある。キースイッチはB0とかC1とかの低い音域に配置されているので、88鍵以外のキーボードでは、オクターブシフトをして押さえなきゃいけない。こういった細かい手間が積み重なるのは時間のロス。88鍵を使ったほうがいい。
ベロシティカーブの微調整はソフト側でやればいい
ステージピアノや電子ピアノだと、MIDIキーボードに比べてベロシティカーブを細かく調整できない。しかし今やソフト音源全盛の時代。ソフト音源側でベロシティカーブを細かく調整ができることが多いので、心配はいらないだろう。
オススメのMIDIキーボード5選
ここではオススメのMIDIキーボードを5つ紹介する。※88鍵のピアノタッチのモデルが中心。
YAMAHA CP40 STAGE
今回紹介する中では、最もオススメできるステージピアノだ。
- 比較的求めやすい価格帯
- 作りもしっかりしている(ヤマハ伝統のGH鍵盤を搭載)
- 88鍵のピアノタッチにも関わらず、1332×163×352mmと省スペース
- ピッチベンドとモジュレーションホイールを搭載。打ち込み作業でも困らない
このように、各要素をそつなくクリアしてくる優等生。
しかしながら、この製品はひと世代前のもので、すでにメーカーでは生産完了している。さらに後継機種に関しては、この価格帯の製品がラインナップから外されたため、存在しない(なんてこった)。
このCP40 STAGE、新品については在庫がある分で終了すると思われる。今現在MIDIキーボードを探している人は、ぜひ早急にチェックすることをおすすめする。
KORG D1
88鍵で考えるなら、この製品が最強のコストパフォーマンスを誇る。わずか数万円程度にも関わらず、RH3鍵盤を搭載している。RH3鍵盤と言えば、同社のフラッグシップシンセ「KRONOS2 88」にも搭載されている鍵盤だ。
実際に弾いてみると分かるが、タッチの質感は高級ステージピアノのそれと全く同等のクオリティ。鍵盤部分にコストが掛かっていることがよく分かる製品だ。本来この価格帯では、ピアノタッチだとセミウェイテッド鍵盤が多いわけで、RH3鍵盤が搭載されているのはすごいこと。ステージピアノだから、もちろん内蔵音源も付いている。驚異のコストパフォーマンスだといえる。
1点だけ惜しいのが、ピッチベンドやモジュレーションホイールが付いていないところ。これらのパラメーターの入力には、別途MIDIコントローラーを用意する必要が出てくることに注意。
ただ、他にコスパの高いステージピアノが現行品では全然無いことを考えると、本当に「KORG D1+良いMIDIコン」の組み合わせがベストなんじゃないかとさえ思えてくる。MIDIコンにはExpressive E Touche SEなどを使えば、普通のキーボードのベンドコントローラーを使うよりも楽しいだろうし。
Studiologic Numa Compact 2x
これもかなりオススメ。コンパクトだけど、一応88鍵盤のステージピアノだ。
- 奥行きがとても短くコンパクト
- 内蔵音源を搭載(ピアノ、エレピなど合計1GB)
- タッチは軽めで独特
- Fatar製鍵盤を搭載(というかStudiologic社はFatarの自社ブランド)
海外製なので弾き心地が少し独特だが、タッチさえ気に入ればベストマッチな一品といえるだろう。DTMとの相性も良い。
氏家氏のデモ動画が参考になる。 → Studiologic Numa Compact 2 Demo & Review
Roland RD-2000
他メーカーでも探してみたが、この価格帯のステージピアノでは、RD-2000が最もおすすめできる。値段に見合った作りをしているし、MIDIコントローラーとしての機能が豊富なのも魅力。
裏技:あえて古いシンセを狙う方法もある
- YAMAHA S90シリーズ
- YAMAHA MOTIFシリーズ
こういったシンセにはBH鍵盤やFS鍵盤(※詳細は後述)が搭載されているので弾き心地が良いし、DTM作業との相性も良い。だけど現行品で探す場合、これらの鍵盤は30万円以上するMONTAGEを買わなきゃ手に入らない(あんまりだ)。
また、ステージピアノをMIDIキーボードとして使いたい人にとっても、今はやや肩身が狭い状況だ。たとえばYAMAHAのCPシリーズなんて、数年前までは10万円台の廉価版が販売されていたのだ。
※CP33、CP40 STAGEなど。
なのに、今や最高機種のCP88しか売っていないような状況。今までのCPシリーズはお手頃価格が魅力だったのに、RolandのRDよりも高くなっている。
※だから今回オススメ商品の項目ではCP88は紹介していない。モノ自体は非常に良いのだが……
10年くらい前と比べると、現行品では「お手頃価格」で「高品質な鍵盤を搭載している」製品が少ない印象だ。
そこで、あえて中古市場に狙いを付けてみるのも良いと思う。古い製品だって、音源が古いだけで、搭載されている鍵盤のクオリティは変わらない。状態の良いものが手に入れば、かなり満足度の高いタッチが得られるのではないだろうか。
特にBH鍵盤やFS鍵盤のタッチが欲しい人は、中古市場でS90シリーズやMOTIFを探してみるのも手だ。ヤフオクやメルカリといったフリマサイトにもよく出品されていたりする。
豆知識:おすすめの鍵盤の名前について
YAMAHA
オススメの鍵盤を挙げてみる。
- FS鍵盤:シンセ鍵盤。弾きやすい。歴史のあるヤマハのシンセ鍵盤だ(1983年発売の名機「DX7」にも搭載)。
- FSX鍵盤:シンセ鍵盤。弾きやすい。FS鍵盤の正当進化系。MOTIF XSあたりから搭載されている。現行品だと、MONTAGE6 / 7にしか搭載されていないのが辛いところ。
- BH鍵盤:ピアノッチの鍵盤。S90シリーズやMOTIF(88鍵)シリーズに搭載されていた。どの音域もタッチが同じなので、どんな音色でも演奏しやすい。こちらも現行品だと、 MONTAGE8にしか搭載されていない。
- GH鍵盤:ピアノッチの鍵盤。長年ヤマハの88鍵モデルに搭載されてきた。低音ほどタッチが重く、高音ほど軽くなる仕様。ピアノ音色の演奏に合う。
- NW系鍵盤:ピアノタッチの鍵盤で素材が木製のもの。NW-GH、NW-STAGE、NW、NWXなどがある。いずれも鍵盤のクオリティが高い。
YAMAHAの安価なシンセや電子ピアノには、LC鍵盤(シンセ鍵盤)やGHS鍵盤(ピアノタッチ)が搭載されている。しかし、FSX鍵盤やGH鍵盤と比べて、それぞれクオリティは落ちる印象だ。
【参考リンク】
Roland
Rolandの製品は、鍵盤に名称が付いていないことも多く、分類するのが少し難しかったりする。なので2点だけ所感を述べておく。
- RD系のステージピアノに搭載されている鍵盤は、高品質(値段も高いけど)。
- シンセ鍵盤については、良いものもあれば、そうでもないものもある。
KORG
KORGのキーボードも、シンセ鍵盤には名前が付いていないことも多い。ざっくりとしているが、2点だけ所感を述べておく。
- KRONOSの88鍵モデルに搭載されている「RH3鍵盤」(ピアノタッチ)は高品質。
- シンセ鍵盤については、良いものもあれば、そうでもないものもある。
※余談だが、昔のKORGのシンセ(TRITONとか)には、FS鍵盤が使われていた。なのでYAMAHAのシンセとタッチはほぼ同等だったりする。