Mix to Mobileは、Sound on Digital社から販売されている、DAWの出力音声をスマホやタブレットで再生するためのアプリだ。※iPhoneでもAndroidスマホでも使える。
パソコンの音をリアルタイムでスマホで聴く方法は、どこかにありそうなのに、意外と無いものだ。ミックスした楽曲をスマホのスピーカーで聴ければ便利なのになぁ……Mix to Mobileはそんなニーズを満たしてくれるお役立ちアプリだ。
目次
Mix to Mobileの良いところ
操作がシンプルで簡単
Mix to Mobileを使う手順は以下の通り。
- スマホとPCの両方で、それぞれMix to Mobileをインストールする。
- スマホとPCを同じLANに接続する。スマホはWi-Fiでネットに接続しよう。
- DAWソフトのマスターバスの最後に、Mix to Mobileをインサートする。
- スマホでMix to Mobileアプリを起動して、転送されてきた音を再生する。
- スマホからDAWの音声が再生される!
これだけでOK。DAWの出力を気軽にスマホやタブレットに送ることが出来る。
操作方法はとにかくシンプルで、マニュアルすら用意されていないほどだ。
シンプルなGUI
Mix to MobileのGUIはシンプル。
PC側
StreamとPassthroughの2項目にMuteボタンがある。スマホに送る音声とモニタースピーカーに送る音声を、それぞれミュートすることができる。
スマホ側
音量調節スライダーと、聴くのを止めるボタンだけが付いている。
コスパが高い
Mix to Mobileは現在39ドルで販売されている。競合するアプリであるAudiomovers Listentoがサブスクでしか使えないことを考えると、買い切りで入手できるMix to Mobileの価格設定は良心的だ。
Listentoのような豊富な機能は付いていないが、「ミックスをスマホ環境で確認する」というニーズを満たすためのアプリとしては、必要十分な機能を持っているといえる。自宅スタジオの個人環境ならこれで十分だろう。
ミックスを別のスピーカーで確認する意義
そもそもなぜMix to Mobileが必要なのか?それは、ミックスをメインのモニタースピーカーだけではなく、サブの安いスピーカーでも確認することで、ミックスのクオリティを高められるからだ。
スマホならみんな持っている。だからMix to Mobileを買えば、わざわざ小型スピーカーを買わずとも、小型スピーカーを手に入れたのと同じことになるのだ。場所も取らないし、お金もさほど掛からない。素晴らしいアイディアだ。
ミックスを複数の環境で再生することは非常に重要。たとえメインのモニタースピーカーで「これで完璧だ!」というバランスを作ったとしても、スマホのスピーカーで聴けば、どこか直したくなることは多い。
あるいは、メインのモニタースピーカーでミキシングしてるだけだと、歌やリード楽器をどのくらい大きく出すべきか迷ってしまうことがある。※高級スピーカーは音の情報量が多いので。
そんなときもスマホのスピーカーで聴けば、「歌は思ったより大きく出した方が分かりやすいな」という具合に、一定の指針を得ることが出来る。
同じ環境で試行錯誤するよりも、モニターを切り替えてチェックすしたほうが、すんなりとミキシングの指針を得られることが多い。
プロの現場でもラジカセチェックは標準!
僕はアレンジャーとして、スタジオでミキシングに立ち会った経験もある。その際多くのディレクターは、SONY SONY ZS-M5(ラジカセ)でもミックスを確認する。これはミックスチェックにおける、お決まりの展開となっている。
「スタジオにはGENELECの高級スピーカーだって置いてあるのに、なぜラジカセなんかで音を聴くの?」と思うかもしれない。先にも少し触れたが、やはりポップミュージックの主役は歌なので、歌がどのように聴こえているのかを判断するのが大切だからだ。レベル(音量)が適切か、他の楽器に埋もれていないか……これらを確認する上で、あえてナローレンジなラジカセのスピーカーを使うことは合理的だといえる。
Metric ABと組み合わせると便利
以前、自分のミックスをリファレンス音源と比較するためのプラグイン、Metric ABを紹介した。
ミックス作業に必須!音源比較プラグイン「ADPTR AUDIO Metric AB」を徹底解剖
このMetric ABを、今回のMix to Mobileと組み合わせると、より一層便利に使うことができる。DAWの出力をスマホで聴けるのだから、当然Metric ABの出力(=リファレンス音源)も、スマホに送って聴くことが出来るわけだ。
メインのモニタースピーカーで、自分の曲と参考曲を比べる。そして、スマホのスピーカーでも自分の曲と参考曲を比べる。この作業を行うことで、次の事実を知ることになる。
「それに引き換え自分のミックスは……」と落胆するかもしれない。だけど、その悔しさをバネに成長することが出来る。スマホのスピーカーを通して得られた知見を、自分のミックスにもフィードバックすることができる。これが、Mix to MobileをMetric ABと組み合わせる恩恵だといえる。
この「Metric ABと組み合わせる」というテクニックは、僕が実際にMix to Mobileを使うようになって初めて覚えた便利な技だ。せっかくなのでここで紹介しておきたい。
覚え書き
DAW無しでは使えない(今のところ)
今のところ、Mix to Mobileがスマホやタブレットに送れるのは、DAWから出力される音声だけだ。つまり、wavファイルをメディアプレイヤー等で再生しても、その音声をスマホ等に送ることはできない。
※僕はDAW経由で使えさえすればそれでいいと考えているので、特に問題はない。
公式サイトのFAQによれば、将来的にはスタンドアローンでも使えるようにする予定があるとのことだ。
ごくまれに音飛びが発生する
僕の環境では、ごくまれに再生時に音飛びが発生することがある。Wi-Fi経由で音を送っているのだから、ある程度は仕方ないかなという感じ。
ミックスチェックに使う上では問題にならないため、個人的には全く気にしていないが、再生に完璧を求める人は要注意だ。
おわりに
Mix to Mobileを導入して以来、誇張抜きに全てのミキシングプロジェクトで使うようになった。おかげでミックスのクオリティが上がってくれた。