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【Cubase】DAW環境にRyzen 9 3900Xを導入した感想。圧倒的なパフォーマンスに驚きです。

Ryzenとは?

Ryzenライゼンとは、AMDエーエムディー社から発売されているCPUだ 。※正確にはCPUのブランド名。

これまでパソコンのCPUには、Windows・Macともに、Intel社の製品が採用されることが大半だった。しかし、2017年にRyzenが彗星のごとく登場。CPUの世界の勢力図が大きく変わることとなった。

2020年に史上最年少で将棋のタイトルを2つ獲得した、棋士の藤井二冠。彼がRyzen Threadripperスレッドリッパーを使用していると話題になったのも、記憶に新しい。

将棋界で快進撃を続ける藤井二冠は棋譜の分析のためのパソコンを自作することで知られているが、9月10日付の中日新聞に掲載されたインタビューで、〈最新のはCPUに「ライゼンスレッドリッパー3990X」を使っています〉と明かした。

出典: 藤井聡太二冠「自作PC」の値段にパソコンマニアもびっくり



Ryzen(Zen2)の何がすごいの?

Ryzenは革新的ですごいCPUだ。なぜすごいのかというと、主に理由は2つ。

  • 今までのCPUと比べて性能が大幅にアップしたから
  • なのに値段もお手頃だから

それまでは10万円以上出さないと買えなかったような、高性能なCPUが、数万円で手に入るようになった。Ryzenのおかげで、市場全体のCPU性能の底上げが行われたといえる。

ちなみに、なぜCPUの性能がアップしたかというと、主に理由は2つ。

  • コア数が増えたから(廉価モデルでも4コア・6コア当たり前)
  • より効率的なプロセスでCPUが製造されるようになったから(7nmプロセスルールの適用)

Zen2世代(2019年製)のRyzenの発売は、CPUの世界にちょっとしたイノベーションを起こしたといえる。

Ryzen 9 3900Xの性能について

PassMarkというCPUの性能を数値化するサイトを見てみると、いかにRyzenの性能が高いかがよく分かる。カンタンに表現すると、次の2つのCPUがほぼ同等の性能を持つという、驚愕の事実が存在しているのだ。

  • Ryzenのちょっと良いCPU(数万円)
  • 高価なMac Proに搭載されているCPU(数十万円)

具体的なデータは以下の通り。

CPU PassMarkスコア 備考
AMD Ryzen 9 3900X 32858 2019年発売のRyzen。
Intel Xeon W-3175X 31814 2019年発売のMac Pro(税別59万9800円)に搭載。

もちろんMacには、「OSやハードウェアを最適化することで処理能力を向上させている」という長所もある。実際の使用感は、カタログスペック以上に差が出る可能性もある。しかし、これだけ価格差があるのにCPUのスペックがほぼ同等というのは、驚異的なことだ。

(参考)AMD Ryzen 9 3900X vs Intel Xeon W-3175X @ 3.10GHz [cpubenchmark.net] by PassMark Software




Ryzenを導入して良かったこと

1. CPU使用率に余裕が出た

Intel Core i7 8700を使っていた頃は、重めのプロジェクトを再生すると、CPU使用率が70~80%程度まで達することはザラにあった。具体的には、「バンドサウンド+ストリングス+シンセの歌ものポップス」みたいな曲調のプロジェクトだ。トラック数も多い(50~80トラック)し、ボーカルも入るし、プラグインエフェクトも多用する。

Ryzen 9 3900Xに移行してからは、同プロジェクトのCPU使用率は、30~40%で済むようになった。こんなにも余裕が出るものなのかと、少し驚いている。

2. オーディオの書き出しが速くなった

Ryzenに乗り換えたことで、オーディオの書き出しが速くなった。上記のプロジェクトの場合、Core i7のときは書き出しに約3分かかっていたが、Ryzenだと約1分半で書き出せるようになった。

オーディオの書き出し(オフラインバウンス)の速さは、純粋にCPUのマルチコア性能に依存するようだ。

Ryzen×CubaseでDAW環境を構築して分かったこと3つ

1. DAW環境でも多コアRyzenの性能は発揮できる

Ryzenの導入を検討するDAWユーザーのうち、誰もが気になるのは、次のことだろう。

Ryzenのようなコア数の多いCPUを、本当にDAW環境で活かしきることができるのか?

先に結論を言うと、

  • Cubase10であれば、12コアのCPUをフルに活用できる

ということが、テストの結果判明している。

※テストの詳細結果は、次の記事でじっくり紹介している。


Ryzen 9 3900X vs. Core i7 8700で性能比較テスト@Cubase

現行のRyzenなら、DAW環境でも存分に性能を発揮することができる。CPU性能を持て余す心配はない。ここではその根拠について3点ほど書いてみる。

1-1. 今はシングルスレッド性能/マルチスレッド性能の両方が大事

「DAW環境では、シングルスレッド性能が重要」という定説がこれまで存在していた。なぜなら、

  • バッファサイズを小さくしてMIDIキーボードのリアルタイム入力を行う
  • 1つのトラックにインサートFXをたくさん挿してプロジェクトを再生する

というような処理は分散処理ができないため、処理性能は1コアのクロック周波数(処理能力)の高さに依存することになるからだ。だから「とりあえずクロックが高いCPUを使ったほうがいい」というのが従来の定説だった。

さらに、昔はDAWソフトがマルチコアCPUに最適化されていなかった。そのため「コア数少なめ&クロック周波数高め」のCPUを選択するのが、DAW環境を構築する上では無難な選択だった。

しかしながら、最近はDAWソフトがマルチコアに対応しつつある。そのため、DAW環境においては、マルチスレッド性能も重要になってきているのだ。とりわけ、

  • トラック数がそれなりに多い(20トラック~)曲を作る人
  • 各トラックにインサートFXを多く(5個とか)挿す人

はマルチコアの恩恵を受けられる可能性が高い。並列処理が多ければ多いほど、マルチコアに処理を分散させることが可能だからだ。

1-2. 「DAWソフトはCPUのマルチコアを使い切れない」という説はウソ

CPUのマルチコアを使いきれるかどうかは、DAWソフトの設計次第で変わってくる。しかし、少なくともCubase 10であれば、マルチコアを存分に使い切れることが分かっている。詳しい調査結果は、(先ほどのリンクと同じものだが)検証記事の中で紹介している。

したがって、「DAWソフトはCPUのマルチコアを使い切れない」という説は、不正確だということが分かる。

1-3. 過去のRyzenよりもシングルスレッド性能は向上している

「シングルスレッド性能が弱い」というのが従来のRyzenの弱点だったが、3900XをはじめとしたZen2世代のRyzenでは、それが改善されている。

シングルスレッド性能でIntel CPUに溝を開けられていた第2世代Ryzenまでの性能は振るわなかったが、Ryzen 9 3900XはCore i9-9900Kを凌駕し、Ryzen 7 3700Xも約1%差にまで肉薄している。

出典: 【特集】第3世代Ryzenが驚異的性能でIntelを圧倒。Ryzen 9 3900X/Ryzen 7 3700Xレビュー - PC Watch

前述の通り、DAW環境ではCPUのシングルスレッド性能も重要だ。Ryzenを導入することの意義は、Zen2の登場によって一気に高まったといえそうだ。

2. 周辺機器も問題なく動く

もうひとつ気になるのが、ハードウェアの対応状況だ。いくらパソコンの性能が高くても、音楽制作に使えなければ意味がない。2017年に初めてRyzenが登場した頃は、音楽関係のハードウェアとの互換性が未知数だったため、導入をためらう人も多かった。しかし、その後Ryzen環境でDAWを使う人は増え、一定の安定性が担保されることも分かってきた。

僕の環境においては、少なくとも以下のハードウェア製品は、Ryzen環境でも問題なく動作することが分かっている。

  • RMEのUSBオーディオインターフェイス
  • Roland INTEGRA-7

そのため音楽制作の作業も、全く問題なく行うことが可能だ。

ただし、RMEのオーディオインターフェイスに関しては、僕の環境ではUSBカードを増設しないと100%のパフォーマンスが発揮できなかった。もっとも、これはRyzenのせいではなく、僕の環境固有の現象(マザーボードのチップセットとの相性)である可能性が高い。根拠は以下2点。

  • IntelのCPUを使っていたときも、同じ現象に遭遇したことがあるから
  • 「AMD環境でRMEのオーディオインターフェイスが動かない」という致命的な現象は、海外のフォーラム等では報告されていないから

というわけで、「RyzenとRMEの相性問題が出ている」ということではないので安心してほしい。

ひとまずは、USBカードを増設することで、問題なくRMEのインターフェイスを使えている。Ryzen環境だからといってハードウェアが動かなくなる心配はなさそうだ。

※ちなみに、USBカードを増設することになった経緯の詳細は、下記の記事で紹介している。


【裏技】RMEのUSBオーディオインターフェイスの接続を安定させる方法

3. Intel環境と使用感に差はない

当たり前のことかもしれないが、同じWindows 10というOSを使っている以上、使い勝手に差が出ることはない。「長年Intelを使っているんだよなぁ」「AMDだと何か変わっちゃうのでは?」と心配しているユーザーもいるかもしれないので、一応書いておきたい。



その他の覚え書き

※このセクションは少しマニアックな話題なので、興味のない方は読み飛ばしてください。

IntelよりもPCの起動は遅い

Ryzen搭載のPCは、起動が遅い。正確には、マザーボードのロゴ(「ASUS」等)が表示されるまでに時間がかかる。

  • Intel Core i7のころ:ASUSのロゴが表示されるまで、7秒かかる
  • AMD Ryzen 9に移行後:ASUSのロゴが表示されるまで、25秒かかる

どうやら仕様みたい

この現象はAMDマザーボード特有の仕様のようだ。次の記事の情報は必見。

  • OSブートに入る前の時間が長すぎる

(中略)調べたところ、やはりAMDのユーザーコミュニティで問題視されていました。

出典:AMD Ryzen シリーズのブートが遅い件 - 脇見運転

価格.comのトピックでも、同様の話題が上がっている。

まあ、Ryzenは少し遅い感じですかね。あんまり気にはしてませんが

出典:価格.com - 『PCの起動が思ったより遅いので皆さんにお聞きした』 AMD Ryzen 7 3700X BOX のクチコミ掲示板

Twitterで検索しても、そういった報告がチラホラ見受けられる。 ⇒ 「Ryzen 起動 遅い」(Twitterの検索結果)

とはいえ、デスクトップPCを使うときは、電源を頻繁にオンオフするわけでもない。初回起動の遅さは問題にはならないと感じる。

RyzenでオススメのCPUを紹介

2020年10月現在、最もオススメできるRyzenのCPUは、この記事でも紹介した「Ryzen 9 3900X」だ。理由は以下の通り。

  • 他のRyzenよりもコストパフォーマンスに優れているから
  • どんなジャンルの音楽制作においても、スペック不足を感じることが無さそうだから
  • 少なくとも、3900Xの持つコア数(12コア)までなら、コアをフルで使えることが分かっているから
    • これ以上のコア数を持つCPUでも、コアを全部使いきれる可能性はあるにせよ、現状未確認なので

次にオススメなのが、3900Xのシングルスレッド性能を向上させた、「Ryzen 9 3900XT」だ。これは純粋に3900Xのパワーアップ版となっている。発売も2020年と、3900Xよりも新しいCPUだ。