家で歌ったり楽器の演奏をしたりする場合、「近隣の住民への音漏れ」のことを考える必要が出てくる。特に楽器の演奏家や、自宅録音をする作曲家やボーカリストにとっては、騒音問題は悩みのタネだ。
そんな問題を解決する方法の一つが、防音室(防音ブース)を導入することだ。防音室を導入すれば、手っ取り早く、家の中に「音を出せる空間」を作ることができる。楽器可物件に引っ越したり、部屋を防音工事したりする必要もない。
各メーカーが様々なタイプの防音室を発売している。今回は各種防音室を比較してみる。
目次
VERY-Q
概要
VERY-Q(ベリーク)は、「吸音素材でできた壁」を組み合わせて作られている防音室だ。
初代VERY-Qが発売されたのは、2010年末頃(僕調べ)。その頃はまだ、吸音に特価しているだけのブースだった。そして2013年8月頃、ユーザー待望の、遮音性能をパワーアップさせた「防音タイプ」のVERY-Qが新しく発売された。
型番的には、次のようになっている。
- 「VQ/HQ」シリーズ:吸音タイプ
- 「VQP/HQP」シリーズ:防音(+吸音)タイプ
なお、あまりアピールされていないが、VERY-Qは宮地楽器が展開している商品のようだ。
遮音性能は-18dB(吸音版)/-30dB(防音版)
VERY-Qの遮音性能は、-18dB(吸音タイプ)/-30dB(防音タイプ)となっている(1kHz以上の音で)。
ちなみに吸音タイプのほうはユーザーの方のレビューがあり、遮音性能はスペック通りといった様子だ。
-20db程度といったところでしょうか。
音場はデッド気味
VERY-Qは吸音パネルを組み合わせて作られているので、やはりデッドな響きになるようだ。ボーカル録音のブースとして使うのに向いているだろう。
パネルの下にケーブルを通せる
素材が柔らかいので、ケーブルをパネルの下に通すこともできる。
素材の布は柔らかくお部屋や機材を傷つけずケーブルをパネルの下に這わせることも可能です
確かに画像を見ても、底面パネルと側面パネルの隙間にマイクケーブルが通っていることが分かる。ケーブル用にわざわざ穴を開けたりしなくて済むのはありがたい。
ヤマハ セフィーネ(アビテックス)
概要
ヤマハの防音室は「アビテックス」という名称で商品展開されている。
※電子オルガンを「エレクトーン」、電子ピアノを「クラビノーバ」と呼ぶのに似ている。
そして、アビテックスの中でも、
- 定型タイプ(大きさが○畳と決まっている)
- 素材が不燃仕様ではない
これらの条件に当てはまるものが「セフィーネ」と名づけられていて、ヤマハの防音室の主力製品となっている。
遮音性能は-35dB or -40dB
遮音性能は、Dr-35、Dr-40の2つから選ぶことができる。他の防音室と比較すると、遮音性能は高い。
参考:ヤマハ | AMDB08H - ユニット 0.8畳、1.2畳、1.5畳 - 特長
音響は自然な響き
セフィーネは楽器の音が心地よく響くような、自然な音場をしているようだ。※オプションでデッドな状態にすることもできるようだが。
というわけで、録音よりも練習に向いてそう。
エアコン付きは1.2畳から
0.8畳サイズはエアコンを取り付けることができません。
とのことで、1.2畳以上じゃないとエアコンは付けられない。夏場などは、防音室の中が暑くなりやすい。エアコン無しで長時間の使用を続ける場合は、こまめな換気が必要になってくる。
組み立て/解体は専門業者が行う
組み立てや解体は、専門業者が行う必要がある(ことになっている)。
防音部材は重量が重く、安全面及び遮音性への考慮から、解体組立は全て専門業者で作業させていただいております。組立に必要な器具又は資料のみのご提供はいたしかねますので、予めご了承ください。
また、解体費用・運搬費用もけっこう高い。
使用者の方の情報1。
ヤマハの防音室、アビテックス1.5畳タイプを解体撤去しました。(中略)費用・・・9万円(税込)
使用者の方の情報2。
ヤマハに解体・搬送・組立一式を依頼するパターンと解体・組立だけの2パターンの見積り依頼。(中略)一式依頼時は18万+税、解体・組み上げの依頼で9万+税
アビテックスを導入する際は、組み立て・解体の費用のことも考えておく必要があるだろう。「導入したはいいが、結局使わなくなった」という状況は避けたい。
ケーブル穴は無い
セフィーネには、「ケーブル用の穴」は空いていない。録音ブースとして防音室を使う場合、自分でケーブル穴を開ける必要がある。実際に穴を開けて使っている方もいるようだ。
レコーディング用に、配線を通す穴も開けてもらいました。
レンタルでアビテックスを使う場合、もちろん勝手に穴は開けられないので注意。ヤマハの音レントなどを利用予定の人は気をつけたい。
価格は高め
他の防音室に比べると、値段はだいぶ高め。遮音性がDr-35と高いことに加えて、ブース内部の調音もきちんと考えられており、本格的な仕様となっている。
ISOVOX ISOVOX 2
概要
「近所迷惑にならないよう、布団を被って歌ってました」。こんな下積みエピソードを語る歌手はよくいるが、このISOVOX社の「ISOVOX 2」はそんな状態を洗練させ、実用レベルまで高めた上で製品化してしまったようなユニークな商品だ。
ISOVOX 2は頭部のみを包むようなブースだ。中にマイクをセットできるので、ボーカル録音に使うことができる。軽い遮音と吸音を同時に実現しつつ、録音できる空間を作り出せるようになっている。
この製品は他のブースタイプの防音室とは違って、使用時はボーカリストの首から下の部分が外気に触れることになる。そのため、夏場のレコーディングなどでありがちな「ブースの中が暑くてしんどい」という状況を、ある程度解消できるようになっている。
ISOVOX 2はもちろんボーカル専用だが、「歌しか録らない」という人も多いので、意外と需要が高そうな商品だ。
遮音性能は-20~-30dB
サンレコの商品レビューによれば、遮音性能は-20~-30dBのようだ。
感覚で大体10~20dB程度、計測アプリを使ってみたところ20~30dB程度の音量差があることが分かりました。
また、海外の楽器店によると「最大で-35dB」という情報もある。
Practise and record professional vocals at home with up to -35 db in soundproofing
いずれも公式の数値ではないので信憑性は未知数だが、それなりに遮音性能はありそうな雰囲気だ。
※公式の製品紹介動画(YouTube)でも「近所迷惑を気にせずに歌えます」的なことを言っている。
余談だが、中田ヤスタカ氏もこの製品には関心を示しているようだ。
多分、今だったらISOVOX Isovox 2を使っていると思うんですよ。(中略)体は涼しいから、あのときにIsovox 2があったら買っていたと思いますね。
なお、別途PAスタンドが必要なので、予算に組み込むのを忘れずに。
だんぼっち
概要
だんぼっちは、ダンボール製の簡易的な防音室だ。「歌唱動画をニコニコ動画に投稿する」という、いわゆる「歌ってみた文化」の需要から誕生し、製品化されたという経緯がある。
開発はメーカー主導ではなく、有志の人のようだ。自作防音室を元に、ダンボールメーカーの協力を得て、商品レベルに改良されていった。そんな経緯があるからか、他の防音室に比べて安価に手に入れることができる。
遮音性能は-30dB(公称)
遮音性は500Hzの帯域で、-30dB程度。カタログスペック上は、意外にもしっかりした防音性能を誇っているようだ。
(参考):だんぼっち 特徴
ただ、Amazonレビューを見る限りだと「音が漏れる」という報告も多く、実際に「VERY-Qの防音タイプ並の防音性能」があるかどうかは分からない。
また、ダンボール製なので、音響特性はそこまで考えられているわけではない。吸音などは自分で行う必要がありそうだ。
※専用の吸音材(「だんぼっち専用公式吸音材」)も売られている。
インフィストデザイン ライトルーム
概要
ライトルームは、布製の簡易吸音ルームだ。
キャンプで使うようなテントみたいな形になっていて、ファスナーを開けて人が中に入るような構造になっている。吸音・防音性能をアップさせた「ライトルームプラス」もある。
遮音性能は-15dB
遮音性能は、「ライトルーム」「ライトルームプラス」ともに、「Dr-15」程度のようだ。※公式サイト掲載の画像より。
ソファで使われるような布の生地で出来ているということもあって、遮音性能はそこまで高くはない。あくまでも簡易的なブースという印象だ。
結局どれがいいのか?
用途次第だが、大まかな方針としては、次のような選択をするとよいだろう。
- 録音用のブースとして使う:VERY-Q or ISOVOX 2
- 楽器の演奏家が練習に使う:セフィーネ(アビテックス)
- 予算を低く抑えたい:だんぼっち or ライトルーム
セフィーネは響きがあるので、気持ちよく楽器を演奏するのに良い。一方で、VERY-Qは響きの少ない空間になるので、録音に使うのに向いているだろう。ボーカル録音にしか使わないのであれば、ISOVOX 2がベストだ。
僕の用途としては録音で使うことが多いので、VERY-Qの防音タイプがファーストチョイスになりそうだ。総合的に考えて、今回紹介した中では一番オススメできる商品だ。