Ivory II Studio Grandsを使って、曲を10曲ほど完成させた。ようやく音源の特性がつかめてきたので、レビュー記事を書いてみます。
目次
Ivory II Studio Grandsとは?
「名作音源」と名高い、ベストセラー・ピアノ音源のIvory II Grand Pianos。これを生み出したSynthogy社が贈る、より新しいIvoryが、このIvory II Studio Grandsだ。
良いところ
音がリアル
Ivory II Studio Grandsも、前作同様、本物のグランドピアノから丁寧なサンプリングが行われている。サンプルの組み込みも相変わらず丁寧で、演奏する鍵盤によって音量が変わるようなこともない。ピアノ音源としての完成度は高い。
サンプルの容量が豊富
Ivory II Grand Pianosでもベロシティレイヤーは18段階と、強弱を表現するのに十分な豊富さだった。Studio Grandsではそれを上回る水準の、24段階のベロシティレイヤーによって音源が構成されている。より繊細な表現が可能になっている。
イマイチなところ
実はこのIvory II Studio Grands、万人にオススメできるタイプのピアノ音源ではない。国内のレビュー記事では高く評価されていることが多いが、購入前にじっくり検討することをオススメしたい。
ピーク成分が多い
Ivory II Studio Grandsの最大の難所はコレ。
普通に和音を演奏しただけでも、320Hz等の膨らみが発生してしまうので、EQでカットする必要がある。
膨らみが発生する帯域は、演奏内容によっても変わってくる。EQ処理が苦手な人にとっては、やや扱うのが難しい音源となっている。
ミックスが大変
ピーク成分が多いということは、ミックスも大変になるということだ。バランスの良いミックスに仕上げるためには、根気よくEQでカット処理をする必要がある。
次の画像は、Studio Grands収録のスタインウェイのピアノに対する、ある日のEQの様子。
合計6箇所に、EQによるカット処理をしている。ちなみにEQの前には、oeksound soothe2を挿している。soothe2の助けを借りてピークを抑制しても、このくらい本格的なEQ処理が必要になるケースもある。
【レビュー】oeksound soothe2は超優秀なピーク抑制ツール。まごうことなき神プラグインです
音の特徴
中低域の成分が多い
古い音源である、Ivory II Grand Pianosのスタインウェイは、フォルテで演奏すると「パリーン!」という気持ちの良い高域が出てくれる。バンドアンサンブルの中での音抜けも良い。
一方でStudio Grandsのスタインウェイは中低域に寄った音質のため、EQ処理をしなければ音が抜けて来ない。そのため、僕は最初「ベロシティカーブの最適設定が変わったせいでフォルテ以上のサンプルが鳴っていないのか?」と勘違いしてしまった。
実際は、フォルテのサンプルが鳴っているのに、中低域のピーク成分が多いせいでイマイチ抜けてこない状態になっているのだ。Ivory II Studio Grandsの音抜けの悪さは、音を強く鳴らすことによってではなく、EQ処理によって解決する必要がある。
もっとも、この豊かな中低域の成分というのは、ジャンル次第でかえって良い存在感となることもある。例えばジャズのピアノトリオ。バンド内でピアノを演奏する場合、左手でコード、右手でテンションを演奏し、低域のルート音を演奏しないというスタイルを取ることが多い。そういった演奏ではローミッドの積み重なりが緩和されるので、ノンEQでも良い感じになってくれる。
Ivory II Grand Pianosとの比較(音源あり)
Ivory II Grand Pianosと、今回紹介しているIvory II Studio Grands。いずれのパッケージにも、スタインウェイのピアノが収録されている。ここでは音の違いについて、音源を交えて比較してみたい。
R&B風のデモを作ってみた。公式サイトにはクラシックやジャズのデモが多いので、ポップミュージックでの運用を考えている人の参考になればと思う。
比較テスト1(2mix)
ドラムループと合わせた完成形の音源を聞いてみる。Grand Pianosのほうが、音は固い。Studio GrandsのほうはEQでだいぶハイ寄りの音に調整しているが、それでも音のキャラには温かさがあると感じる。
Ivory II Grand Pianos(2mix)
Ivory II Studio Grands(2mix)
比較テスト2(ソロ)
ソロで鳴らした状態で聴いてみる。
Ivory II Grand Pianos(ソロ)
Ivory II Studio Grands(ソロ)
比較テスト3(2mix・エフェクト処理なし)
ドラムループと合わせた状態で、ピアノに掛かっているEQとコンプを外して聴いてみる。
Ivory II Grand Pianos(2mix・FXなし)
Ivory II Studio Grands(2mix・FXなし)
Grand Pianosはさほど変化がないけど、Studio Grandsのほうは中低域が激しくモコモコしていることが分かるはず。それだけEQによるカット処理の度合いが大きいということだ。
比較テスト4(ソロ・エフェクト処理なし)
最後に、エフェクトなしでピアノのみをソロで鳴らして聴いてみよう。
Ivory II Grand Pianos(ソロ・FXなし)
Ivory II Studio Grands(ソロ・FXなし)
やはりStudio Grandsのほうは、中低域が激しくモコモコしている。
参考:海外のレビュー評価は低い
日本ではあまり見かけないのだが、海外で当製品の評判を調べてみると、なかなかにネガティブな意見が目立つ。
- ひどいサンプルの音だ
- 失望した
などと、手厳しい評価が散見される。
考察:海外レビューの評価が低い理由
ただし、これらの評価も、決して間違った感想ではないと僕は考える。これはひとえに、前述の「ピーク成分の多さ」がもたらす「ミックスの大変さ」がまねいた評価だと思う。仮に完璧な録音によって音源が作られていれば、EQ補正は最小限で済むはず。ユーザーにとって、手間が増える状況になっていることに違いはない。
Studio GrandsとGrand Pianosどっちがいい?
Ivory II Studio Grandsは、正直にいうと、初心者にオススメできる音源ではない。理由は前述の通り、ミックスが難しいからだ。
だけど、上手く使いこなすことができれば、Ivory II Grand Pianos以上にリアルで上質なピアノトラックを得ることができる。もしIvory II Studio Grandsを導入するのであれば、
- ミックスのスキル
- 適切なEQ処理ができるプラグイン
- ミックスに費やす根気
を携えておきたい。
ミックスで苦労したくない人や、そもそもミックスが苦手だという人は、Ivory II Grand Pianosを買ったほうが無難だと思う。