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Superior Drummer 3とは?
Superior Drummer 3は、Toontrack社から発売されているドラム音源だ。大容量でリアルな音を出せる類のドラム音源だ。
僕がこの音源を導入してから、2年ほど経つ。僕はこの音源を使って、すでに50曲を超える作品を完成させてきている。音源の使い勝手も分かってきたこのタイミングで、レビューをしてみたい。
Superior Drummer 3の良いところ
1. 音が良い
Superior Drummer 3の長所は、音がリアルなところだ。まるで生のドラムを録音したかのようなリアルなドラムトラックは、あなたの楽曲を表現する上で大きな力になってくれるだろう。
ここでは、Superior Drummer 3の音色がリアルな理由を2つ挙げてみたい。
理由1. アンビエンスマイクの豊かな音色
Superior Drummer 3の音が良い理由は、アンビエンスマイクの音色が豊かだからだと、僕は考えている。
スネアやキックの近くに立てたオンマイクの音色は、BFD3以前の従来のドラム音源でも十分リアルだった。しかし、容量の関係でアンビエンスマイクの音色をを充実させるのは難しかった。
Superior Drummer 3には、(通常の楽曲制作で使わないような)サラウンドのマイクも収録されている。しかし、それらを除去したとしても、ライブラリの容量には大きな差がある。
音源名 | ライブラリの容量 | 発売日 |
---|---|---|
Superior Drummer 3 | 140GB(圧縮時) | 2017年8月 |
BFD3 | 55GB(圧縮時) | 2013年9月 |
※Superior Drummer 3のライブラリはBasic Sound Library(40GB)+Room Mics 1(46GB)+Additional Bleed(54GB)の合計値で計算している。
(参考) Superior Drummer 3 | Sonicwire
同じ演奏内容で比較してみよう。シンプルな8ビートのパターンを用意してみた。どちらの音源もできるだけ良い感じになるように、EQ・コンプ・リバーブを掛けている。
▼Superior Drummer 3。
▼BFD3。
※どちらのドラム音源も、パーツは全て標準ライブラリのものを使用している。
ドラムセット全体の空気感はSuperior Drummer 3の方が断然優れている。そのため、今回のデモ音源作成にあたっては、BFD3ではかなりリバーブを掛けないと厳しかったが、Superior Drummer 3ではそれほどリバーブを掛けなくて済むという結果になった。
僕自身、メインのドラム音源をSuperior Drummer 3に切り替えてからというもの、スネアやキックに対して外部のリバーブを掛けて、空間を作る手間から解放されたと感じている。これはアンビエンスマイクの音のクオリティが高いおかげだ。
「優れた部屋の響き」があれば、リバーブに頼る必要はない。Superior Drummer 3はそんな事実を認識させてくれるドラム音源でもある。
参考までに、アンビエンスマイクの音だけを聴いてみよう。
▼Superior Drummer 3のアンビエンスマイクの音。
▼BFD3のアンビエンスマイクの音。
Superior Drummer 3のアンビエンスマイクの音からは、部屋の響きがハッキリと分かるような、心地よいルーム感が得られている。一方でBFDの方は、アンビエンスマイクの音であるにも関わらず、結構ドライな雰囲気だ。これは収録された部屋や、マイクの距離の違いに起因する結果だといえる。
理由2. ドラムセットの空間表現を大事にした設計
Superior Drummer 3をしばらく使っていると、ある一つの事実に気づく。それは、「ドラムセットを構成する全てのパーツは、同じ部屋で録音されたものである」というルールに従って、音が鳴らされる仕様になっているということだ。これがドラムの音色のリアリティに繋がっているのではないかと僕は考えている。
他の音源ではこれが厳密に守られていないこともある。たとえばBFD3であれば、ハイハットはBFD3の標準ライブラリを使い、スネアだけBFDの拡張ライブラリである「Joe Barresi Evil Drums」のサンプルを選ぶようなことも可能だ。
このBFD3の仕様は、サンプル選びの柔軟性を上げる一方で、アンビエンスマイクやオーバーヘッドマイクのリアリティが犠牲になる。なぜなら、別の部屋で録音したサンプルが混在することになるため、「ドラムセットの一体感」という情報が欠落してしまうからだ。
※BFD3は同じ標準ライブラリであっても、パーツによっては一部のアンビエンスマイクの音が欠落しているなど、何かと一貫性に欠けるところがある。
一方でSuperior Drummer 3は、ライブラリを混在させてドラムセットを構築することは出来ない。
この制約のお陰で、オーバーヘッドマイクやアンビエンスマイクに収録されている音色は、とてもリアルなものとなっている。
2. パーツの選択肢が豊富
Superior Drummer 3の標準ライブラリには、数多くのパーツが収録されている。スネアで考えてみると、ポップスに使えそうなスネアだけでも、20個以上収録されている。パーツ選択の自由度はかなり高い印象だ。
Superior Drummer 3のスネアのうち、スティックで叩かれているもの。26個も収録されている。
一方BFD3では、スネアを含めどのパーツも収録数は少なめ。
BFDのスネア。スナッピーONのスティック音色で数えれば、収録数は実質7個だ。
とりわけ、ポップスで使えそうな雰囲気のスネアは、3~4個くらいだと感じる。僕がBFD3をよく使っていた頃は、「BFDは拡張なしだとキツい」というのが半ば定説だった。それは収録パーツの少なさが要因だ。
パーツの選択肢が豊富なSuperior Drummer 3なら、安心して楽曲制作に使うことができる。
3. 十分なラウンドロビン/ベロシティレイヤー
Superior Drummer 3には、Randomize Hitsという機能が搭載されている(デフォルトで有効になっている)。これは俗に言う「ラウンドロビン」。同じパーツのバージョン違いのサンプルを鳴らすことができる機能だ。フィルインでスネアを連打しても、マシンガンのように機械的な音の羅列になることを避けられる。
サンプルのベロシティレイヤーも十分だ。これは説明するまでもないかもしれないが、
- 高いベロシティでMIDIを鳴らせば:強く叩いたサンプルが鳴る
- 低いベロシティでMIDIを鳴らせば:弱く叩いたサンプルが鳴る
という昨今の生ドラム音源には標準搭載されている機能だ。Superior Drummer 3も例外ではなく、ドラムの強弱表現を行う上で、十分なベロシティレイヤーが搭載されているといえる。
4. 拡張音源のラインナップが豊富
Superior Drummer 3の拡張音源(SDX)は豊富だ。毎年のようにクオリティの高い拡張音源がリリースされている。
- The Rock Foundry:ロック全般向け
- The Rooms of Hansa:美しいアンビエンスを持つポップ全般向け
- Death & Darkness:メタル全般向け
といった音源が個人的にはオススメ。
2010年代は、BFDとSuperior Drummerの両方のエンジンに対応した拡張音源がリリースされることも多かったが、今はSuperior Drummerの独壇場かもしれない。
Superior Drummer 3の注意点
1. 多少はミキシングの技術が求められる
録音した本物のドラムを楽曲の中で使用する場合、EQやコンプといったエフェクターを、適切に掛ける必要がある。
Superior Drummer 3も、どちらかといえば録音したままの、素の音に近い状態のドラム音源だ。音作りの幅が広い一方で、ユーザーにある程度のミキシング技術を求めて来る音源でもある。
たとえばキックなどは、マイクで拾った音だけだと中域に音が寄っているので、高域と低域をブーストして、中域をカットするようなEQが施されることが多い。
一部のドラム音源(Addictive Drums、Steven Slate Drums 5等)では、このEQやコンプの処理ががあらかじめ適度に行われており、使いやすい音色になっている。一方でSuperior Drummer 3はそういう音源ではない。
もちろんエフェクト処理済みのプリセットもSuperior Drummer 3には多数収録されてはいるのだが、本気で良い音を出そうと思うなら、そういうのに頼らずに各パーツを個別に出力させてDAW上で個別にエフェクトを掛けるべきだ。
Superior Drummer 3に限ったことではないが、ドラムを良い音で鳴らすには、ミキシングの技術は不可欠だ。音源の導入を機に、ミキシングのやり方を学んでみるのもよいだろう。
2. パーツを差し替えてもトーンが似ている
豊富なパーツが含まれると書いたが、それらの出音(トーン)の方向性はけっこう似ている……というのが、Superior Drummer 3の特徴でもある。
たとえばスネアを何種類か聴いてみると、別のスネアを選んでも、トーンの一貫性のようなものを感じる。音源を収録した際、同じ人間(ドラマー)が楽器を叩いているのかもしれない。
Superior Drummer 3の標準ライブラリは、どんな音楽にも合いそうな、汎用性の高い叩き方がされている印象だ。
もしあなたがパワーヒッター、要は「スティックを握り込んでリムショットをぶっ叩くような人」の音色が必要な場合は、別のロック系拡張ライブラリを探したほうが早いかもしれない。
とはいえ、Superior Drummer 3の標準ライブラリは、ロックやメタルといった激しい音楽でももちろん使えるし、そういった方向性のプリセットも多数用意されている。
その他の情報
ジョージ・マッセンバーグが開発に関与
Superior Drummer 3の開発には、ジョージ・マッセンバーグが携わっている。Earth, Wind & FireやTOTOといった有名なバンドを手掛けてきた巨匠エンジニアだ。
彼は「MISIA - Everything」(YouTube)のミックスを手掛けてもいる。冨田ラボ氏のリアルなドラム・プログラミングをさらに生っぽく聴かせるミキシングは、印象的な仕事の一つともいえるだろう。
※冨田氏とマッセンバーグの当時のエピソードは、Musicmanのサイトに掲載されていて読み応えがある(見出し8)。⇒ https://www.musicman.co.jp/interview/19706
Superior Drummer 3には、マッセンバーグによって作られたプリセットもいくつか収録されている。設定を覗いてみると、ドラムの音作りの勉強にもなるだろう。
インストール先はSSD推奨
ドラムセットをロードするために必要な時間は、Addictive DrumsやSSD5はもちろん、BFD3と比べても長い。他のドラム音源よりも大容量なのだから、これは当たり前のことだ。
今の時代SSD環境じゃない人は少ないかもしれないが、もしHDDを使っているのであれば、Superior Drummer 3のライブラリはSSDにインストールすることを推奨したい。
僕はSATA接続のSSDを使っているが、ドラムセットの音色を切り替えるために必要な時間は2~3秒程度だ。
おわりに
僕は2010年代は、Addictive Drums、BFD3、Steven Slate Drums 5といったドラム音源を主に使っていた。2020年頃になってSuperior Drummer 3を導入したのだが、これまで使ってきたドラム音源と比べて、一段とリアルで音の良いドラム音源であると率直に感じている。
Superior Drummer 3は少し高価だが、その価格に見合っただけの働きは十分に期待できる。生ドラムの良い音が欲しい人には、間違いなくオススメできる音源だ。