前回は4リズムの楽器について、アレンジのアイディアをまとめた。今回はシンセ、オルガン、ストリングス、ブラス、オーケストラ系楽器、パーカッション。「上もの」と呼ばれる類の楽器について記事を書く。今回も前回同様、各楽器の音色と奏法をまとめることで、アレンジの助けになるような記事を目指していく。
目次
シンセ(和音)
パッド系
持続するタイプの音色だ。アタック感が少なく、音の立ち上がりはゆったりとしている。
主に和音を白玉で演奏するのに使われる。コード感を補える、オケが埋まるという特性から、ボップスで使われることは非常に多い。音色的には、高域を抑えたものから、フィルターを開いた明るいものまで幅広い。
徐々にフィルターが開いていくようなパッドや、フィルターが閉じていくようなパッド(例:「Puppy love/Perfume」)も定番。こういった「スウィープ系のパッド」はフィルターのレゾナンスを少し上げ、フィルターエンベロープを設定することで作れる。
なお、PCMのハードシンセの中には、アナログシンセでは出せないような質感のパッドもある(Roland JD-800、D-50等)。きらびやかな成分を持ちながらも、うるさくない出音というのは、ハードシンセのパッドの特徴かもしれない。
パッドの音は当然どんなシンセでも作ることが可能だが、やはりSpectrasonics Omnisphereは最もシンセパッドに向いているソフトシンセだろう。上記JD-800等のハードシンセをサンプリングした音色も入っているため、非常に幅広いサウンドを得ることが可能だ。
Pluck系
アタック感のある、音価の短い音。主にコードを刻むのに使われる。フィルターのカットオフがすばやく閉じるようにエンベロープを設定することで、アタック感が作られている。
元はプログレッシブ・ハウスで多用されてきた音色だが、現在の多くのEDMで定番となるサウンドだろう。アタック感のある音色なので、ポップスのアレンジで脇役的に登場することも多い。
ブラス系
「明るい音色のシンセパッド」とやや区別が曖昧だが、ここでは「高域まで伸びた明るい音色で、アタック感のあるシンセ和音」を、「ブラス系」と定義する。Super Saw、シンセブラスなどが該当する。
音色が派手なのでオケが埋まってくれるし、また歯切れのよい音色でもあるので刻むとリズムも出てくれる。オケを占領する割合が多くなりがちな音色なので、曲が求めるサウンドに上手く合っているかを考えて使いたいところだ。
シンセ波形的には、Supersawや、デチューンしたノコギリ波の音色がよく使われる。なお、EDM系の音楽では、こういった音にサイドチェインコンプを掛けてダッキングさせるのが定番だ。また、オシレーターへのピッチ下降でアタック音を付け、さらにビブラートをかけると、往年のユーロビートで使われたようなサウンドになる。
ベル系
アタック感がある、発音してすぐ減衰が始まる、長いサステインを持つ…といった特徴がある音色だ。高域で何かしらの旋律を奏でることが多い。シーケンスフレーズとして使うのもよい。
なお、J-POPによく出てくるような、きらびやかでデフォルメ感のあるシンセベルの音色は、PCMのハードシンセの音を使うのが手っ取り早い(色々音がレイヤーされているので、普通の減算式シンセだけでは再現が難しかったりする)。Roland INTEGRA-7など、Rolandのハードシンセがオススメだ。
シンセ(単音)
シンセリード
単音で、太く伸び、持続するという性質をもつ音色だ。必要に応じてポルタメントを設定すると良い。主旋律に使ってもいいし、オブリ的に使うのも良い。シーケンスフレーズを鳴らしても良い。高速アルペジオで効果音的に使っても良い。
ノコギリ波(Saw)
やはりノコギリ波は最もポピュラーな音色だろう。デチューンして音を重ねることで広がりが出せる。
Supersaw系
デチューンして重ねる数を多く(8個くらい)することで、より派手な音色になってくれる。
矩形波(Square)
矩形波には「偶数倍音が含まれていない」という特徴がある(クラリネットと同じような特性)。デチューンして鳴らすと独特の透明感が出て良い。
三角波(Triangle)/サイン波
倍音が少ないので、柔らかく聴かせることができる音色だ。R&Bの曲などで多用されている。ポップスの曲でも、しっとりと聴かせたい場合などに有効。
シーケンス音
シンセリードとの区別がややあいまいだが、「音価が短い音色で演奏されているもの」と定義する。波形的には、ノコギリ波や矩形波(or それらをデチューンしたもの)、Supersawがよく使われる。
フィルターのカットオフをフレーズの最中に動かしたり、各種モジュレーションエフェクトを掛けて音色に変化を付けるのも良い。
シンセ(効果音)
Riser/Falls
シンセリードの音を用意し、そのピッチが少しずつ上がっていく(下がっていく)ように設定すればOK(エンベロープをピッチに掛ける)。Riserのほうははリズミックに刻むのも良い。LFOでピッチやカットオフを揺らしてエフェクティブにするのも定番テクニックだ。
EDM的な効果音のイメージが強いかもしれないが、大人しめの音色に調整し、ファンタジックな雰囲気に仕上げるのも良い。
ノイズスウィープ系
ホワイトノイズを用意し、フィルターのレゾナンスを上げた状態でカットオフを上昇/下降させればOK(エンベロープを、カットオフに掛けて設定する)。
セクションの頭では下降系の音がよく使われる。EDMでいうビルドアップのところでは、上昇系の音が使われることが多い。
ダンスミュージックに限らず、幅広いジャンルのポップスで使える汎用性の高い効果音だ。
Wobble Bass
元はダブステップで使われている音色だ。ポップスでは効果音的に使われることが多いので、このカテゴリで紹介する。
シンセベースの音を用意し、LFOでカットオフ等のパラメーターを揺らすことで再現できる。デチューンを多めに設定することができ、派手な音が出るシンセだとカッコよく仕上げやすい。やはりNI Massiveあたりのシンセが適任だろう。
Native Instruments KOMPLETE 11
SE(効果音)のアイディア
- リリースの長いクラップ(リバーブを掛けて作ってもOK)
- リバーブを掛けたキック(トランスっぽい音色)
- リバースシンバル(サビ前の盛り上げに)
- 曲全体にフィルターを掛けて開閉(DJ的な演出)
- サンプルの再生速度を徐々に遅くする(DJ的な効果)
- 波形を切り貼りし、Glitch/Stutter的な効果を出す
- グラスの割れる音
- 時計の針の音
オルガン(ハモンド)
ドローバーのセッティングによって音(倍音の鳴り方)が変わるので、出したいサウンドに合わせて調整しよう。また、どれだけ歪ませるかもポイント。ロックでは派手に歪ませて、ギターに負けないような激しい音にすることも多い。
白玉
オルガンは持続する音なので、白玉でコードを補うことが多い。
刻み
オルガンはリリースが短い音でもあるので、休符を生かしてリズミカルに刻むのも良い。パーカッションスイッチをONにするとアタック音が得られるので、パーカッシブに刻むこともできる。適宜ゴーストノートを入れると効果的。
アルペジオ
アルペジオで演奏するのも良い。往年のハードロックでよく使われた。
グリッサンド
グリッサンドもオルガンらしい奏法のひとつだ。エクスプレッションペダルを上手く使って強弱をつけるとよい。黒鍵と白鍵をまとめてグリッサンドすると激しい音にできる(手のひらでやる)。
レスリーのslow/fast切り替え
ロングトーンの最中などに、レスリーの速度を切り替えるのは定番テクニック。
ストリングス
ポップスのストリングスアレンジでは、1stバイオリン、2ndバイオリン、ビオラ、チェロの4パートでアレンジするのが一般的だ。
カウンターメロディ(裏メロ)
カウンターメロディを演奏するのは、ポップスにおけるストリングスの大きな役割の一つだろう。主旋律を引き立てるような、グッと来る裏メロを考えたい。
カウンターメロディは1stバイオリンが担当することが多い。ポップスのアレンジにおいては、2ndバイオリンとユニゾン(or オクターブユニゾン)になることも多い。
駆け上がり
駆け上がりは、クラシックの頃から長らくストリングスの得意技であり続けた。ポップスでも頻繁に出てくる奏法だ。1stバイオリンと、2ndバイオリンのオクターブユニゾンで行うことが多い(ハモることもある)。迫力を出したいときなどは、ヴィオラやチェロが参加することもある。
刻みの役割
アタック感のある音色でスタッカート気味に刻むのも、ロックやポップスではよく出てくる奏法だ。曲に躍動感が出てくれることうけあい。
「トップのラインをペダルポイント的に固定して刻む」のはポップスでは定番のフレーズだ。もちろん4声で和音を刻んでもOK。
パッドの役割
白玉でふわっとコードを鳴らすのもストリングスの得意分野だ。4つのパートでコードの構成音を補うようにすると良い。なお、パッドの役割といえども、もちろんシンセパッドとは違って、各声部を適切に動かすのがとても大事。
テンションコードを鳴らすときなどは、ディビジで声部を増やすのも効果的。各声部の連結が美しくなるよう、和声的に充実させるといっそう良い響きになる。
ピチカート
弓ではなく、指で弦を弾いて音を出す奏法だ。あまり音量は稼げないので、比較的静かな場面で使うことも多い。柔らかい雰囲気のポップスにもよく合う音色だ。
トレモロ
高速で同じ音を繰り返し鳴らす奏法だ。音量を自由に変えられるという弦楽器の特性上、クレッシェンドやデクレッシェンドと一緒に使うと非常に効果的。
トリル
半音 or 全音の関係にある2音を、交互に素早く鳴らす奏法だ。ストリングスのトリルは、複数人で演奏するという性質上、微妙なタイミングのズレによって広がりのあるサウンドになる。
フォール
音を出して、即座に弦を押さえる位置を動かし、ピッチを下げる奏法。アシッドジャズ、ディスコといった音楽でよく使われる奏法だ。
Audiobro LA SCORING STRINGS 2.5
ブラス
ポップスでは主に、ファンク的なアプローチをする場合に登場する。トランペット、サックス、トロンボーンでセクションを構成することが多い。定番の奏法は意外と決まっている。
刻み
休符を効果的に使い、音を歯切れよく刻む。ブラスではこの演奏スタイルが基本となるだろう。16ビートの場合、16分のフレーズを効果的にいれるとよい。
3声で和音を鳴らす場合と、オクターブユニゾンで単音を鳴らす場合がある。演奏したいフレーズに合わせて、適切に切り替えるとよい。
フォール(グリスダウン)/グリスアップ
4分程度の長さのフォールは定番フレーズだ。フォールほどではないが、グリスアップもまれに登場する。
フォルテピアノ&クレッシェンド
音を出してすぐに弱くし、クレッシェンドしていく。これもブラスらしい奏法といえる。
グロウル
サックスで行うテクニック(主にテナーサックス)。歪んだような音色になるので、ロックやブルースにもよく合う。ソロパートで使うと効果的。
シェイク
3度程度の広めの間隔でトリルを行う奏法だ。トランペットがソロになるときに使うと効果的。
その他のオーケストラ系楽器
ハープ
美しくファンタジックな響きの楽器なので、バラードを中心としたキレイめな曲で登場することが多い。
やはりグリッサンドがハープの必殺技といえるだろう。基本的な音階は「ドレミファソラシ」だが、7つの音は、それぞれ半音上 or 半音下に変更可能。これにより、色々な音階を鳴らすことが可能になる。コードに合わせて、適切にスケールを決定しよう。なお、楽器の性質上、クロマティックスケールは演奏不可能なので注意。
アルペジオを鳴らすのも良い。
グロッケン
意外とポップスで出番が多いのがグロッケン。弦など、他の楽器の旋律を補強するのに使われることが多い。
ビブラフォン
ポップスでもまれに登場する。かわいいらしい雰囲気の音色なので、そういった曲調によく合う。
ティンパニ
ポップスでもまれに登場する。ロールでクレッシェンドさせて盛り上げるのが定番の奏法。
チェンバロ
鳴らすだけでバロック音楽っぽい雰囲気が出てくれる楽器だ。耽美的な雰囲気を狙いたいときにもよい。
パーカッション
チューブラーベル
「の○自慢」の鐘で使われる楽器だ。荘厳でゴージャスな雰囲気を出すことができる。
スレイベル
クリスマスソングで非常によく登場する楽器だ。R&B系楽曲でもしばし使われる。
ウィンドチャイム
多くの音楽にマッチするため、非常に重宝する楽器。キラキラした音色で、場面転換を印象づけることができる。
シェイカー
本来は振ってビートを刻む楽器だが、単発の音をサンプリング的に鳴らすことも多い。R&B系楽曲でもしばし使われる。
トライアングル
ミュート/オープンを使い分ける。R&B系楽曲でもしばし使われる。
カスタネット
フラメンコなサウンドの楽器だが、アイドルポップスでもよく出てくる。
ティンバレス
ポップスでもまれに登場する。ラテンっぽい雰囲気を出すのに最適。
スティールパン
鳴らすだけで南国の夏を感じられる楽器だ。スティールパンは音程のある楽器なので、メロディを演奏することができる。
サンバホイッスル
その名の通り、サンバの演奏で使われる楽器だ。こちらも夏っぽい曲によく合う。
おわりに
2回に分けて、ポップスのアレンジに登場する楽器の記事を書いた。こうしてまとめてみると、本当に数多くの楽器、奏法があることがわかる。音楽のスタイルは日々進化し変わっていくが、使われる楽器は普遍的なものであることも多い。今回の記事をぜひ音楽制作の役に立ててもらえればと思う。