ポップスにはあらゆるジャンルの音楽のエッセンスが取り込まれている。聴きやすい音楽性とは対象的に、実はアレンジの難易度はかなり高い。
そこで、これから2回に渡って、各楽器ごとに定番の奏法をまとめて、アレンジの助けになるような記事を書いてみることにした。今回はドラム、ベース、ピアノ(エレピ)、ギター。いわゆる4リズムと呼ばれる楽器を取り扱っている。
もっとも、この記事を読んだところでアレンジという高度な作業が、急にスラスラできるようにはならないだろう。ただ、「何か音を足したいけど、思いつかない……」そんなときにこの記事を眺めてみて、突破口を見つけるきっかけにしてもらえればと思う。
目次
ドラム
ドラムはアレンジの骨格となる重要なパート。アレンジ作業の初期段階で、大枠を決めてしまうのが望ましい。リズムは奥が深い領域なので簡潔にまとめるのも難しいが、使用頻度の多い例をまとめている。
音色について
生ドラム系 or ドラムマシン系(TR-909やサンプリング音源など)のどちらかに分かれる。ロックなら生ドラムが使われるし、ダンスミュージックならドラムマシン系の音色になることが多い。
もちろん、両者の音色が混在することも多いし、フィルインのときだけ片方の音色を登場させることもよくある。また、セクションごとにリズム全体の音色が入れ替わる曲もある(例:「打上花火/DAOKO×米津玄師」)。
リズムの音色が曲にもたらす影響は非常に大きく、音楽ジャンルそのものを決めてしまうようなケースもある。各ジャンルのリズム音色を把握しておくと、ポップスの編曲にも役に立つはずだ。
リズムパターンについて
4つ打ち
ダンスミュージックの定番パターンだ。生ドラム系、ドラムマシン系、どちらでも使うことができる。元はテクノやハウス、ディスコといった音楽のリズムだが、今やアイドルポップスやロックバンドに至るまで、多くの音楽で使用されている。
4つ打ちでは、文字通り、キックを4分で鳴らす。あとはジャンル感が出せるように調整していけば良いだろう。裏拍にはオープンハイハットが入ることも多い。
EDM等のダンスミュージックでは、キックの鳴る位置で他のパート(ベース、シンセ等)にサイドチェインコンプをかけてダッキングさせるのも定番の手法だ。
8ビート
生系、ドラムマシン系、どちらでも使えるパターンだ。「ドンパンドンパン」というように、1・3拍目にキック、2・4拍目にスネアを鳴らす王道パターン。多くのポップスでこのパターンになっている。3拍目のキックは8分で2発連打したり、前後の裏拍にズレることも多い。
※「8ビート」は本来リズムパターンを指す言葉では無いのだが、今回は4つ打ちとの差別化をするために、このように紹介させてもらった。
16ビート
どちらかといえば、生系のリズムで組まれることが多いパターンだろう。ミディアムテンポのポップス全般で出てくる。またバラード曲はテンポが遅くなる関係上、このパターンに当てはまることが多い。
リズムの最小単位が16分音符になるため、16分の裏をどのように鳴らすかがポイントになってくる。16の裏にアクセントが来るものから、スネアのゴーストノートが軽く入る程度のものまで様々。曲に上手く合ったリズムを構築したいところだ。
なお、16ビートではリズムがハネる(スウィングする)ことも多々ある。どの程度ハネさせるかでノリが全く変わってくるので、気持ちいいグルーヴを追求したいところ。
R&B、HipHop、Trap系リズム
本来は別物だが、今回はまとめて紹介する。日本のポップスではそれほど出てこないかもしれないが、今のアメリカのヒットチャートでは主流となるパターンだ。
ドラムマシンの音色や、サンプリング音色を使うことが多い。BPMが比較的遅く(60~90台程度)、基本は16ビートだ。細かくハイハットを刻んだり、スネアの代わりにクラップやスナップを鳴らすことがある、といった特徴がある。シェイカーやトライアングル等のパーカッションも、リズムを構成する楽器としてよく使われる。
その他のリズムパターン
- ダブルタイムフィール:倍のテンポに感じさせるリズム。
例:「紅/X」「READY STEADY GO/L'Arc~en~Ciel」
- ハーフタイムフィール:半分のテンポに感じさせるリズム。
例:「恋/星野源(Bメロ)」
- アイドル系ハーフリズム:アイドルソングのBメロで頻出。
例:「ポニーテールとシュシュ/AKB48」「Love so sweet/嵐」
- マーチングビート:スネアのマーチングで引っ張るパターン。
例:「Beautiful/Superfly(サビ)」「Have a nice day/西野カナ(Aメロ)」「forbidden lover/L'Arc~en~Ciel」
- モータウンビート1:速いテンポのハネたリズムで、2小節目頭が食うのが特徴。
例:「You Can't Hurry Love/The Supremes」「Happiness/嵐」「歩いて帰ろう/斉藤和義」「Diamonds/PRINCESS PRINCESS」
- モータウンビート2:スネアを拍頭で4分打ちし、間にキックを挟む。
例:「星間飛行/中島愛」「ぐるぐるカーテン/乃木坂46」「HEAVEN'S DRIVE/L'Arc~en~Ciel」
生ドラム独自のアイディア
- スネアのゴーストノートを入れる
- ハイハットオープンを交える
- キメでフラムを入れて変化をつける
- スネアの代わりにクローズド・リムショットで軽快に(静かなとき限定)
- ここぞという場面で、ハイハットからライドシンバルに切り替え
- フィルインのときにタム回し
- ハイハットの代わりにフロアタムで刻み、ロックなビートに
打ち込みリズム独自のアイディア
- スネアやキックの波形を反転。元のスネアやキックにくっつけても、単独で鳴らしてもよい
- 32分音符等、細かいスネアの連打でフィルイン
- スネアのロール中にピッチを上げる(EDM定番フィル)
- ゴーストノートの専用のサンプルを小さく鳴らし、グルーヴを出す
- 64分音符程度の、細かいハイハット刻み(Trap定番サウンド)
エレキベース
ピック弾き、指弾き、スラップと主に3種類の演奏方法がある。ロック系の音楽など、アタック感が欲しいときはピック弾き、それ以外では指弾きになることが多い。スラップは特殊な奏法で、ファンク系のサウンドで使われることが多い。
グルーヴの要となるので、ドラム(特にバスドラム)との調和に常に気を配りたい。リズムがシンコペーションするときは、基本的にはベースも合わせること。コードチェンジする瞬間は、必ずルート音を鳴らすように。
8分ルート弾き
基本はこれ。ベースラインを動かすこともあるが、その際はコードトーンをつなぐような意識でフレーズを考える。1度と5度(しばし7度)を中心に組み立てるとベースらしいフレーズになる。経過音を使うのも効果的だ。
オクターブ
主にドラムがディスコパターンのときに使う。なお、シンセベースと違って、エレキベースで演奏するのは意外と大変。使いすぎ注意&速いテンポのときは注意(ベーシストの左手が疲れる)。
スラップ
ファンク系の音楽でよく使われる奏法だ。演奏フォームの関係上、ルート音のオクターブ演奏が基本になる。また、普段は指弾きで、アクセントのときにスラップ音を入れるのもしばし行われる。
白玉
静かなところでは、刻まずに白玉で伸ばすのも良い。落ちサビなどで出てくる、高音部の白玉フレーズは定番パターンだ。
シンセベース
シンセベースも現代の音楽には欠かせない音色だ。エレキベース同様、グルーヴの要となるので音色や音価にはこだわりたい。
シンセの波形は、ノコギリ波が使われることが多い。エレクトロなサウンドではパルス波も定番だ。Massive、Minimoogなど、太い音が出るシンセを使うとよい。
オクターブ
ルート音と、オクターブ上のルート音を交互に演奏するという、シンセベースの王道フレーズだ。やはり4つ打ちのリズムと相性がいい。フィルターを全開にして派手にしてもいいし、標準的な音色でもOK。
ルート弾き
8ビートの場合、もちろん8分を連打してもいいのだが、ところどころ休符を入れて演奏をすることも多い。他にも、4つ打ちのキックが鳴っている時、ベースを付点8分のリズムで鳴らすことで16ノリを出すのも定番パターンだ。
Funk系シンセベース
Moog系サウンドの定番音色。フィルターは絞り気味で、レゾナンスを適度に上げて表情を付ける。オシレーターを重ね、オクターブ上の音を足すのも効果的だ。
R&B系シンセベース
倍音の少ないサイン波や三角波が使われる。ベースラインをあまり動かさず、白玉主体で演奏されることが多い。
ピアノ
ポップスではピアノの登場頻度が高い。ぜひ使えるようにしておきたい楽器のひとつだ。
コードバッキング
右手で3~4音を押さえてコードを鳴らす。さらに、右手で刻むすき間に、左手のルート音を挟むのが基本スタイルだ。
音域について
- 中音域でのバッキング
右手を真ん中のド(C4)付近で鳴らす。基本的な演奏スタイルといえるだろう。例:「Let It Be/The Beatles」「カブトムシ/aiko」 - 高音域でのバッキング
右手をオクターブ上のド(C5)付近で鳴らす。音抜けが必要な場合や、繊細な雰囲気を演出する場合に有効。ギター等の中域を専有する楽器が多い場合、ピアノが高域を担当することで音域がぶつからなくなるメリットもある。例:「Rising Hope/LiSA」「GO FOR IT!!/西野カナ」「Beautiful/Superfly」「もしも運命の人がいるのなら/西野カナ」※ただ、ギターが中心のサウンドでも、ピアノは中音域を演奏するケースも多い。4リズムの楽器はそこまで音域をカッチリ分離しないことも多いので、音域の分担を緻密に構築するかどうかはケースバイケースで。
リズムについて
- 4分刻みバッキング
王道の伴奏スタイル。バラード曲を中心に、色々な場面で使いやすいパターンだ。例:「Yesterday Once More/Carpenters」「Let It Be/The Beatles」 - 付点4分系バッキング
「ターンターンタン」というような刻み方。テンポが速めの、疾走感のある曲で有効。例:「ドラマチック/YUKI」「プラチナ/坂本真綾」 - 8分刻みバッキング
ミディアムテンポの曲でたまに出てくる。ピアノの刻みで曲を引っ張るような雰囲気になる。例:「Hello, my friend/松任谷由実」「歓びの種/YUKI」 - 16系(付点8分系)バッキング
小室系サウンドで多用される。ハウス、ラテンの音楽がルーツとなるスタイルだ。例:「BOY MEETS GIRL/TRF」「硝子の少年/KinKi Kids」「Astrogation/水樹奈々」
アルペジオ
バラードや、静かなセクションで有効。また、他の楽器ですでにコードを補っているような場合、脇役としてピアノでアルペジオを重ねるのも効果的だ。
その他のテクニック
- グリッサンド(上昇系/下降系の2パターンあり)
- m3rd→M3rdへのスライド(コード演奏時。黒鍵→白鍵へ、指1本でスライドさせて演奏)
- 右手のオクターブ演奏でオブリ
- 和音のアルペジオ弾き(タララランと、コードを1音ずつずらして弾く。上昇系/下降系の2パターンあり)
Synthogy Ivory II Grand Pianos
エレピ
ローズ、ウーリッツァー、DX7系と、主に3つの代表的なサウンドがある。音色はそれぞれに個性があるが、奏法は比較的似ており、役割も「コード感を出す」といった部分が中心になってくる。
ローズ
中低域の成分が多く、包み込むような柔らかい音色が特徴。トレモロやコーラス、フェイザーといったエフェクトをかけて雰囲気を出すことが多い。高域成分が少ない分、ソウルフルでムーディな印象を出しやすくR&B/Soulの音楽で多用されてきた。
ウーリッツァー
コロコロとした独特のアタック音が特徴的。
DX7系
ファンタジックな音色で、きらびやかな高域が特徴。アコースティックピアノとDX7のエレピをレイヤーするのもよい → とたんに90年代風のサウンドになる(David Fosterがよくやる)。
エレキギター
ギターは、ポップスでは非常に出番の多い楽器。しかし、他の楽器と比べて奏法や音色が多いので、ギターを弾かない人にとっては、把握するのは結構大変。
音色によって大きく印象が変わるので、それを念頭に置いて演奏内容を把握しよう。
ブリッジミュートを交えた刻み
主にクランチ、オーバードライブ、ディストーションといった多少歪んだ音色で、低音域を演奏する。ロックギターの王道パターンだ。
和音とブリッジミュートした単音(ルート音)を切り替えて演奏することで、ギターらしいバッキングフレーズとなる。もちろん、和音をずっとストロークし続けてもいいし、ブリッジミュートしたルート音をずっと弾き続けても良い。
なお、ディストーション音色(激しい歪み)のときは、基本的にパワーコードで演奏するとよい(3度を入れると音が濁るので)。
ストローク
クランチ~オーバードライブ程度の、比較的浅めの歪みで演奏されることが多い。6本の弦すべてをジャカジャカと、かき鳴らすようなスタイルの演奏だ。最近(2000年~くらい)のロックバンドでは、上記の「ブリッジミュートを交えた刻み」よりも、こちらの奏法が使われることのほうが多い。
カッティング
カッティングはギターらしい奏法の一つといえるだろう。ブラッシング(※)の音が入るため、軽快なリズムを演出しやすい。
※弦に触れただけの状態でピッキングして、パーカッシブな音を出すこと。別名「空ピッキング」。
ここでは演奏内容別に紹介するが、もちろん演奏中に和音~単音~オクターブという風に切り替えても構わない(そういう演奏もかなり多い)。
和音のカッティング
コードを刻みつつ、間にブラッシングを交えてリズムを出す。これがカッティングの基本スタイルだ。ファンク系の演奏では、6弦全部鳴らすよりも、2~3本の弦を鳴らして演奏することが多いかもしれない。クリーントーンで演奏することが多いが、ロック系の音楽では歪んだ音で荒々しいカッティングをすることも。
単音カッティング
キーボードがすでにコードを補っている場合は、ギターはリズムを出すのに徹することも多い。そんなときに有効なのが単音カッティングだ。ブリッジミュートをかけて、サステインを抑えた音で演奏することも多い。
オクターブでカッティング
演奏の都合上、オクターブで音を鳴らすためには、ブラッシング音も必ず入る。自然とパーカッシブな音になってくれる奏法だ。オクターブで音を重ねる都合上、音が際立ちやすいので、バッキングというよりも、リフやオブリで使われることが多いかもしれない。
ワウのカッティング
チャカポコという独特のパーカッシブな音が特徴的。他のカッティング同様、コード音にブラッシングの音を交えて演奏する。ポップスのようにトラック数の多いジャンルでは、単音~2音程度を鳴らすことが多いかもしれない。
ブラッシングの音だけを1~2拍程度、サンプリング的に挟むのも定番パターンだ(ずっと演奏しっぱなしにせず、要所で挟む)。
アルペジオ・白玉
クリーン~クランチ程度の音色で演奏することが多い。コーラスやトレモロといったモジュレーション系エフェクトもよく使われる。
ブリッジミュート
音粒をハッキリさせるため、多少歪んだ音色で演奏することが多い。アタック感がありつつも、サステインの短い歯切れのよい音になるので、意外とアレンジで役立つ奏法だ。アルペジオでも、単音の刻みでもOK。
なお、ミュートしたフレーズに付点8分のディレイをかけるのは定番パターン(「U2ディレイ」などと呼んだりする)。
リードギター
純粋なギターソロというものは、昔と比べてすっかり影を潜めてしまった。しかし、他の楽器とのユニゾンなどでリードギターを使うことは、今でもよくある。オブリで使うのも良い。
Kemper Profiling Amplifier Black
アコースティックギター
ストローク
他のパートが多数入っている場合、アコギはストロークで演奏することが多い。アコギのストロークを入れると、オケ全体のアタック感やグルーヴ感が増す。また、他のパートにはあまり含まれていない超高域の成分を補えるというメリットもある。
なお、アコギのストロークは、ダブルで(2回録音して)左右に振り切るのが定番だ。
アルペジオ
静かな雰囲気の曲では、アルペジオも有効だ。ピック弾きと指弾きで音が変わるので、求めるサウンドに合わせて奏法を決めよう。
ガットギター
あまり使用頻度は多くないかもしれないが、R&B系の曲や、一時期流行ったボサノバ風アレンジでよく使われる。
アルペジオ
R&B系の曲で多用され、定番サウンドとなっている。また、ハウスミュージック等でもよく登場する。
おわりに
今回は4リズムについて記事を書いた。4リズムはアレンジの骨組みとなる部分なので、ここをしっかり作れれば、曲の躍動感も増すはずだ。