このブログでは、コード進行の分析記事をいくつか書いてきた。
では、一体何のためにそんな分析をするのか。今回はコード進行を分析するメリットについて書いていく。
目次
1. 音楽を深く理解できるようになる
コード進行を分析すると、音楽を深く理解できるようになる。
音楽のジャンルによって、よく使われるコードやコード進行には特徴がある。ジャズならメジャーセブンスなどの4和音や、テンションコードが多用される。ロックなら3度を抜いた和音(パワーコード)がよく出てくる。ブルースのコード進行はスリーコードで構成されることが多い。多くの曲を分析することで、こういった傾向が見えてくる。
さらに、ジャンルごとの傾向が分かってくると、
- ロックのリズムなのに、ジャズっぽい和音を使っている
- メタルっぽいサウンドなのに、クラシカルな和声をしている
このように定番のパターンからから外れたサウンドを聴いたとき、その"外し"に気づくこともできるだろう。コードやコード進行についての知識があれば、音楽への理解が深まるのは間違いない。
2. 曲を体系的に整理することができる
音楽の特徴を言葉で表現するのは難しい。ジャンルごとにカテゴライズしたり、かっこいい、きれい、明るい、といった抽象的な表現で形容したりすることが多いと思う。
しかしコード進行の知識があれば、音楽のジャンルにかかわらず、
- 「サビの頭がIV△7で始まる曲」
- 「ジャズ的なリハーモナイズがされている曲」
- 「曲中で何度も転調する曲」
このように、使われている楽器やサウンド感に惑わされることなく、曲を体系的に整理することができるようになる。これができると、ジャンルごとの区別に留まらない、その人独自のカテゴライズが可能になる。勉強のために音楽を聴くようなときに、非常に役に立つ。
3. 曲作りに役立てられる
インスピレーションを与えてくれる
何も考えずに普段通り作曲をしていると、手癖に影響されてしまい、使うコード進行やメロディが似通ってきてしまうことがある。
普段使わないようなコード進行で曲を作ってみると、思いもよらないメロディが出てきて予想外の良い結果につながることがある。
コード進行に限ったことではないが、曲作りのときに条件を固定することで、作業が捗るケースは多い。
コード進行の引き出しの多さが音楽性の豊かさにつながる
アレンジャーなら、間奏やイントロも考える必要がある。
ポピュラー音楽では、曲中のほぼ全ての部分に何らかのコードが存在する以上、コード進行の引き出しの多さは、音楽性の豊かさに直結すると言っても過言ではない。
どんなジャンルでもこなす必要がある職業アレンジャーならば、コード進行を分析して血肉にする作業はマストだろう。
フレーズを力技で生み出すことができる
コード進行の引き出しがあれば、フレーズ作りにも役に立つ。
スランプで何も浮かんでこないときでも、コード進行に導かれるように音を紡いでいけば、どうにかしてフレーズは生み出せる。特に仕事で音楽を作っている人なら是非習得しておきたいテクニックだ。
4. 音楽理論が習得しやすくなる
音楽理論とは、「既存の曲をいくつも分析して見えてきた共通点」を体系的にまとめたものだ。音楽理論ありきで音楽が作られているわけではないため、曲のコピーすらしたことがない人が理論書を手にとったところで、思うように頭に入ってこないだろう。
※音楽理論はあくまで帰納的な概念だということを忘れずに。
好きな曲のコード進行を分析した経験が多ければ、それらの実例と照らし合わせることができるため、音楽理論をイメージしやすくなる。
音楽理論を学ぶ前に、好きな曲のコード進行を数十曲程度、分析してみる。それだけで音楽理論(コード理論)が一気に習得しやすくなるはずだ。
おわりに
初学者の頃は、コード進行を分析しただけで音楽の全てを理解した気分になることがある。J-POPのヒット曲のコード進行はいくつかのパターンに収まることが多いので、その事実を知って落胆したことがある人もいるかもしれない。
しかし、コード進行というのは音楽の中のひとつの要素に過ぎない。
定番のコード進行をテンプレート的に用意して、その上にいい加減に音符を置いても良い曲にはならない。作曲では、いかにコード進行という背景の上で優れたメロディを奏でられるかが大事になってくる。これを作る能力やセンスが、作曲家としての価値そのものだと僕は考えている。
音楽を聴く際に、理論的な分析が先立つよりも、
- 「好きな曲を分析してみたら、他の曲と同じコード進行だった」
- 「曲がジャズっぽいとお客さんによく言われると思ったら、メジャーセブンスを多用していた」
このように、後づけの理論として音楽理論を捉えるようにするのが良い。
音楽をより楽しむための道具として、コード進行を分析してもらえれば嬉しい限りだ。