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Audiostock審査合格率100%の作曲家が伝授!ノイズが原因のリテイクを回避するコツ

ここ最近、ひっそりとAudiostockで楽曲のライセンス販売を行っている。自分のペースで活動することができるし、ストック型の収入を得ることもできる。自力で録音作品を生み出せる音楽家にとっては、なかなか良いサービスだ。

Audiostockのノイズ判定は厳しめ

Audiostockでは楽曲をライセンス販売する前に、審査が行われる。審査を通過しなければ、楽曲をライセンス販売し、収益を得ることはできない。

セミプロ~プロの音楽家の実力を基準とするならば、音楽的に問題のない作品であれば、基本的に不合格になることはないだろう。

しかし、音楽的に問題のない作品であっても、リテイクをもらうケースはある。リテイクをもらう最大の要因は、音源にノイズが入っていると判定されることだ。一般的な録音作品では許容されるレベルのノイズであっても、Audiostockの審査だとNGになるかも……という印象だ。



ノイズによるリテイクをもらう事例

さて、記事のタイトルにもあるとおり、僕のAudiostockにおける楽曲の審査合格率は100%だ(2024年4月時点)。これまでアップロードした楽曲は100曲を超えているが、最終的にはすべての楽曲が審査を通過し、ライセンス販売に至っている。

※なお、ここで僕のアカウントを公表するつもりはないので、あしからず。

そんな僕でも、ノイズが原因のリテイク依頼をもらったことはある。その事例を見ていきたい。

1. 宅録アコギの環境ノイズを除去していない

特にリテイクの原因となりやすいのが、宅録のアコギ(アコースティックギター)の環境ノイズだ。僕はパソコンのある部屋でアコギの宅録を行っている。そのため、パソコンのファンの小さなノイズも、アコギの演奏と一緒に収録されてしまう。

そのノイズは、一般的な音量で音楽を聞いている限りは、気にならないレベルだ。しかし、Audiostockの審査基準だと、その微細なノイズでもNGとなってしまうようだ。

とりわけ、楽曲終わりのフェードアウト部分では注意する必要がある。アコギの音が減衰していくと、最終的に楽器の音量レベルは、ノイズの音量レベルを下回ってしまうことになるからだ。

Audiostockで楽曲を販売するためには、宅録素材の環境ノイズは除去しなければならない。ノイズ除去の具体的な方法だが、次の記事の「エレキギターのハムノイズを除去する方法」でも紹介している、iZotope RXの「Spectral De-noise」というモジュールを使えばOK。

iZotope RXはギター録音に必須。超優秀なノイズ除去ツールです

簡単にいうと、環境ノイズだけを録音し、それをRX Spectral De-noiseに読み込ませることで、アコギのトラックからノイズ成分だけを除去できる仕組みになっている。

Spectral De-noiseの「Reduction」のパラメーターにオートメーションを書いて、楽曲終わりのフェードアウト部分でノイズ除去の度合いを強くしてやれば、完璧だ。

僕はこの手法を取るようになってから、宅録のアコギを使った作品であっても、一度もノイズによるリテイク依頼をもらっていない。

コラム:アコギはノイズが出やすい楽器?

そもそもアコギは、比較的音量が小さい楽器なので、S/N比が低くなりやすい。たとえば、アコギの名手「トミー・エマニュエル」の作品を聴いても、ノイズは結構多いことが分かる。※僕がリテイクをもらった作品以上に、大きめのノイズがハッキリと聴こえる。

例えば、彼の「I Can't Stop Loving You(Spotify)」では、楽曲終わり部分に「サー」というノイズが入ってることが分かると思う。

Audiostock基準だと、たぶんこの曲はリテイクをもらってしまう……と思う。

2. フェードアウトを書き忘れている

楽曲の終わり部分には、きちんとフェードアウトを書いておこう。さもないと、リバーブの余韻などがバッサリと途切れてしまい不自然になる。

画像のようにマスタートラックにボリュームオートメーションを書き、音が次第に小さくなるようにすればOK。

フェードアウトをきちんと書くことは、Audiostockのガイドラインでも推奨されている。

小さな音量でも、余韻の末端やトラックが存在しない箇所にホワイトノイズやその他微細なノイズが入ることがあります。
マスタートラックでフェードアウトの処理を施してください。

出典:音源データ作成における注意事項 (ノイズや末尾処理など) | Audiostock(オーディオストック)

3. アウトボードのノイズ(無音部分)を除去していない

僕はミックスにアナログの質感を加えるために、キックやスネアをアウトボードで処理することがある。アウトボードを通したときに生まれるような微小なノイズであっても、きちんと処理しなければ、リテイクの原因になってしまうようだ。

楽曲を構成するトラックの1つである、スネアの無音部分のノイズは、-74dB程度だ。さほど大きなノイズではないかもしれない。

しかし、それが3~4トラック分蓄積してしまうと、2mix全体では無音部分のノイズは大きくなる。

上のトラックがリテイク前。下のトラックがリテイク後のものだ。上のトラックくらいノイズレベルが大きいと、Audiostockはリテイクを依頼してくる。

僕が講じた対策だが、アウトボードを通したトラックについては、無音部分をきちんとトリミングした。2mix基準で、上記画像の下のトラックになる程度までノイズレベルを落としたところ、楽曲は無事に審査を通過した。

参考までに、リテイクをもらったマスター音源のノイズレベルは、-58.7dB程度だ(2mixのピークレベルは、-0.1dB程度)。無音部分のノイズレベルがこのくらい大きいと、AudiostockではNGになるということだ。

ひとまず、波形をMAXに拡大した状態でも、無音部分の振幅がちゃんと見えてしまうのは良くない。無音部分のトリミング処理は、忘れずにやっておきたい。

4. ギターの開放弦の余韻が残っている

これまで紹介したチェックポイントはすべてクリアしているのに、なぜだか審査に通らない……一体どこがノイズと判定されているのだろう……そのように僕を悩ませた楽曲も、1曲だけある。

結論としては、「エレキギターのトラックの楽曲冒頭の部分に、開放弦の余韻が残っていたこと」が原因だった。その曲においては、冒頭の開放弦の余韻が、ノイズと判定されてしまったようだ。

エレキギターのトラックの冒頭部分の波形は、次のようになっている。

例によって、トリミングを実施。アウトボード由来のノイズだけではなく、開放弦の余韻もカットした。エレキギターの演奏箇所に影響が及ばない程度に、無音部分をできる限り除去した。この対策によって、楽曲は無事に審査を通過した。

これは僕の予想に過ぎないが、Audiostockはツールによるノイズ判定を自動的に行っていると思う。おそらく、「本来無音であるべき部分に、-60dB以上のノイズがある」→「ノイズNGの判定をしよう」みたいなアルゴリズムになっていると思う。

無音部分のノイズ(or ノイズと疑われるような音)は、きちんとカットしよう。生演奏のトラックを含む楽曲の場合は、特に注意したいポイントだ。

ノイズに気づくための工夫

ここまで、ノイズによるリテイクをもらった事例を見てきた。では、そもそもどうすればノイズを見逃さずに済むのか?根本的な対策方法を紹介しておきたい。

楽曲終わりのフェードアウト部分で、モニター音量を大きくして、ノイズがないかじっくり聴いてみる

原始的な対策方法だが、最も効果的だと思う。実はこれ、ミキシングの教科書ともいえる『The Mixing Engineer's Handbook』でも紹介されているテクニックだ。

※洋書だが、とても良い本なので、ミキシングがうまくなりたい人はKindleの和訳機能を使うなどして読むことをオススメします。

『The Mixing Engineer's Handbook: 5th Edition』

Bobby Owsinski(著)




おわりに

巷で語られているとおり、Audiostockのノイズ審査は厳しめ。的確にノイズを除去し、無駄なアップロードをしなくて済むよう心がけたい。