ピアノの練習をしよう。作曲やアレンジなどの音楽制作を行う人が、ピアノを弾けることのメリットは多い。
プロでもアマチュアでも、ポップスを作る人であっても、ロックバンドで作曲を担当している人であっても、誰しもピアノを習得するだけで、曲作りは断然やりやすくなる。ピアノを全く弾けない状態の人が初心者レベルになるだけでも、曲作りにおいては大いに役に立つ。
今回は音楽制作において、ピアノを弾けることのメリットを挙げていく。
目次
ハーモニーやアンサンブルを考える上で圧倒的に有利
音楽の三大要素は、リズム、メロディ、ハーモニーだ。音楽を新しく作るときは、必然的にこれらの要素も考えることになる。リズムやメロディを表現できる楽器は多いが、ハーモニーを考えるためには、和音を演奏できる楽器を使う必要がある。
それに適しているのが鍵盤楽器。中でも最適なのはピアノだ。
ギターでも和音は鳴らせるが、同時に最大で6音までしか鳴らすことができない。ボイシングにも制約があるし、複雑なテンションコードやアッパーストラクチャー的なコードを表現するのは難しい。またギターは、メロディと和音を同時に演奏するのが難しく、その自由度も鍵盤楽器に比べてはるかに低い(クラシックギター奏者を想像すると分かりやすい)。
ギタリストならばギターで作曲したくなる気持ちもわかるが、優れた作曲家になりたいのであれば、ピアノで作曲できるようになることをオススメする。指で押さえるだけで音が鳴り、ダンパーペダルで音を伸ばせるというピアノの特性は、ハーモニーを考える上では圧倒的に有利なのだ。
DAWを使わずとも、大まかなハーモニーを確認することができる。これは作業効率上、大きなメリットになる。
複雑なボイスリーディングを含むような和声だと、ピアノでも再現しきれないこともあるだろう。しかし、オーケストラのスコアリーディング(曲全体を確認する作業)でもピアノを使うことから、音楽を"確認"する上で、ピアノより優れた楽器は無いと言っても過言ではない。
ピアノを弾ければ、ちょっとハーモニーを確認したいときでも、軽く鍵盤を叩いてみるだけで済む。ボイシングやリズム、ダイナミクスを少し変えたりして試行錯誤することもたやすい。その都度MIDIを打ち込みシーケンサーを走らせて聴くのと比べて、はるかにシンプルで効率が良い。
MIDI打ち込みの作業効率が格段に上がる
普段マウスでMIDIノートを入力している人は、ピアノを練習し、リアルタイム入力をマスターすることをオススメする。そうすれば打ち込みの効率は飛躍的に高くなる。
MIDIキーボードでリアルタイム入力をする場合、30秒のセクションならば、30秒あればMIDI入力が完了する(細かなCC情報は除く)。多少リズムがズレていても、簡単にクオンタイズもできる。特にピアノやエレピ、オルガン等の鍵盤楽器の打ち込みにおいては、リアルタイム入力は断然有利だ。
もちろん、その他の方法で素早くMIDI入力をすることも可能かもしれない。しかし、リアルタイム入力ならば、必然的に曲のリズムやハーモニー、メロディーを感じながらMIDIを入力することになる。作業をするたびに、体に音楽を叩き込むことができる。これは音楽制作というクリエイティブな作業をする上で、大きな優位点であるのは間違いない。
また、ピアノやエレピのようなパートを打ち込むとき、マウス入力だと、人間が演奏したような演奏データに調整するのは難しいものだ。(ベロシティや音価、リズムのばらつき等の要素が機械的になりやすい)。生っぽいニュアンスを出すのであれば、自分で鍵盤を演奏してMIDIデータを入力するのが一番良い。たとえ演奏データが上手でなくても、それを修正するほうが効率が良い。
ピアノパートに限ったことではないが、鍵盤の演奏能力が高ければ高いほど、MIDI入力の作業効率も高くなる。音楽制作者なら、ピアノが上手いに越したことはないのだ。
耳コピが得意になる
曲作りをするためには、日常的に既存の曲を分析したり演奏して自身の血肉とし、音楽的な感性を高めていくことも大事になってくる。曲のコード進行を分析するメリットについては、このブログでも以前記事を書いている。
ピアノが弾けるようになれば、コード進行分析に必要な「耳コピ」の作業も一気にやりやすくなる。曲に合わせてコードを弾けば、そのコードが合っているか外れているか、瞬時に分かるからだ。
厳密にコードネームを確定するには、コードの構成音を一音ずつ聴き取っていくようなハイレベルな聴き方も必要。しかしそういった作業をする上でも、ピアノを弾けるかどうかで効率は変わってくる。
他の楽器を使って耳コピをすることもできるが、前述の通り、ハーモニーを確認する手段としては、ギターはピアノには及ばない。ギターだと必ず両手がふさがるのもイマイチなところだ。
おいしいメロディを戦略的に生み出しやすい
音楽理論の教本は数多くあるが、良いメロディを生み出す方法については特別語られていない。とはいえ、作曲を理論的な観点から行うときに重要なのが、「コードに対して、メロディがどのテンションノート(9th等)になっているか」ということ。
たとえば、「ルート音とメロディの音が同じ音の場合、ハーモニーに広がりが生まれない」というのは和声を学んだ人なら知っていることだし、作曲が得意な人なら感覚的に理解していることだろう。
もしギターの弾き語りで作曲をしている場合、「コードのルート音とメロディの音程」を瞬時に把握するのは難しいはず(普段から訓練している人は別だが)。しかし、ピアノで作曲をしている人にとっては、こういった情報は常に鍵盤上に表示されているに等しい。これは良いメロディを考えるための大きなアドバンテージとなる。
もちろん、作曲においては自分の感性・感覚が一番大事だ。それでも、上手く行かないときや調子が悪いときに、論理的に考えを突き詰めることで、スランプを抜け出せることも多い。
アンサンブルの構造を視覚的に把握することができる
アレンジ(編曲)における大事なポイントとして、
- パートごとに音域を分けて、低域から高域までまんべんなく音を配置する
という考え方がある。何も考えずに音を重ねていくと、ある特定の音域に音が集中してしまい、全体のサウンドが団子状態になってしまうことも多い。
これを避けるには、全楽器の演奏音域について、ピアノの鍵盤と照らし合わせる癖をつけると良い。
- 歌メロはC4~C5の間
- ベースはE1~E2あたり
- ディストーションギターはE2~A3あたり
- オルガンはA3~E5
例えばこのように、あらゆるパートを鍵盤に置き換え、どのあたりの音域で音が鳴っているかを常に意識しよう。楽器をたくさん重ねていく場合でも、音の配置に無駄がなくなっていくはずだ。音域を意識した音の積み方ができれば、編曲のクオリティも上がっていくだろう。
譜面に強くなる
自分以外のボーカリストや演奏者の力を借りて音楽を完成させる場合、譜面を元にコミュニケーションを取ることも多い。特に管楽器や弦楽器を録音する場合は、玉譜(コード譜ではないオタマジャクシの譜面)が必ず必要になる。
ピアノを習得する過程で、必然的に読譜力も高くなっていく。五線譜をすらすら読めるようになれば、レコーディングのときも慌てなくて済む。
おわりに
楽器はとても奥が深い。ピアノという楽器を本当の意味で弾きこなすには膨大な時間と経験値が必要だ。プロのピアニストになろうと一念発起したところで、大人になってからそれを実現するのは難しいかもしれない。
しかし、作曲や編曲に役に立つレベルで、ピアノを「ちょっと弾ける」ようにするのは、意外と難しいことではない。ポップス系のプレイヤーには独学でピアノを習得した人も多い。
ピアノを独学で練習するための方法も、現代はインターネットで学ぶことができる。実際、僕も独学でピアノを練習し、作編曲に役立つレベルまでは弾きこなせるようになっている。
もしピアノを全く弾けないままマウスでDTMをやっているなら、ぜひピアノを始めてみてほしい。便利なだけではなく、音楽が楽しくなること間違い無しだ。