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【編曲】各パートの役割はほぼ4パターンに分類可能!このことを知っているとアレンジの悩みが減ります

楽曲のアレンジ作業をしているとき、次のように悩んだ経験が、きっと皆さんにもあると思う。

何か音を重ねたいけど、何を足していいのか分からない……

壮大なバラードを作りたい。でも各楽器に何を演奏させたらいいか分からない……

シンセだけで、どうやってオケを組み立てればいいいのか、まったく分からない……

そこで、アレンジを行う上で、知っておくと役に立つ基本ルールを紹介してみる。

楽器の役割(奏法)は4パターンだけ

先に結論を述べよう。楽器の役割は、おもに次の4種類に分類される

  1. 刻み
  2. 白玉(「しろたま」と読む)
  3. アルペジオ
  4. オブリガート

私たちが編曲(アレンジ)を行うときは、必然的に、各楽器に4つのどれかを担当させることになるのだ。

例えば、エレキギターの音色を想像してみよう。

曲調や、演出したい雰囲気に合わせて、ギタリストが次のように弾き分けるシーンはイメージできるはずだ。

  • にぎやかな曲なので、「ジャカジャカ~」とストロークをかき鳴らす:刻みの役割
  • それまでストロークをしていたけど、ラストのサビで少ししっとりさせたくなったので、「ジャラ~ン」と演奏する:白玉の役割
  • しっとりとしたバラードなので、「ポロロロ~ン」と音を1つずつ鳴らす:アルペジオの役割
  • キーボードがコードを演奏しているので、コード感を出す必要はない。そこで、歌のすき間に「タリラリラ~」と合いの手を入れてみる:オブリガートの役割

このように、同じエレキギターという楽器でも、演奏する内容によって、その役割は異なる。

さらに、アレンジャー目線で考えてみよう。冷静に考えれば、エレキギターに限らず多くの楽器が、これらの4つの役割のいずれかを担っていることが分かるはずだ。既存のオケに新しく楽器を重ねるときも、その楽器は、4つの役割のどれかを担当することになる。

そして、この4つの役割をいかにして組み合わせるかが、編曲の肝だといえる。

編曲という作業を構造的にとらえてみよう。全体のサウンドは、「4つの役割のいずれかを担当する楽器」が、複数組み合わさることで成立している。たとえ複雑で緻密に聴こえるポップスであっても、壮大なオーケストラであっても、このことは変わらない。

新しく楽器を重ねるときは、「4つの役割の中でどの要素を足したいのか」を考えよう。そうすればアレンジ作業で悩むことはグッと少なくなるはずだ。

MEMO
なお、厳密にはSEや非楽音といった4つの役割以外の要素もあるが、この記事では割愛する。あくまでも編曲の基本を押さえるための記事と捉えてほしい。



具体例:菅田将暉 「まちがいさがし」

言葉で説明されただけではピンと来ない人もいると思うので、具体例を挙げてみる。試しに次の曲を聴いてみよう。⇒ 菅田将暉 『まちがいさがし』 - YouTube

※米津玄師が作詞作曲(+編曲)を手掛けたヒット曲だ。

0:11~0:37:Aメロ

この曲は、サビが始まるまではピアノだけで伴奏が行われる。
Aメロの部分では、ピアノが「刻み」を行っていることが分かるはずだ。「チャン・チャン・チャン・チャン」と4分で刻むタイプの、バラードでは頻出のパターンだ。

0:38~0:48:Bメロ

ピアノが2分音符で刻んでいる。これは「白玉」に分類できる。

0:49~1:17:サビ

解説の題材として相応しいセクションが来てくれた。ここでは上モノとして次のような楽器が鳴っている。

  • エレキギター(Rch):「刻み」の役割。クランチ音色でストロークが行われている。
  • ピアノ:コードチェンジに合わせて、「白玉」で演奏している。1:04、1:10あたりでは「オブリガート」が演奏されている。
  • ストリングス:「オブリガート」の役割。独立したフレーズを演奏しつつも、歌の邪魔にならないように工夫されていることが分かる。

刻み」「白玉」「オブリガート」という、3つの要素がまんべんなく登場していることが分かる。このようにバランスよく各役割を配置していけば、少ないパート編成でも充実したアレンジに仕上げることができる。

現状のオケにどの役割が存在しているかを意識する

はじめに書いたとおり、「楽器の役割は4種類だけ」ということを意識しておけば、アレンジ作業で迷う時間を大幅に短縮できる。

たとえば、ギターがストロークをしていて、ピアノが4分で和音を刻んでいる場合。「刻み」の役割を持つパートが多い。もし次に音を足すなら、「白玉」がいい。ストリングスやオルガンを重ねてやれば、オケも充実するだろう。

あるいは、たとえばシンセがパッド音色で白玉を鳴らしていて、ストリングスも白玉で鳴っている場合。現状のオケには、「白玉」の役割が多そうだ。次に音を足すなら「アルペジオ」がいい。エレキのクリーンなり、ハープなりでアルペジオを重ねてやれば、オケも充実するだろう。

あるいは、ギターがアルペジオ、ピアノが4分刻み、ストリングスが白玉で鳴っている場合。一聴すると特に不足はないかもしれない。だけど、なぜだかプロの曲みたいにならない。そんなときは、「オブリガート」を考えてみる。

例として「Superfly - 愛をこめて花束を - YouTube」のサビ(1:28~)を聴いてみよう。サビの中間部(4小節目)にストリングスが「タララッ、タララー」というオブリガートを入れている(1:38)。これによって、曲が一気に引き締まっていることが分かるはずだ。歌の隙間を狙い、ここぞとばかりにカウンターラインを入れよう。

現状のオケにどの要素が不足しているか?」を見抜き、その不足している要素を足していく。こういった判断が、アレンジを進めて行く上では大切になってくる。



4つの役割について楽器ごとに見てみる

このセクションでは、各楽器が4つの役割を担当する際の、具体的な演奏内容について整理してみる。

1. 「刻み」に該当する楽器・奏法

ギターの場合

ストロークやカッティングは、アコギ・エレキともに頻出の奏法。

歪み音色では、ブリッジミュートを交えたパワーコードのバッキングもよく登場する。

ピアノの場合

ピアノも和音を刻んで鳴らすことが多い楽器だ。

ストリングスの場合

白玉が多くなりがちなストリングスだが、スタッカートで刻む奏法も忘れてはいけない。例えば「Viva La Vida/Coldplay」のストリングスのように、曲に躍動感を与えることが出来る。⇒ Coldplay - Viva La Vida - YouTube

ピチカート音色で刻むのも良い。静かな場面では効果的に使うことができる。

ブラスの場合

ブラスは刻みとの相性がとても良い楽器だ。休符を交えてリズミックに刻むとファンキーになる。

シンセの場合

シンセで音を刻む場合、プラック音色を使うのは定番だ。色々なジャンルで効果的に使うことができる。

また、シンセブラスっぽい音色で刻めば、派手なサウンドを演出できる。

2. 「白玉」に該当する楽器・奏法

ギターの場合

「ジャラーン」とコードを白玉で鳴らせばよい。

ピアノの場合

コードが変わる瞬間だけ、白玉でコードを鳴らす。弱く弾いてもいいし、強く弾いてアタック感を強調してもいい。

エレピの場合

エレピはアタックがまろやかなので、白玉との相性がいい。コーラスやトレモロを掛けて浮遊感を出すのも常套テクニックだ。

ストリングスの場合

白玉はストリングスにとっての王道な奏法だ。1stバイオリン・2ndバイオリン・ビオラ・チェロの4パートの編成が、ポップスではよく使われる。

ブラスの場合

ブラスは刻みの役割が求められることが多いため、あまり白玉では鳴らさない。※静かなところで白玉で鳴らすことはある。

シンセの場合

シンセパッドは白玉で鳴らすための基本的な音色だ。

3. 「アルペジオ」に該当する楽器・奏法

ギターの場合

アルペジオはギターの定番奏法の一つだ。エレキギターの場合、クリーンやクランチ音色で演奏されることが多い。クリーン音色の場合は、コーラスやディレイを使って浮遊感を出すのもいい。

アコースティックギターのアルペジオも、バラード等では良い感じになる。

ピアノの場合

意外と忘れられがちなのが、ピアノでのアルペジオフレーズ。ポップスでは刻んで演奏されることが多いが、アルペジオを鳴らして脇役的に重ねると、上手くオケに溶け込んでくれることが多い。

シンセの場合

「ドミソドミソドミ……」みたいなシーケンスフレーズも、アルペジオの一種と解釈できる。シンセリードの音色で演奏しよう。

ストリングスの場合

ストリングスの場合、4パートあるうちの2パート程度が、アルペジオ的に演奏していることはまれにある。あまり出てこないテクニックだが、使いこなせるとアレンジの引き出しが増えること間違いなし。

ハープの場合

ハープもアルペジオとの相性が良い楽器。ストリングス等のオーケストラ楽器が多いオケでは、ハープを取り入れると相性良くなじんでくれる。

4. 「オブリガート」に該当する楽器・奏法

ギターの場合

クリーンのオブリガートは、バッキングを演奏している人がそのまま担当することも多い。バッキングを少しお休みしてオブリガートを入れると、セッションギタリスト的でかっこいい。David T. WalkerやPaul Jackson Jr.のようなプレイを参考にしたい。

ディストーション(=リード)音色でオブリガートを入れるのもいい。ディストーションギターやシンセが鳴っているような激しい曲でも、オケに埋もれることなくオブリを鳴らすことができるだろう。

ピアノの場合

ギター同様、バッキングを演奏している人が、そのままオブリを演奏することも多い。右手をオクターブの形にして、高音域でハッキリとフレーズを弾けば、オブリを目立たせることができる。

シンセの場合

シンセではオブリを担当するトラックを専用に用意するといいだろう。音色や音量を自由に調整できるので便利だ。音色はシンセリードの音色を使うといい。シンセは、オブリを演奏する上での自由度が高い楽器だといえる。

ストリングスの場合

ストリングスはオブリを入れるのに、とても向いている楽器だ。

オブリを入れるときは、各パートのうちいくつかをユニゾンで目立たせよう。1stバイオリンと2ndバイオリンをオクターブでユニゾンさせることが多い。とはいえ、ビオラを加えてもいいし、チェロまで加えて4パート全員でオブリを演奏したっていい。

ブラスの場合

ブラスもオブリを演奏するのに適した楽器だ。音が抜けて聴こえてくるので、オケに埋もれることなくオブリを奏でられる。

たとえば、トランペット、サックス、トロンボーンの3管編成の場合。オブリを演奏するときは、全パートでユニゾンしてもいいし、1パートだけハモらせてもいい。

※少し高度なブラスアレンジを学びたい人は、下記の本を読むのがオススメ。


『コンテンポラリー・アレンジャー』ドン・セベスキー(著)